第97話 『万夫不当』3
「それじゃあ、本物のファイヤー・ボールを見せてあげようか?」
トルシェが、お気に入りの『ビスマの手袋』をした右手を一度キュと鳴らし、広げた手のひらを『万夫不当』に向けて、
「ひとーつ」
ドッジボールほどの火の玉がトルシェの右手の先にでき上った。色は青白く、見た目にヤヴァい感じだ。
「ふたーつ」
もう一つ、ドッジボールが増えた。ヤヴァいのが二つ、トルシェの手の先でくるくる回り始めた。
「みーつ」
さらにもう一つ。三つの火の玉がくるくる回っている。外はまだ日が差していて明るい中、トルシェの作ったファイヤー・ボールが回りながら青白くギラギラ光っている。こんなのが爆発したら、周辺もただでは済まないだろう。もちろん
「ま、待ってくれ! 報奨金は全部渡す。だから許してくれ」
大きくふくらんだ革袋が『万夫不当』のリーダーらしき大男から差し出された。大男の額が汗に濡れて、それにトルシェのファイヤー・ボールのギラギラが反射している。
「アズラン、わるいけどお金を取ってきてくれる? ついでにダークンさんのスティンガーもね」
「了解」
ふくらんだ革袋は、男の手から無くなり、トルシェの隣に立つアズランの手に下げられていた。その革袋をトルシェが『キューブ』に収納し、俺はアズランから手渡されたスティンガーを鞘に納めた。しかし、今のアズランの動きは俺にも全く見えなかった。本気のアズランの動きは戦闘状態を解いた俺には見えないらしい。
「もともとわたしたちのものを返してもらっただけ。さっきのファイヤー・ボール、わたしたちじゃなかったら、死んでたんじゃないかな? 殺しに来たんでしょ? なら殺される
おおっと、ここで異世界に行ったら言ってみたいセリフ、多分ナンバー6?『殺される覚悟』が出たー!
「わ、悪かった、この通りだ、許してくれ」
男が
『なんだかなー、ここの冒険者ってみんなこんなのか?』
『上に行けば行くほど腐ってくるんでしょう。腐ってないと上に上がれないのかもしれませんね』
『
『それもいいかも』
「許してほしければ、自分で自分の左耳をそぎ落としなよ。死ぬのに比べれば簡単でしょ?」
「うっ。そ、それは。許してくれ。おまえたちもちゃんと謝れ」
「べつに、
音はしなかったが、土下座男の右耳がきれいに宙に舞った。
耳のあった場所から血があふれ出て通りに
「早くしないと、片耳で済まなくなる人が増えるよ? それじゃ、次はだれの右耳を飛ばそうか? さっきファイヤー・ボールを撃って来た女かな?」
「
俺の投げたスティンガーで前歯を何本か折って腫れた口から血を流しているファイヤー・ボール女が後ずさりしてそのまま逃げだしていった。
「ばーん!」
青白い火の玉を一度消したトルシェがふざけたような声を上げたところで、逃げ出したファイヤー・ボール女の右
仲間の
「よくできました。そしたらそんなバッチいものはいらないから、道に捨てちゃってくれるかな、炭にしちゃうから。炭になった耳は各自記念に拾っておけばいいよ」
トルシェの右手から伸びた黒い紐が、通りに投げられた耳に触れ、触れられた耳はすぐに炭化していった。
「これ幸いと、わたしたちを出し抜いたつもりだったのかもしれないけれど、あんたたちが勝てなかったオーガをたおした連中に恨まれると考えつかなかったとは。まさに『
アブないモードに入ったトルシェはエグイほどカッコいいぞ。序列二位は
『それじゃあ、ダークンさん、行きましょう』
『あ、ああ』
アズランも満足したのか、頷いて、
「フフ、フフフフ」と口元をゆがめて笑っていた。この二人、怖えー!
トルシェとアズランが前を並んで歩く。その後を俺が付いて歩く。これでいいのか『闇の眷属』
道行く連中が俺たちが進むと思いっきり
しかし、今の『万夫不当』といい、『暁の刃』といいこの街の冒険者にはロクなヤツがいないな。
『おーい、二人とも、これからどこに行く?』
「考えてません」「同じです」
風のうわさで聞いた話だが、『万夫不当』はこのことがあって、解散したそうだ。ファイヤー・ボール女は、僧侶の『ヒール・オール』で一命を取り留めた上に全快したが、そのあと僧侶の当日使用可能なヒールをめぐって仲間割れをしたのが原因だったようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます