第103話 魔王


 なんとか、コロのおかげで外壁の上によじ登ることができた。少し、ほんの少しだけカッコ悪かったかもしれないが、ここは華麗かれいにスルーしておこう。お互い大人おとなだもんな。


『ダークンさん、コロを体に入れていたから重たかったのかもしれませんね』


『コロがいなければきっと一発で外壁に上れたはずです』


 こいつら二人とも大人おとなじゃなかった。


 まあいい。


『そういえば、俺とやりあった鎧男よろいおとこがな、自分のことを「黒炎こくえんのアグナ」とか言ってたんだが、聞いたことがあるか?』


『「黒炎のアグナ」とは大魔王「ハムザサール」の四大使徒といわれている魔人まじんの一人です』


『おっ、いたか、大魔王に四天王してんのう!』


『四天王というのは?』


『俺のもとたところで使ってる言葉で、今トルシェが言ってたように四人の使徒のようなもんだ』


『それもなかなかカッコいいですね。わたしとアズランはダークンさんの眷属ですから、ダークンとその二天王ですか?』


『いや、二人の時は、そうだなー? よくわからんな。だが、俺もおまえたち二人もともに、われらが主の眷属だ。そうだ! 「闇の三人衆さんにんしゅう」ってのはどうだ?』


『「闇の三人衆」。いいですねー』


『それはそうと、大魔王とか四大使徒はどうなった?』


『ぜんぶおとぎ話と思っていましたが、「黒炎のアグナ」がいたってことは大魔王も残りの三人も実際にいるのかもしれませんね』


『そうだとすると、俺が一匹殺しちゃったからまた来るかもしれないな』


『その可能性は大いにありますね! 今から楽しみー。今度も南の方から来るのかな? 早く来て欲しいなー』


 トルシェはそうだろうよ。


 とはいえ、『黒炎のアグナ』も俺が特殊なだけで、普通のヤツが相手できるようなヤツじゃなかったものな。次に似たようなのが来たら、それなりにデキるヤツが来るかもしれない。


『そもそも何で南から来たんだ?』


『さー。全く分かりません。もしかしたら、南の方に「魔王城まおうじょう」があるかもしれませんね。きっと「魔王城」には金目の物がたくさんありますよ。行きたいなー』


 なんだか、もはや桃太郎だな。


『今度、また誰か来たら、トルシェが相手をしてくれ。今回行き違いから皆殺しにしてしまったのをびてな』


『アハハハ。皆殺ししちゃったんだから、びたくらいじゃ許してくれませんよ。ダークンさんは冗談がうまいなー』


『それはそうだよな。そしたらこれからも皆殺しかな?』


『それはそうでしょう。楽しみー。アズラン、今度はリンガレングを使わず、わたしたちで皆殺しにしようね!』


『任せて。私も楽しみ』


 感染しちゃったようだよ。アズランにもトルシェの皆殺し病が。


『ところで、あの「黒炎のアグナ」が「この地に新しき魔王が立ったとの予言」とやらがあったとか言ってたんだ。ちょっと気になるだろ?』


『新しき魔王ですか。それは気になりますね。たかが魔王程度でデカいツラをさせてはおけませんから、ちょっとシメてやりますか?』


『シメてやるもなにも、どこにいるのか分からんぞ』


『ダークンさん。それって、もしかして、もしかしたら、ダークンさんのことじゃないですか?』


『何で俺が魔王になるんだよ? 俺は「闇の眷属」だぞ。魔王ってのは「魔神」に仕えてるんじゃないのか?』


『そうか。だとすると、魔神が封印されているっていう「大迷宮」最下層が何か関係あるかも』


『魔神の封印?』


『そうか、アズランはあの時まだいなかったか。ウマール・ハルジットが魔王をどうにかしたって話は知ってるだろ?』


『はい、その話はおとぎ話で聞いたことがあります』


『リンガレングが言うには、そのウマール・ハルジットが「大迷宮」最下層に「魔神」を封印したんだそうだ。それで、俺たちの準備が整ったらいつでも連れて行ってくれると言ってたんだ』


『ということは、「闇の眷属」であるわれわれの目的は、真の神たるわれらがしゅのために偽物の神である「魔神」をたおすことなんでしょうか?』


『おそらくな。問題なのは、俺たちの準備がいつ整うのかってことと、どういう状態になれば準備が整ったことになるのか分からない事かな』


『なるほど』


『一度、その「魔神」を見に行ってみますか?』


『いやー、何があるか分からないから、まだ行かない方がいいんじゃないか?』


『ちょっとくらいなら、ね。怖くないですよ』


『それじゃあ、ちょっとだけ行ってみるか?』


『ダークンさん、その時はリンガレングを連れて行くんですよね? そうしたら、リンガレングがわたしたちの準備ができたと勘違いしませんか?』


『うーん。まずそう思うだろうな。だからといって、リンガレングは必須だぞ。やっぱり今度にするか?』


『そうですね。もうすこし精進しょうじんしてから行きましょう。それで、これからどうしますか?』


『どうも、今回大量のモンスターを食べたからコロも進化したんじゃないかと思うんだ。一度拠点に戻ってみないか? フェアもそろそろ何かに進化してるかもしれないしな』


『早く帰りましょう。フェアちゃん楽しみ!』



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る