第63話 前略、声と共闘と
あたしがネオスティアに来てから見たもの。
村、街、遺跡。いろんなものがある世界だ。
だけどあたしがネオスティアを語るとして、1番大事で、素晴らしくて、誇らしいもの。それはやはり人だと思う。
温かい。この不思議で、あたしの世界と似ていて、やっぱり似てなくて、なんだが継ぎ接ぎだらけに見える異世界で。
他人に優しく、あたしもそうあろうと心から思える、そんな世界だ。
あたしはきっと、ネオスティアが好きだ。
だからこんな理不尽な事が起きていいはずがない。
空から落ちてきた炎は、あたしの視界を全て焼き尽くした。
今も炎は燃え盛り、そこに生命の入り込む余地はない。
「セツナさん……」
あぁ、呼ばれてしまった、これでそっくりさんの可能性は消えてしまった。
ドラゴンの背に乗る青い髪の男。
彼は間違いなく、あたしの友達であるラルム君だった。
「とりあえずここまで降りてきなよ、ぶん殴る」
自分のものとは思えないほど、冷たく、低い声だった。
大丈夫、大丈夫。あたしはこんな事ぐらいで友達をやめない、ぶん殴って正気に戻そう。
…………いや待て、こんな事ぐらいって、何言ってんだあたしは。
こんな事くらいですませていいわけない、記憶が薄れてるとか、抜け落ちてるとか以前の問題だ。少し落ち着け。
「殴られる理由はないと思うんですけど」
言いながら軽く杖を振る。ドラゴンは消え、ラルム君はゆっくりと降りてくる。
まだ届かない、もう少し近づいたらあたしの距離だ。
「どうですかセツナさん、夢を叶えました。僕はあなたのような主人公になりました」
降りてきたラルム君は、手を大きく広げて言う。
あなたのおかげです。
ラルム君は本当に、心からそう思っているように頭を下げた。
その声、言葉、仕草、全てに腹が立つ。
「そうだ!今から一緒に旅をしましょう!一緒にドラゴンの背に乗って……」
あたしが次の言葉を発する前に、ラルム君はそんな事を言い出した。
まるで本当にいい提案を閃いたような、晴れ晴れとした表情で。
あぁ、そうか、君は……お前はあたしの友達なんかじゃない、お前は敵だ、この温かな世界の害だ。
こんな状況で、怒りよりも苛立ちを強く感じる。
嫌だ嫌だ、こんな考えは。黒くて暗くて寂しい感情だ。
でも仕方ない、コイツは敵だ、紛れもない事実だ。
「だ「黙りなさい」
黙れ。昔のように強い言葉を発そうとした時、声が聞こえた。
その声はいつもは静かで冷たくて、淡々としていて、あまり感情を感じさせないが。
その声は、本当は優しくて、ネオスティアの例に漏れず温かな、そんな持ち主から。
その声は、確かな怒りを感じさせた。
「リリアンさん、あなたには話してませんよ」
話の腰を折られ、苛立ったようなラルム君はリリアンに厳しい目を向ける。
「私もあなたとなんて話したくありません。ただ、あまりに聞くに耐えないものなので」
リリアンもその目を睨み返す、その瞳には怒り以外の感情も感じさせる。
「同じような主人公、バカな事を言わないで下さい」
リリアンは1度あたしを見て、もう1度ラルム君の方を見る。
そしてまた何か言いかけたけど、すぐに別の音の言葉を発した。
「……この人は誰かの為に本気になれる人です。間違っても自分の夢の為に誰かを傷つけない」
あなたと同じなんかじゃない。と続けるその言葉にあたしは冷静になれた。そして嬉しい、嬉しいんだ。
「ありがとうリリアン、あたしの為に。そういえばさっき止めてくれた事もお礼を言ってなかったね、ありがとう」
おかげで死なずにすんだよ、伝えて笑いかける。
そして、黙れ、なんて強い言葉を本気で言わずにすんだ。もう一人じゃなかった。
「好き勝手いいますね、ですが僕だって主人公だ」
ラルム君は苛立ちを隠さずに杖を振るう、あたしたちの周囲に無数の魔法陣が現れる。
すぐにその魔法陣からは翼のないドラゴン……いや、凶暴なトカゲのような魔物が姿を表した。
彼がこんな事をしたのはあたしのせいなのか?
あたしの選択は間違っていたのか?
あたしは、彼の夢を否定するべきだったのだろうか……
後ろ向きな考えばかりが頭をよぎる。
「気にする事はありません」
リリアンはあたしの隣で言う。
「あなたの選択は間違っていません」
リリアンはあたしが間違ってないと言う、その真っすぐな視線はとても優しげで。
あたしに前を、明日に向かせてくれた。
「うん……ありがとう」
「今回は私も戦いましょう」
それなりの時間を過ごしたけど、一緒に戦うのは初めてだ。
「うん!初めての共闘だし、ド派手にいこう!」
片手剣をくるくる、放り投げて、キャッチ。
こんな時だから、少しでも明るくいきたくて。
「そんじゃあいっちょいきますかー!」
いつもの掛け声、たまになにか返してくれる人がいるけど。
何も答えなくて構わない、隣にいてくれるなら。
「そうですね、少し派手にいきましょう」
返ってくるとは思わなかった返事に、思わずリリアンを見る。
その横顔は少し楽しげで、愛用の黒い大剣を、あたしよりも優雅に回して。
「それでは1つ、参りましょう」
リリアン風にアレンジされた、お決まりの掛け声が、耳に心地よく響く。
あたしを見つめ返すその黒い瞳は、こんな状況でも相変わらずに美しい。
その高揚感のままに、あたしたちはトカゲのような魔物に立ち向かった。
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