第13話 前略、道中と山賊と

「それにしても」


 曰く、次の目的地である大きめの街への道中、リリアンが唐突に。


「それにしても『セツナドライブ』は恥ずかしいですね。ありえないです」


 あたしの必殺技の悪口を言い始めた。いきなりなんてこと言うんだこのメイドは!


「自分の名前を入れるのは少し、いえ大分恥ずかしいです」

 

 冷静に淡々と、あたしの必殺技はけなされる。

 そんな時くらいこちらを見て欲しいが、リリアンは前を向いたままだ。

 だめかなぁ……カッコいいと思ったんだけどな……『セツナドライブ』……

 あたしは俯きながらも、ついていく足を緩めない。


「ですが、名前をつけるのはいいことです。あるのとないのでは大違いですよ。それより」


 気づいてますか?とリリアン。はて、なんだろう?


「あなたの武器、昇格してますよ」


 言われて、スキルボードを確認する。穀物と風の村『コガラシ』を救ったこと、新種の発見と共存を選んだことを女神が気に入り、あたしの装備できる武器のランクを1つ昇格し、対応する武器をランクアップさせる旨が書かれていた。

 昇格、そんなパターンもあるのか!


「お、おぉ〜〜!」


 なんか嬉しい!強さが認められるより、共存を、わかり合うことを認めてもらったことが。

 装備のランクアップももちろん嬉しいけど。


「ちょっと格好良くなってる!」


 腰から片手剣を抜いてみる。

 今までのはいかにも初期装備って感じの飾りっ気の無い剣だったけど、少しだけついた装飾が格好良い!刀身も少し伸びたみたい!

 その喜びのまま次々に装備変更、それぞれ小さくとも、確かな変化があった、これは……いいね!


 背中のカゴも軽く感じますよ!


「んん?」


 ウキウキ気分のまま歩いていると、前方に3つの人影、あたしたちとの距離はどんどん近づいて。


「お前ら冒険者だな。金目の物をだしな」


 おぉ、テンプレの悪役のセリフ。山賊かな?盗賊? 

 どっちでもいいか、山賊たちはあたしたちに武器を向ける。

 その短く、刀身のうねった剣はあたしの中の山賊像と一致する。


「ありません」


 キッパリとリリアン。確かに無一文である。あたしは。


「お前には聞いてねぇよ!奴隷が!」


 確かに、少し見慣れてきたけどリリアンの服装はメイド服に首輪、両手両足の枷にそれをつなぐ鎖。

 奴隷にみえなくもない見た目だ。中身を知ればそんなことは絶対に言えないけど。知らないということは罪である。


「随分と面白いことを言いますね」


 声色はいつもどうり静かだけど、明らかな怒りを感じる……

 最近やっと分かったが、リリアンは無表情だけど、無感情ではない。

 やってしまいなさい、とリリアンが言い、1歩下がる。


「え、あたしが戦うの?」


 あたしはてっきり、リリアンが制裁するものだと

 正直あまり戦う気もないし、避けられるなら避けたい。戦い自体好きじゃないしね。


「やらないなら今日の特訓は20倍です」


「よし!かかってこい山賊め!」


 戦う面倒さと死、比べるまでもない。

 それにしても20倍はやりすぎである、それだけ苛立ちが強いということだろう。


「それじゃあ剥ぎ取ってやるよ!」


 飛びかかる山賊たち。

 少しだけ迷って、装備変更、双剣を構える。


「いくよ!」


 正面の山賊の剣を片手の剣でいなし、もう片方で斬る!

 すぐさま装備変更、右の山賊へは片手剣で弾いて、いつもの投石!頭突き!渾身の薙ぎ払い!

 キレイな流れだ、我ながら惚れ惚れする。


「よし!上々!まだまだいくよ!」


 向き直し、まだ距離のある左の山賊へは必殺の!


 装備変更!駆ける!飛ぶ!世界は加速する!

 大怪我させたらいけないね、1歩で。


「『セツナドライブ』!」


 あたしの最速の必殺技の前に、倒れる山賊、安心しな、峰打ちだよ!


 そして装備変更、硬直を消して振り返る。

 最初に倒した山賊が起きようとしてたので両手剣でコツン、ノシておく。


「及第点です」


 少しだけ気分良さそうなリリアンの足元にいる山賊が起き上がる。危ない!


 ガッ!!→山賊の腹にリリアンの拳が刺さる


 ドンッ!→そのままリリアンが馬乗りになり


 ガスッ!ガスッ!→ひたすらタコ殴りに


「やめてリリアン!もう意識ないよ!」


 全力で止めに入る、リリアンの方を襲うなんて危ない真似を。


「失礼、虫ケラに苛立ってしまい」


「虫ケラぁ!?俺たちにも名前があんだよ!」 


 ボロボロの山賊たちは、よろよろと立ち上がり、主張する。

 リリアンにしこたま殴られた人は、大丈夫だろうか……


「マンティッロ!」「ディーボ!」「プリモン!」


 それぞれ珍妙なポーズを取りながら、名乗る山賊たち。

 なんで山賊のくせにちょっとオシャレな名前なんだよ。絶対モブの名前じゃないでしょ、とくにマンティッロ。

 似たような見た目なんだから、名前くらい統一してきてほしいを


「雑魚1、雑魚2、雑魚3で記憶しました」


 そうそう、これくらいに。

 ちなみにあたしがあだ名をつけるとしたら、

 総髪、バンダナ、うねうね、なんてどうだろうか。

 それぞれ名乗った順番に、頭の特徴を捉えたナイスなあだ名だと思う。


「それでは、2度と姿を見せないで下さい」


 リリアンは山賊に言い放つ。

 覚えてろーー!お決まりのセリフと共に逃げ出そうとする山賊を。


「待ちなさい」


 呼び止めるリリアン、殴り足らないのかな?


「金目の物と食料を置いていきなさい」


「悪魔かお前!?」


 悪魔がいた。なぜ1度は行かせようとしたのか、絶望感を与える為だというなら、やはり悪魔という結論にたどり着く。


 夜になり、山賊から奪った食料で腹を満たす。ごめんね、山賊。


「火は見ておくので先に寝ていて下さい」


 少しづつ認めてくれてるのかな、前よりリリアンの優しさがわかるようになってきた。


 こういう時は下手に言い争っても負けるだけだ。お言葉に甘えよう。


「ありがとう、リリアンも早く寝なよ?」


「言われるまでもありません」


 相変わらずこちらに目を向けず、淡々と答える。

 それでも少し距離が近くなった、女の子のことを考えながら眠る。

 この旅が終わるまでに何かできることはあるのかな?


 考えても答えはでなかったので、旅の終わりまでの宿題にして、今日はもう眠る事にした。

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