第100話 『黒炎のアグナ』

[まえがき]

とうとう100話です。みなさん、ありがとうございます。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



『黒炎のアグナ』の微妙びみょうに気持ちいい攻撃を受けた俺は、どうしようかと迷っている。


 ヤツの攻撃が俺の武器をすり抜けるのも不思議だが、致命傷ちめいしょうを受けるでもなく、数秒後には全快している。針治療やマッサージ治療のいた気持ちよさと考えるとなかなかのものだ。


 このまま、もう少し攻撃を受けていてもいい気もしてくる。特にあの赤黒い瘴気しょうきの感覚がたまらない。


 あれ? これは『黒炎のアグナ』が俺に仕掛けた高度な罠ではないよな? まさか俺はあの炎がないと生きていけない体になったのではなかろうな。怖い、怖すぎるぞ。


 俺はこの世界に来て初めて本物の恐怖というものを感じた。


『黒炎のアグナ』をどこか甘く見ていた自分をいましめなくては。


 冗談はさておき、どうしてヤツの攻撃が俺の武器をすり抜けるのか分からない。


 見えている感じでは武器同士が重なった時、俺の武器は見えているが、ヤツの武器は消えたように見えなくなっていることだけは分かった。今度は俺から攻撃してみてヤツの武器がすり抜けてくれたら俺の武器が簡単にヤツに届くから儲けだ。まあ、そう簡単ではないだろうがな。


 ヤツは、俺が赤黒い瘴気しょうきの中で焼かれていると思っているようで一歩下がって俺を見ている。ヤツの手下てしたは相変わらずおとなしく俺たちを見守っている。


 俺が陽炎かげろうのようにヤツの赤黒い瘴気しょうきをまといながら、一歩前に出て、もう一度ヤツの間合いに入り、さらに一歩詰め寄る。


「なに? なぜおまえは黒炎こくえんに焼かれて立っていられる。なぜむくろとならぬ?」


 知らんがな。


 左手のリフレクターを振り上げ、ほうけたことを言っている『黒炎のアグナ』の胸元むなもとにたたきつける。がら空きの胸元にたたきつけたはずだったが何も手ごたえなく、リフレクターが素通すどおりしてしまった。


 それでもリフレクターに続いて間を置かず、右手のエクスキューショナーで連撃をかましたのだが、これもヤツの左腕を素通りして空ぶってしまった。


 どうなっている? まるで、空気を切っているようだ。


「無駄だ、おまえの武器は俺には届かん」


 そういいながらヤツは俺の胴をごうと大斧を振るい、その大斧が俺のナイト・ストーカーの脇腹にめり込んだ。


 ほう!


 気持ちよくて変な声が出てしまった。今の一撃でナイト・ストーカーがへこんでしまったが、すぐに音はしないがぺコンと元に戻った。


「どうして、おまえはたおれない?」


 そりゃ、おまえがそれほど強くないからだろ。


 今度も、俺がリフレクターとエクスキューショナーを振るうが、どちらも空振りする。そしてスキのできた俺はヤツの大斧を受けて、


 ほう! の繰り返し。


 まさに千日手。どうすりゃいいんだ?


 なんで、俺の武器はヤツに当たらない?


 名前からして『黒炎のアグナ』、まさかこいつ、ガス状態と固体状態を武器も含めて変えることのできる能力者なのか?


 とにかく、ヤツはガス状態となることができると仮定して、ヤツの撃退法げきたいほうを考えてみよう。ガスの撃退法はどこかでなにかなかったか?


 うーん、ガスねー。火を点けて燃やしてみるか。しかしここで、トルシェに助勢を頼むと、今はおとなしくしているヤツの後ろの連中と混戦になるだろうし、それは面倒だ。ここはこのまま俺だけでできることをやってみるとしよう。


 俺が攻撃した瞬間、ヤツは自分をガスのようなものに変えて、自分が攻撃するときは固体に戻っているのだとすると、ガス状態になっているためには何らかのエネルギーが必要でそれが無くなるまで続けていれば勝機はきっとある。


 考えはまとまった。


 俺が思案しあんしている間、すでに二撃もらっている。いい塩梅あんばいに気持ちいいので、ついヤツの攻撃を体に受けてしまっていた。まさに、ほうほうのていだ。ちょっと違うか。


 ここからは気を引き締めていくぞ!


 そうれ、それそれ、お祭りだー!


