第44話 前略、気合と新技と
「こう言っていいのかわからないのけど。セツナちゃん、あなた強くなったわね」
ラヴさんは戦いの後でそんな評価をあたしにくれた。
強くなった。その言葉は少しだけあたしの心に影を落とす……ちょっと前のあたしならね。
「はい、あたし強くなったんです」
みんなのお陰でね、そう付け加える。そして。
「ラヴさんのお陰でもあります、いろいろ教わりましたから」
「生徒にそう言ってもらえると嬉しいわ〜♡もちろん、セツナちゃんが頑張ったんだけどね♡」
「待ってください」
あたしとラヴさんの、生徒と講師の会話にリリアンが入ってくる。
なんだろうか、自称師匠からも言いたいことがあるのかな?
「あなたの生徒である前に私の弟子です。つまり今回の勝利は私のお陰でもあるでしょう」
台無しだった。いきなり何を言い出すんだこのメイドは。……今はメイドじゃなかった。
なんにせよ、今言うことではない。
「リリアンちゃん……台無しよ……」
あたしとラヴさんが2人してそんな視線を向けても、当の本人はさも当たり前のような表情で、あたしたちを見つめ返して。
「よして下さい。お礼だなんて」
「「言わないよ(わよ)!!」」
相変わらずのリリアンにツッコミを入れる。
このメイド、仲良くなるたびに、シリアスができなくなってないだろうか?
「よし、そんじゃあ行こうかな!」
「もう止めるのは無粋ね、頑張ってらっしゃい」
送り出してくれるラヴさん、その目には少しだけ心配がみえる。
「心配しないで、あたしには新技『セツナスラッシャー』があるからね」
だから安心してほしい……んだけどなんで2人ともそんな顔してるの?
「………………」
「この師匠あってのこの弟子ね」
ゆっくりとリリアンはこちらに近づき、あたしの目の前で
「ダっっっっっっっっっっっサい、です」
そんなに溜めて言うことだろうか……
視界が滲む。これはさっきまでの戦いで感動しただけであり、リリアンの言葉は関係ない。
いや、そもそも泣いてない。悲しくない、悔しくない。本当に……許して……
「そ、そうかな?あたしは格好いいかなぁ〜って」
「そうですか。ならあなたをスラッシュしてあげましょう」
「なんでそうなるの!?」
どこからか大剣を取り出し、素振りを始めるリリアン。
あたしの新技はとんでもなく不評だった。しばらくの間、3人で名前を考えることにした。
こんなことをしてる時間はないのだけど……
「じゃあ新技じゃなくて新スキル扱いで、しばらく名前はつけない感じで……」
「まぁ……」「はい……」
残念ながら新技の獲得とはならなかった。(2つ目の『セツナソニック』は秒で却下された)
まぁ、スキルが一つ増えただけでも儲けものである。ネオスティアは技術をポイントで手に入れることに不親切だ。
ゲームのようにはいかないんだね、スキルボードとかあるのに。
「じゅあ今度こそ行くよ」
「えぇ行ってらっしゃい」
見送ってくれるラヴさん。あ、そうだ。
「今度はプリンが食べたいです。大好物なので」
クッキーも美味しかったけど、美味しいものを食べたら欲がでるのが人間だ。
冒険の報酬に美味しいプリン、なんともやる気の出る話だ。
「えぇわかっ「わかりました」
ラヴさんの答えに、リリアンの言葉が被さる。
あぁ……嫌な予感が……
「あなたの為にプリンを作って待っていましょう。それを目指して頑張りなさい」
嫌です。言えない、言ったら今死ぬ。
「えっと……リリアンは一緒に行かないの?」
「行きません。ここで少しだけ足りない家事スキルを磨いて待ちます」
「少しだけ……?」
なにか?と返すリリアンに、あたしは黙ることしかできない。目が本気だよ……
「私はいつもどおりここで、見て、聞いています。あなたの物語を」
前から思っていたけどどうやってあたしの冒険を見ているのだろうか、そこでしか話してないような事も知ってるし。
いい機会なので聞いてみることにした。
「こう、気合を入れると見えます」
へぇ、気合すごいなぁ……
「わかった。じゃあ行ってくるから見ててね」
「はい、行ってらっしゃい。見てます」
立ち直り、進み始めたあたしは、もう一度武器を取るために倉庫へ向かうことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます