第45話 前略、友達と背中と

「久しぶり、ギン。元気だった?」


「セツナ……」


 倉庫への道の途中、ギンが立っていた。

 どうやら先に行かせる気はないらしい。


「セツナ、俺はよ……」


「ごめん、前にも言ったけど告白なら後にして、やらなきゃいけないことがあるの」


「だからちげぇよ!自惚れんな!なんだよその自信!」


 出会いがそんな感じだったからか、ギンに会うとついボケたくなってしまう。

 いつも変人たちに振り回されてるなで仕方ない事だ。諦めてもらおう。

 

 あ、そう言えば聞きたい事があったんだ。


「そういえば、『テンカ』の男はみんな木刀なんじゃなかったの?チュウテツさんハンマーだったよ?」


「それは……悪かった……」


「やっぱり嘘じゃん!この金髪!」


「その……そういう勢いだったんだ……すまん……」


 そもそも木刀しかないなら鍛冶師はいらない。

 やっと疑問は解消されたし、謝罪も受け取った。もうこれ以上ここにいる理由もないし、先に進むとしよう。


「仕方ない、許そう。じゃあ!あたしは先に行くよ!」


「おう!達者でな!」


 ギンに別れを済ませて先に進む。目指すは倉庫、そう遠くはないしさっさと行こう。


 走り出して、ほんの少しして後ろの方から……


「待て待て待て待て待て!!!そんな訳ないだろ!?」


 ギンが走ってきた、もうそのイベントは終わったはずなんだけどなぁ。


「お前すげぇな!なんであんなシリアスな顔した俺をスルーできるんだよ!」


「え?あれってギンがあたしに、嘘をついたことを謝るイベントじゃないの?」


「んなわけねぇだろ!」

 

 デスヨネー、わかってた。


「でもさ、あたしはできることなら友達と戦いたくなんてないよ」


 おふざけは終わり、向き合って、あたしの気持ちを伝える。


「友達……まだ俺を友達だって言うのかよ……」


 そんなの当たり前だよ?、前置いて続ける。

 思えばギンもあたしを守ろうとしていた、この街からアニキさんから。


「それにギンもこの街が正しいとは思ってないんでしょ?本当はさ」


 もし違うならあたしの手は借りない。借りたとしてもすぐにテンカ塾へ送ろうとしたはずだ。

 そこまで考えて思いつくギンがここにいる理由。


「そっか、だからここにいるんだね。あたしを止めるために」


 おそらく、アニキさんあたりに言われたのだろう、あたしと仲良くしてたこと、この街に不満があること。

 そうじゃないと言うならあたしを止めろと。


「あぁ、そうだ。俺はセツナを止める。『テンカ』が、アニキが正しいと信じてるから!」


 あぁ、そうだね。傍から見るとわかる。

 これが迷ったり、怖がったりしながら戦おうとする人なんだね。

 きっと少し前のあたしは、みんなの目にはこんな感じに見えていた。


 なら助けてあげよう、久々にこれはあたしの手が届くことだから。


 ギンが木刀を構える、それはまるで恐怖を紛らわせるように。

 あたしも構える、前にいる友達の抱える、恐怖を払いたくて。

 

 まったく、いつまであたしは木刀で戦わなくちゃいけないのか。


「いくぞ!」


 その気持ちはわかる。

 怖いから、迷っているから自分から動くんだ。立ち止まれば、その感情に飲み込まれてしまいそうで。


「馴染まない武器だけどさ、ごめん」


 その戦いは静かに、一瞬で終わった。

 1歩の踏み込みを爆発させ、ギンの木刀を払い、懐に一閃。

 悪いけど、もう立ち止まる気はない。


「よし、あたしの勝ちだね」


「あぁ、そんで俺の負けだ」


 倒れたギンと話す。なんだか諦めたような表情に、あたしは先に急ごうとする足を止める。


「なぁセツナ、なんでなんだろうな。俺さ、アニキの考えがさ……なんか嫌なんだよ」


 あんなに尊敬してんのによ……

 その言葉は諦めと、悲しみと、他にもいろいろな感情が感じ取れた。

 残念ながら、そのどれもが前向きな感情ではなかった。


「セツナ、お前はなにが気に入らないんだ?俺にはわっかんねぇよ。自分の気持ちも……」


 こんな風に素直にわかんないと、迷ってると、人に聞けるのは良いところだと思う。

 

 あたしのようにうじうじと悩まないで、それを解決したくての行動だと思う。

 なら答えよう、あたしの考えを。迷いの、怖がりの先輩として。


「戦わなくていい世界、適材適所。いい言葉だと思うよ。でもさ……」


 あたしは考えに考えぬいた答えを伝える。


「やりたくないことから、苦手なことから、向いてないことから、できないことから逃げて。それを他の人が勝手にやっちゃうのってさ、人から変わる機会を奪うのとなにが違うのさ」


 多分、あたしの方が正しくない。わかっていてもあたしはそう考えた。

 

 人間なんだ、立ち止まったり、遠回りしたりするのもたまにはいい。最後に前を向けば。

 むしろあたしなんて立ち止まって、遠回りばっかりだ。でも前を向いてる。

 

 でも、これはやるな。と言われてそれを強制されたら、それは前を向いてると言えるのだろうか? 


「だからあたしはこの街が気に入らない。アニキさんに言いたい事を言って、後のことはそっから考えるよ」


「そうか……そうだな……」


 ギンの納得のいく答えを出せたのだろうか?

 わからない、それはあたしの決めることじゃない。


「セツナ、俺はどうしたらいいかな?ずっとアニキの背中を追ってきた、それが信じらんないなら誰を信じていけばいい?」


 それは自分で考えることだし、わからなければ自分を信じればいい。

 そう伝えてもギンはまだなにか悩んでいるようだ、仕方ない。


「自分を信じれないならあたしがなるよ、あたしの背中を追えばいい。自分に自信がつくその日までさ」


 本当はちょっと荷が重いけど。虚勢を張って、自信があるように、胸を張って伝える。


「セツナ……」


 うん、これでいい。後は自分で考えるべきだ。

  

 先に行くよ、1言残してあたしは倉庫に走る。ギンが立ち直れると信じて。

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