 両手に持ったエクスキューショナーとリフレクターを太鼓たいこをたたくようにつづけさまに振るう。


 ドンドコドンドン、ドコドコドンドン、ドンドコドンドン、ドコドコドン。


 ジュマンジー! 昔見た映画を思い出してしまった。


 ???


 少し手ごたえを感じる。さあ、このまま一気に押し切るぞ!


 実際、それなりのダメージがヤツに入っているようで、ヤツの俺への攻撃はかなり手数が減ってきている。


 たまに俺の攻撃を大斧で防ごうとするのだが、それがリフレクターに当たると、かなりのダメージがヤツに入るようだ。それでも防御しないわけにもいかないので大斧で俺の攻撃をさばこうと必死でくらいついてくるのだが、徐々に大斧の動きに遅れが目立ってきた。


 俺の手数てかず攻撃を受けきれず後ろにさがっていく鎧男を、一歩一歩前に出て追い詰めていく。


 そうれ! ドンドコドンドン、ドコドコドンドン、ドンドコドンドン、ドコドコドン。


 一歩、また一歩後ずさる『黒炎のアグナ』、それに合わせて俺は一歩、一歩前に出る。


 ドンドコドンドン、ドコドコドンドン、ドンドコドンドン、ドコドコドン。

 

 確かに手ごたえがだんだんと大きくなってきている。


 そして、とうとう『黒炎のアグナ』がひざをついてしまった。


「ま、待ってくれ」


『待ってくれ』といわれて『はいそうですか』はないだろ、ふつう。


 ここはかさにかかって、打つべし、打つべし!


 ドンドコドンドン、ドコドコドンドン、ドンドコドンドン、ドコドコドン。


 何だか、後ろの連中がざわめき始めた。関係ない。


 打つべし、打つべし!


 ドンドコドンドン、ドコドコドンドン、ドンドコドンドン、ドコドコドン。


 とうとう『黒炎のアグナ』は後ろにのけぞって仰向あおむけに倒れてしまった。


 そこで、一気に後ろの連中が俺を取り囲むように迫ってくる。そんなことをすると、うちの若いもんも黙ってませんよ。


 ザコはうちの若いもんに任せて、寝っ転がっている『黒炎のアグナ』の体を、


 るべし、るべし。


 とうとう、ガス化は出来なくなったようで、ずっしりと足の甲に足ごたえがある。今度はかかとで踏みつけてやる。


 むべし、むべし!


 両手にエクスキューショナーとリフレクターを用心ぶかく構え、俺に迫ってきていた連中を見ると、剣や槍を構えたまま連中の頭の上半分が、スポーン、スポーンと上の方に小気味よく跳ね上がっていく。もちろんその間も俺は『黒炎のアグナ』を思いっきり踏んづけている。


 自分たちの身に何か起こっていることを悟ったのか、急に及び腰になったようで立ち止まった子分たち。


 それでもスポーン・・・・は止まらない。


 あと、三匹ほどになった子分が逃げ出そうと後ろを向いたところで、今度は三人立て続けに首が胴体から外れて、地面にゴロリと転がった。そいつらは首の付け根からきれいに血の噴水が吹き上げながら、ばたばたと地面に倒れて行った。


 見るとアズランが俺の隣に立っている。


 アズランが鞘から抜いた『断罪の意思』を目の前で転がって虫の息の『黒炎のアグナ』に向けて一言、


「こいつ、どうします?」


『アズラン、一思いにやっちゃってくれ』


「はい。それでは、『主の御名の下(もと)に断罪する』!」


 アズランの『断罪の意思』が振り下ろされ、あっさり『黒炎のアグナ』の首が胴体から切り離された。


 アズランの一撃を受けた、『黒炎のアグナ』はだんだん透明とうめいになっていき、切り離された頭ごと消えてなくなった。



 『黒炎のアグナ』が消えた瞬間、いままで後ろの方でおとなしくしていたモンスターたちが狂ったように暴れ始め、そこらでお互い殺し合いを始めた。


 そんな中、トルシェも外壁からこっちにやって来たようで、肩に鉄箱の革紐をかけてコロを連れてきてくれたようだ。かなりコロの入った鉄箱は重いのだがトルシェも進化したおかげか、難なく運べたようだ。フェアもいまはアズランの肩の上に座っている。


『しっかし、こいつらうるさいな、ここは、久しぶりにリンガレングにらせるか』


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