第169話 前略、心の形とパズルと
「心の形……ですか」
「うん、普段はどんな形なのかなって」
前にも似たような事を聞いた気がする。
でもその時は、詳しく形を聞くことはなかった。
リリアンが見えるという、人の心はどんな形をしてるんだろう。
「そうですね……形、というよりは光や炎のように見えます。大きくなったり色を変えたり」
んー……やっぱりそうゆう抽象的に見えるのか。
イメージ通りといえばイメージ通りなんだけど。
「どうして急に心の形を?さっきまでの話と関係があるのでしょうか」
「ん、あるよ。悪いけど、ちょっと付き合ってくれると嬉しい」
「分かりました」
まぁ、ないといえばないんだけどね。
だけどあるといえばある、仕方ない。
「ちょっと前にリッカが珍しい事を言ってたんだ。人の心は鏡だね、ってさ」
「鏡……人の心がですか?」
「うん、そう言ってたよ。楽しい人といると楽しい、誰かが慌ててると自分も慌てちゃう、多分この理論でいくと誰かが悲しいなら自分も悲しいんだ」
あたしには心なんて見えないけど、なかなか的を射た考えだと思う。
曰く、お前が笑ってないのに他の誰かが笑えるかよ。椎名先輩もそんな事を言っていた。
「なるほど……そういった事を聞きたかったんですね」
そう言い、リリアンは少しの間考え込む。
すぐに答えはでたらしい、リリアンは心を何に例えるのかな。
「やはり人の心は光や炎だと思います。色も勢いも形も光り方や熱量、その全てが違うもの。同じものなどない、それが心かと」
「なるほどねぇ」
「あえて一つの言葉で言うなら心は不定形なもの、でしょうか。……やはり具体性に欠けますね」
「ん?いや、いいんじゃない?多分、正解なんてないよ」
正解なんてない。
そのぐらいそれは複雑なものなんだと思う。…………うん、ちょっと卑怯。
「セツナは心を何に例えますか」
「うん、あたしはね、心に形ってのがあるならパズルだと思う」
「パズル、ですか」
「うん、パズル」
なにか言いたげにカチャカチャと、音が聞こえそうなくらい手を動かすリリアン。
リリアンならカチャカチャさせずとも一撃だろうに。
んー、認識の違い。あたしはパズルと聞けば知恵の輪のようなものより、ピースを繋げて絵を作るものを思い浮かべる。
「ごめんね、言葉が足りなかったよ。ピースをはめる方なんだよ」
「そちらでしたか。ふむ……難解なものだ。と言いたいのでしょうか?」
「んー……ちょっと違うかな」
難解なものではあるんだけどね。それだけじゃない。
「真っ白い部屋に真っ白いパズル、そんなイメージでさ」
「真っ白ですか、酷く難しいですね」
「ね、そんで隣も似たようなパズルをやってるんだ。ピースは自分の周りにあって、一つ一つ手探りではめていく」
端っこからはめたり、偶然見つけた二つをはめて、手元においておいたり。とにかく手探りに。
「でもね、半分くらいかな。それぐらいはめたら後のピースがどうしてもはまらない」
「ピースが足りないのではなく?」
「うん、ピース自体はいっぱいあるんだ。だけどはまらない」
リリアンは不思議そうな顔をしている。
当然だ、あたしもよく分からない。
「それではパズルが完成しません。誰が本当のピースを持っているのでしょう?」
スッ、と。
人差し指一本で答える。行儀悪いけど、演出として割り切ってほしい。
「私……ですか?」
「うん、後はそうだな……あたしの後輩とか上級生とか、友達とか、コッチに来て会ったいろんな人達とか」
「あぁ、なるほど」
多分、伝わった。
言いたいことを察してくれたと思う。
「元から自分一人じゃ完成しないパズルなんだよ。人からピースをもらって少しづつ完成させるんだ」
そして人からもらった場所になら、今まではまらなかったピースがはまるかもしれない。
そして自分の人生が終わった時に、いろいろ思い出しながらできたパズルに絵でも描くんじゃないかな。
さて、ここからは一人語りだ。
ホントは誤魔化したいけど、言わなきゃダサい。たまには格好良くいこう。
「あたしはさ、人がもう半分以上埋めてるのに、ほんの一割も埋めれてなかったんだよ」
他人と関わりたくなくて、一人で生きたくて。
「人あげれるピースもなかった。ただ一人で残った一つをはまらないはまらないって、何度も何度も」
そんな奴に、完成させられるハズもないんだ。
「だけどある日、無理やりあたしのパズルにピースをはめ込んだ人がいる。歪な形のそれを強引に」
「……音無椎名ですね」
ご明察。
勝手で無理やりで自分本位に。そんな出合いだった。
「次々に次々、そしたらあたしからもあげれるピースがあったよ。一つじゃなくて何個か、自分にあるはず無いと思ってた場所から」
多分、内ポケットとかそんなところから。
「お陰様で、半分くらい埋まったよ。といってもみんなはとっくに先に行ってるんだけどさ」
「…………」
「椎名先輩はあたしの恩人だよ。もちろん、それだけじゃないけどね」
リリアンが嫌そうな顔をしている。
直接的な言葉にはしないけど、嫌いなんだろう。
「ねぇ、リリアン。あたしにとってリリアンは何か、そう聞いたよね」
「……はい」
そんな顔しないでほしい。
あたしは喋るのが下手くそだ、元がそうゆう人間だから。
だけど頑張るよ、もう少しだけ頑張るよ。
「リリアンもあたしの憧れで……恩人だよ。一緒に居て、どうしょうもなくあたしの心は救われたんだ」
出合いが最悪だとか、どうでもいい。
いつだって大事なのは今だ、そしてその先だ。
「…………私はそんな事を言われるような事をしていません。セツナの心を救ってなんか……」
「いや、救われたんだよ」
曰く、誰かが、そんなありふれた言葉をかけてくれるのを待ってる。
全くもってその通りだ。大丈夫、リリアンがそれを認められないなら何度でも言うよ。
「あたしの物語がみたいって言ってくれた、怖くて諦めたあたしに弱くなったと言ってくれた、あたしの選択は間違ってないって言ってくれた、涙が必要なものだって教えてくれて、倒れそうなら支えてくれるって、信じてるって。他にもたくさん、たくさん」
たくさんたくさんたくさん、もらったんだよ。
「あたしはあたしのまま、ゆっくり変わっていけばいい。多分、それはあたしが一番欲しかった言葉だったんだよ」
今も何度も噛みしめる。
元の世界で貰えなかった。あたし自身も言われるまで、この言葉を求めてることすら分からなかった。
「ありがとう、リリアン。その言葉が行動が心遣いが、あたしの足りなかったものを埋めてくれたよ、二人合わせて八割くらい。ようやく人と同じ場所に立てたんだ」
だから、もう一度ありがとう。
何度言っても言い足りない、でもそれ以外に伝え方を知らないんだ。
「そうですか……そうですか……」
この答えに満足してくれたかな。
分かんない、もっと普通の友達に聞くべきだとは思う。
でもあたしも嘘をつくわけにはいかない。
そして今は誤魔化すつもりもない。それだけ。
昼間の友達のように、愛とか恋の話じゃないけど。
こんな気持ちがあってもいい。あたしはもう知ってるから、愛とか恋を知ってて。
これが似てるけど違う感情だって知ってるから。
だけど、そんなこと関係なくリリアンはあたしの大事な人だ。
それでいいだろう、これ以上は野暮だ。
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