第65話 前略、白と黒と

「えぇっとぉ……どちら様ですか?」


 あたしとリリアンの最高のコンビネーションは防がれた、何かに。

 ただならぬ雰囲気に大きく後ろに飛ぶ。


 その正体は……女の子だった。

 いや、正確には女の子の持っている武器だ。


 斧。

 そう表現していいのか分からない、あたしは武器に対する知識は薄いのだ。


 斧と聞けば短い持ち手、肉厚の刃、そんなイメージをあたしはする。

 その女の子の武器は長い棒、その先の両端に、期待を裏切らない肉厚の刃がそこにあった。

 その刃は禍々しい、そんな表現の似合う、不思議な形状をしていた。

 

 そして……


「リリアンの知り合いだったり?」


「違います」


 振り返って質問、すぐに否定が返ってくる。

 いや、聞きたくもなる、だって……


 白と黒が基調の服装。

 フリルが多いが、リリアンのメイド服になんとなく似ている、ゴスロリ、というのだろうか。

 

 いや、それよりも……その……


「ちょっと、目のやり場に困っちゃうね……」


 ちょっと、うん、ちょっとだけ露出が多い。

 足とか肩とか隠せてない。


「ふむふむ……」

 

 ジロジロ、あたしは目の前に現れた女の子を見る、肩とか足とか。

 もちろん他意はない、敵を観察して対策を講じているだけです。


「どこを見ていたか、正直に言いなさい」


 背後のリリアンから冷たい言葉、圧が……

 ここは黙秘権を行使しよう。


「どこを見ていたか、正直に言いなさい」


 1歩分、さっきよりも声が近くから聞こえる、圧は増していく。

 黙秘権、黙秘権。


「どこを見ていたか、正直に言いなさい」


 聞こえる声は、もう、すぐ後ろだ。

 黙秘権……いや、これ以上は命に関わる。


「すいません、胸見てました、……ちょっとだけ」


「ちょっとだけ?」


 首筋に当てられる大剣の刃。

 まだ間に合う、謝ろう。


「すみません、がっつり見てました、本当にすみません」


 ざっくりと開かれた胸元、その禁断は、同性のあたしから見ても素晴らしいもので、つい目がいってしまうのも致し方ないだろう。

 

 ……というか、なぜ同性の胸を見ただけでリリアンはこんなに怒っているのか。

 戦いの中でふざけるな、ということだろう。


「えと…それであなたは?どちら様?」


 1度は無視された質問、もう1度聞いてみるか。


「…………シトリー」


 シトリー?名前だろうか、どちら様とは聞いたのだが、質問が悪かった、もう1度。


「えっと、シトリーはここで何をしてるの?」


 ここは戦いの場だ、ゴスロリの入る場所ではない。


「ラルム様の敵を排除するために」


 出会った頃のリリアンのように……それ以上に無感情に、ゴスロリの少女、シトリーは答えた。

 

 ラルム……様?なんだなんだ?いつの間にあいつはそんなに偉くなったんだ?

 いや、騙しているんだ、あの卑怯者は、勘が騒ぐ。

 あたしは勘がいい。


「騙されてるんだよ、シトリーは、ラルム君のやってることは……」


「知っています」


 ただの人殺しだ、そう続けようとした言葉は遮られた。

 知っています、なにを知ってるというんだ、人殺しのなにを。


「……知っています、ってなにをかな」


 冷めていく、心が。

 返答によっては……


「全て、ラルム様の研究を認めない学園への報復を」


「ッ!」


 駆け出す、コイツも敵だ。

 あたしの好きなこの世界の。


「落ち着きなさい」


 また首を引かれる、尻もちをついてリリアンを見上げる。


「許せない気持ちは分かりますが、冷静になりなさい、あの人は強いです」


「……ごめん」


 少しだけ、頭が冷えた。

 確かに、今はブーツも使い切っていた、まともにやれば勝ち目は薄いだろう。


「私が相手をします、異論はないですね」


「うん、ありがとう」


 あたしを落ち着かせる為だろう、リリアンはシトリーの相手を買って出た。

 あたしも気は抜かない、足には少し自信がある、スキを見つけて参加しよう。


「お待たせしました」


 リリアンは構え直して言う、シトリーに向かって。

 これからあなたを斬る、そんな強い意志を感じさせた。


 ゆらり、とシトリーは何も答えないまま、リリアンに飛びかかった。

 それに反応して大剣を振るうリリアン。


 白と黒のぶつかり合いが始まった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る