第96話 『万夫不当』2


 俺たち『三人団』が冒険者ギルドを出て、仲通なかどおりにあるという居酒屋いざかやを目指した。『万夫不当』の連中に落とし前をつけるためだ。


 トルシェに案内されてやって来た仲通り。けっこうたくさんの居酒屋が昼間から開いていた。どの店で連中が飲んでいるのか分からないので一軒一軒しらみつぶしにみていくことにした。


 パターンとして、まずトルシェが入り、次にアズランが入り最後に俺が店の中に入り、上げて上げて下ろす作戦だ。もちろんトルシェの考案だ。


 トルシェが店の中に入ると、「わーっ」と、店の中から歓声かんせいが上がる。そして、次はアズランだ。これは店の外からでも息をのむような声が聞こえてくる。その後喚声かんせいが上がったのを見計らって俺が店の中に入る。


 昼間なのだが店の中はやや暗いため俺のダーク・ストーカーが赤く血管のような模様をいい塩梅あんばいに浮き上がらせるのだ。それはもう気持ちいいくらいに店が静かになる。


 一通り店の中を見まわし、トルシェが近くの者にたずねたりして、それらしい連中を探してみるがなかなか見つからない。



 そして、やってきた四軒目の居酒屋。


 ここはこれまでの店以上に騒がしい。ちょっと期待が持てる。


 まず、トルシェが店の中に入っていき、次にアズラン。そして俺だ。


 騒がしかった店の中が、静かになったが、店の奥の方で騒いでいる連中がまだいる。俺の勘だが、どうやらお目当ての連中のようだ。今度は俺が先頭に立ってそいつらのいる店の奥に進んで行く。


 そこには見たことのある六人の男女がテーブルを囲んで、酒を飲み大声で騒いでいた。アズランが言ってた通りオークに苦戦していた連中だった。


 俺たちを目に止めた大男が、


「ん? なんだ、お前らは? おっ! 美人が二人もそろって俺たちにしゃくでもしてくれんのか?」


 しまった、俺はカタカタ言葉しか喋れなかった。


『すまん、トルシェ、頼む』


『了解しましたー』


「あんたら、『万夫不当』だよね?」


「そうだが、そっちのゴツイ鎧のヤツはどっかで見たことがあるな。アッ!」


「あんたたちが10階層あたりでオークに苦戦していた時、その前を通り過ぎたのを覚えてないのかなー?」


「あんときの三人組か!」


「そういうこと、その後、14層のオーガをたおしたのもわたしたち。言っている意味わかるかな?」


「何が言いたい?」


「あんたら、わたしたちが先に15階層に下りたのに、ちゃっかりあとから来て、それでギルドから褒賞ほうしょうもらったよね?」


「先に『チェック球』を出したものの勝ちだろう!」


「ふーん、あんたら、あんなザコのオークで苦戦してたんだよね? わたしたち実は20階層まで下りてきたんだけど。この意味わかるかな? ここで、あんたらを潰してあげてもいいけど、店に迷惑がかかるからやめておいてあげる。でもこの先ダンジョンの中で出会ったらそうはいかないかもね」


 後ろの5人がいままで何のかんのとうるさく俺たちに食って掛かっていたのだが今のトルシェの言葉を聞いて黙り込んでしまった。


 トルシェ姉さんすごませるとパねーよ。美人が凄むとここまでかってくらいに怖いよ。


 しかも、その横でアズランが、フフフと意味ありげにほほ笑んでいる。


 この二人、最凶さいきょうタッグだった!


『ダークンさん。ここでは人が多いのでいったん外に出ましょう』


「それじゃあ、迷宮の中で会うのを楽しみにしているから、さよなら」


 トルシェがきびすを返したので俺とアズランも連中の顔をひとあたり見回して店の出口に向かった。店の中はシーンと静まり返っていたので、先ほどのトルシェの声はみんな聞いていたはずだ。店にいた連中が小声で話す言葉が背中越しに聞こえて来た。


「20階層!」


「いままで、『万夫不当』が15階層一番乗りだって言ってたけど嘘だったのか?」


「『万夫不当』は名前だけの連中だったんだな。人の手柄てがらをかすめ取ってたのか。今までも偉そうにしてたが、そういうカラクリだったんだな」


「今の連中、どこの誰なんだ?」


「あいつらが、あのふざけた名前の『三人団』だ!」


 ふざけたは余分だろ!



 店を出たところでトルシェが、


「連中はすぐにわたしたちを追って出てきますからここで待っていましょう。フフフ」


「あと、10歩ほどで、連中が外に出てきます」と、アズラン。


 トルシェの思惑おもわく通りってやつか。


『作戦的には店の扉に適当に歩いてた方がいいんじゃないか?』


「それで行きましょう」


 三人そろって、居酒屋に背を向けて通りを数歩歩いていたところで、居酒屋の扉が開いた音が聞こえて来た。通りには、それなりの人が歩いている。


 ゴーー。


 おっと、人通りがあるのにいきなりのファイヤー・ボールを撃ってきたか。


 振り向くとソフトボール大の火の玉が俺に向かって飛んで来ている。戦闘時は知覚レベルが上がり、周囲の動きが遅く感じられるのだが、このファイヤー・ボールは特に遅い。周囲の目撃者が死んじゃうとマズいので刀で払うのではなく両手で包み込むように受け止め手の中で爆発させてやった。


 ボン!


 当然あまり大きな爆発は起こらなかったようだが、通行人はかなり驚いたようで、悲鳴を上げながら逃げまどっている。これで、正当防衛せいとうぼうえい成立だな。過剰防衛かじょうぼうえいかもしれんがな。


 俺が、ファイヤー・ボールを握りつぶしたことに『万夫不当』連中は相当驚いたようで、連中の中の魔法使いが大口を開けていた。こいつはいいまとだ。


 久々の登場! 『スティンガー』。


 腰のさやから『スティンガー』を抜いて、大口目がけて投げつけてやった。一撃ではたおしたくなかったので、柄の方が大口に当たるよう投げたのだが、バカが口を閉じたところでヒットし、前歯が数本折れ飛んだようだ。口からよだれと一緒に真っ赤な血が通りにこぼれた。まだ立っているだけ感心だ。


「あんたたち、先に手を出したわけだから、覚悟かくごはあるんでしょ? フフフ。あんたたちのファイヤー・ボールじゃ、オークが精いっぱいだったんでしょうに。知能までオークに苦戦してるみたい」


「……」


「それじゃあ、本物のファイヤー・ボールを見せてあげようか?」



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