第16話 前略、依頼とイケメンと
初めての酒場で美味しいスイーツショップの場所を聞いてきたあたしは、孤高なる暗黒騎士と共に目的地へ急ぐ。
それをリリアンに伝えると複雑そうな顔をして見送ってくれた。
道中、孤高なる暗黒騎士から足音がしないことを不思議に思い、聞いてみる。あんなに重そうなのに。
「生業ゆえな、もし時間があれば伝授しよう」
「嬉しいな、楽しみにしてるよ!」
元の世界に戻っても便利そう。ほら、抜け出すときとか。それにしても。
「プリンとか食べるんだね」
まぁ、世界共通にして、万能の食べ物であるゆえに、我ながら愚問なのだが。
それでも、男性?そもそも人間?が食べるイメージはあまり浮かばない。いや、些細な問題か。
「我自身はあまり食料を必要とはせぬ、しかし」
遠くを見るような、孤高なる暗黒騎士。
「子供たちがな、食べてみたいと、所謂おつかいである」
その視線彼方には、子供たちが待っているのだろう。
「いい人なんだね、子供好きなの?」
だんだんとプリンによるテンションのブーストが落ちてきて、少しだけ生まれていた恐怖は話す内に薄れていた。
プリンに関わる人に悪人はいない。至言である。
あたしは答えのわかっている質問をしてみる。もちろん、嫌いなはずがないだろう。
「うむ、宝である」
予想よりも強い肯定、だからあたしにも優しいのかな?
「故に、その背のカゴ。誰かに強要されてるなら話しをつけてやろう」
あたしの背負う石入りのカゴをみて言う。やっぱり優しい、ちょっと怖いけど。
強要といえば強要だけど、強くなれたのも事実だ、自分からやめる気はない。
「ありがと、でも大丈夫!特訓だから」
「鍛錬か、幼いのによくやる」
しばらくの間そんな話しに花を咲かせる。口調は硬いけど、孤高なる暗黒騎士は意外に話し上手だった。
「ここかな?」
酒場で描いてもらった簡単な地図、その地図の✕印の場所までたどり着く。
店の看板には『街のお菓子屋さん』これもまた、あたしの世界で見るような小さなお店だった。
さぁ、行こう!と入ろうとしたが、孤高なる暗黒騎士が入れない。身体が大きいから。
仕方なく、あたしが代わりを努めようと提案したところ、店員さんが店先まできて対応してくれた。まさに神対応である。
孤高なる暗黒騎士が店員と話してる間に、リリアンからもらったお小遣いで自分の分を買う。約1週間ぶりのプリンだった。
「幸せだぁ」
少しだけ、知ってる味と違いはあるけど、紛れもなくプリンだった。
卵が違うからだろうか?そこからしばらく、あたしは新しい味を堪能し続けた。
プリンはいい、いい意味で昔を思い出せる。
買い物を終えて、出てきた孤高なる暗黒騎士に別れを告げる。また会えたらいいな。
リリアンのもとに帰ろうと、酒場を目指す。その途中、曲がり角でなにかにぶつかる。
「おわっ……ととっ」
ギリギリ踏みとどまる。石入りのカゴを背負いつづけたバランス感覚を、なめないでほしい。
いやそれよりも。
「ごめんごめん、前を見てなかったよ」
駆け寄り、倒してしまった人に謝る。ただその外見をみて少し後悔する。
パツキンの不良だった。金色の髪と少しはだけたYシャツ、学生服のズボンと完全に夏服の不良だった。しまったなぁ。
「いや、こっちこそ急いでたからな、わりぃ」
ザッと頭を下げる不良。いい不良だった、きっと雨の日に捨て猫を拾う系だろう。
「オイ!ギン!何してんだ!」
後ろから一回り大きな不良。学ラン付きだった。
「すんませんス!」
ずんずん、とこちらに近づいてくる。
おっと、こっちの不良は許してくれないやつかな?
「女の子に倒されてんじゃねぇよ!むしろお前が受け身をとってやんな!」
一見、熊のような印象を持つ不良は、そんなことを言う。この街は、いやこの世界は暖かい人ばっかりで楽しい。
「すんません!次こそは!」
楽しい流れにあたしも便乗したくなる。
「そうだぞ、精進しろよギン」
「何様だお前!?」
「「ははははは!」」
仲良くなれそうだ、しばらく談笑して自己紹介を済ませる。
どうやらギンは銀一、後ろの大きな人はタイザンさんと言うらしい。
「セツナか……格好いいじゃねぇか!」
名前を褒められる、悪い気はしないね。二度目だ、悪い気はしない。
聞けば2人はギルド活動の一環でこの街に寄り、もう出発するところらしい。
「それじゃあ引き止めちゃいけないね」
「おう、気にすんな」
少し調子に乗ってしまった、タイザンさんのきのいい返事が嬉しい。
「今度俺らの拠点にしてる街……にはまぁ、時間がある時にでもこいよ。『テンカ』って街だからよ」
「了解、連れの悪魔の気が向けば絶対に行くよ」
なんか最後の方に歯切れが悪くなったけど……いっか。
別れをすませて、今度はゆっくりと急ぐ、またぶつかったらいけない。
さて、そろそろリリアンの方も終わったかな。
「おかえりなさい。ゴムザルの申請はつつがなく終わりました」
しっかりとやってくれたみたい。お礼をして、いつ出発するのかを聞く。
「いえ、まだこの街をでません。あなたにお仕事です」
「お仕事?」
珍しいね、いつも出発を急かすのに。
「私にやることができたのでその間の特訓にと。パーティーを組み、その人の護衛です」
もしかして、あたしがパーティーに憧れるって言ったからかな?だとしたら嬉しいな。
「おっけー、依頼人は?」
「こちらです」
リリアンの視線の先には……
「どうも、魔術師のラルムです。セツナさんよろしくお願いしますね」
「イケメンだぁーー!」
ネオスティアにきてからおそらく、初めてみるまともなイケメンに驚きを隠せなかった。
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