第101話 リンガレング、殲滅


『リンガレング、出ろ!』


 球体に丸まった銀色のリンガレングが目の前に現れ、すぐに元の蜘蛛くも型に戻った。


『リンガレング、周りにいるモンスターを殲滅せんめつしろ。なるべく環境にやさしくな』


『了解しました。それではマスター、特殊回路のロードは不要ですのでこのまま敵性生物群の殲滅せんめつを開始します』


 ギュイーーン!


 そんな音を残して、リンガレングがモンスターたちに突っ込んで行った。俺たちの周囲で仲間討ちを始めたモンスターたちだが、そいつらが文字通り血煙ちけむりになっていく。


 環境にやさしくとは言ったのだが、あたりは血と肉片で真っ赤だ。これを放っておいてはどう見ても後で、疫病えきびょうなどが発生してひどいことになりそうだ。


 そうだ!


 ここは、コロの出番だろう。


 コロを鉄箱から出して、


『コロ、そこら辺の血やら肉片をきれいに食べてくれ』


 すぐに、コロはリンガレングの後を追って、血の海に突入していった。今回は、前回よりもさらにスピードアップしている気がする。


 これなら、今回大量のモンスターの残骸ざんがいを食べている間にコロは進化しそうだ。楽しみ、楽しみ。


 リンガレングのいる辺りは火山が爆発したようにモンスターの肉体部品がバラバラと吹き上がって、うっすらと赤いかすみがかかっている。


 モンスターの中には緑の血の者もいたと思うが、いまリンガレンガいるあたりはたまたま赤い血のモンスターが多かったようだ。たまに硬い音が響いて来るのは、ゴーレムのような硬いモンスターをリンガレングが切り刻んでいる音だろう。


 リンガレングが作り出すモンスターの肉体部品の火山が高速で移動している。先ほどまで、近くにまで流れてきていた赤い液体は地面に浸みこんだわけではなくコロに吸収されたようだ。遠くまで行ってしまったコロが四方八方に伸ばした触手がうっすら見える。


 しかし、ここに集まったモンスターはいったいどれだけいるんだ? そもそも、これだけの数、どこからやって来たんだ?


「ダークンさん。リンガレング、ほれぼれするほどすごいですね」


『ああ、あいつは別格だな。なんだっけ? 「神滅機械しんめつきかい」だったか。大げさな名前と思っていたが、特殊なことをしないでただ物理で敵を蹂躙じゅうりんしていくだけであれだものな』


「リンガレンガなら、本当に『魔神まじん』をたおしてしまいそうですね」


『だな。俺たちの味方でよかったよ』


「ダークンさん、ここから見える限り、リンガレングがモンスターをたおしきったみたいです。いまこっちに戻ってきます」


 俺たちの中で一番目のいいアズランはちゃんとリンガレングの様子が見えていたようだ。


 キーーン!


 ドップラー効果か何かで高音側に遷移せんいした音を立ててリンガレングが帰って来た。 


『マスター、敵性生物群の殲滅せんめつを完了しました』


『リンガレング、ご苦労さん。少しくらい手ごわいやつはいたか?』


『はい、五体ほど私に第二撃を必要とさせた個体がいました』


 どんな敵も二撃以内でたおしたらしい。


『そうか。少し汚れているようだから、ちょっと待っててくれ』


『了解しました』


 コロが帰ってくるの待っていたら、街の方が騒がしい。そちらを振り返ると、外壁の上にたくさん人影が見える。街の連中が様子を見に来たようだ。


 戦闘のいいところはとうの昔に終わっている。俺の雄姿ゆうしを見せてやりたかったのだが少し残念だ。


 こんどはなにか、叫び声が外壁から聞こえて来た。


『アズラン、外壁からこっちに叫んでいるやつがいるが、何て言ってるかわかるか?』


「はい、私たちを呼んでいるようです」


『それで、そいつはいったい誰なんだ?』


「どうも、冒険者ギルドのギルドマスターのようです」


『ああ、あのおっさんか。面倒だから知らんふりをしていよう』


「そうですね。今回はなんとなく今の連中とやりあってしまって皆殺ししちゃいましたが、ギルドからの褒賞ほうしょうもいただけそうにないので知らんぷりでいいと思います」


『トルシェ、あれは俺の手違てちがいだったんだ』


「手違いですか?」


『相手の黒鎧が俺に色々話しかけてきたんだが、何せ俺は話せないだろ、それで、俺が有無を言わさず戦いを望んでいると相手が勘違かんちがいしたんだ』


「あれ? ダークンさんは戦うつもりで一人で出て行ったんじゃなかったんですか?」


『そうでもなかったんだが、結果オーライということだな』


 そんな話をしていたら、コロが戻って来た。何だか見た目が一回り大きくなった気がするが、ふつうは食べても大きさの変わらないコロだ。とうとう進化したか?


『コロ、リンガレングについた汚れを取ってくれるか? 間違ってもリンガレングは食べないでくれよ』


 あれ? いまコロは一瞬体を震わしたよな。分かったって言ったよな。


 コロはちゃんと俺の言ったことを理解してリンガレングについた血の汚れや肉片などをきれいに食べたようで、リンガレングが赤い夕日を受けて赤く輝いている。


『大分時間が経ったようだな。そろそろ帰ろう』


 リンガレングをまた丸くして『キューブ』に収納した。


 そのあとコロを鉄箱に入れようとしたら、一回り大きくなったコロには鉄箱が狭くなっていた。体を長細くすればちゃんと入ることはできるが、ちょっとかわいそうな感じになってしまう。


『こまったな。コロが大きくなったんで、鉄箱が狭くなってしまった』


「うーん。そうだ! ダークンさん、ダークンさんの鎧の中は、骨しか入ってなくて隙間だらけなんだから、いっそのことコロを入れてしまったらどうでしょう?」


『ええ? コロをか? できないことはないと思うが、なんだかくすぐったくなりそうだな。でも案外気持ちいいかもな。よしやってみよう。

 コロ、ここに入ってみるか』


 コロをすくい上げて、ヘルメットを少し上げて、首の隙間からコロをナイト・ストーカー中に入れたやった。


 にゅるりと、体を細くしたコロが鎧の中に入って来て肋骨ろっこつを過ぎて下の方にゆっくり動いていく。


 おひょ! おひょひょひょ!


 なんだか奇妙かつ新鮮な感覚だ。


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