第89話 フェアリー?のフェアちゃん


 フェアとアズランが名前を付けたフェアリーは名前が付けられると同時におとなしくなった。そして見る間に傷んでいたはねも治ってしまった。


『しかし、ここまで効果があるとは。名づけというのはそら恐ろしいな』


「しかも、あれほど暴れていたフェアリーが今ではアズランになついているようですよ」


「えへへ、フェアちゃん、フェアちゃん」


『これほどなついているんなら、瘴気しょうきを出すわけでもなさそうだし、動きも速いわけだから、鳥かごに入れなくても連れて歩いていいんじゃないか?』


「そ、そうですよね。連れて歩いていいですよね?」


「アズランが好きなようにすればいいよ」


『アズラン。それで、フェアは見た目メスだが、実際はどうなんだろうな?』


「ちょっと調べてみます。……、うん? ない。なにもついてません」


『フェアリーというのもモンスターなのかは分からないが、中性だったのか?』


「ないと言うことは、フェアちゃんはフェアリーじゃなくてピクシーなのかな? フェアリーには男女があると聞いたことがあるから」


「ええー! それじゃあ、フェアちゃんはフェアちゃんじゃなくってピクちゃん?」


『もう名づけは済ませたんだから、フェアはフェアだ。可愛がってやればいいじゃないか』


「はい。その通りでした。ごめんねフェアちゃん。これからもよろしくね」


 フェアはアズランの言葉が分かるらしく、アズランの右肩にちょこんと座って、アズランに頬ずりしていた。見ていてもほほえましく可愛かわいいいもんだ。


 しばらくフェアをみんなで眺めていたが、きりがないので、


『それじゃあ、アズランの目的も達成できたし先に進もう。鳥かごは俺が収納しとくな』


「はーい」「はい」



 最初に意識が戻ったとき、俺一人でこの世界にやって来てひとりぼっちだった。しかもその時は生ものの本格派ゾンビ。それからいろいろあって、こうして、トルシェ、アズランの仲間ができた。それだけでなく、おそらく究極兵器きゅうきょくへいきのリンガレング、もはや最凶さいきょうスライムといってもいいコロ、そして、フェア。いったい、俺たちはどこに向かって行くんだろう。


「それはもちろん、下にりる階段ですよ」


 いかん。また考えてたことが漏れてしまった。しかし、俺たちをとめることができるような連中がいるか? いっそのこと、このまま闇の帝国でも作ってしまうか。なーんてな。



 俺たちがアズランを先頭にして歩いている間は、フェアはアズランの周りを飛び回っている。なにかあってアズランが一気に駆けて行っても簡単に追いつくことができるようだ。確かにフェアリーだかピクシーだかの妖精は俊敏しゅんびんなようだ。



 そして、とうとう19階層に下りる階段を見つけた。


 問題なのは、その階段の周りには無数のフェアリーだかの妖精がキラキラと何かを振り撒きながら飛び回っていることだ。そいつらは、俺たちに気づいてはいるようだが、何もしてこない。遠目にも可愛らしく見える妖精たちをどうせよと。


『ダークンさん、あの妖精たちを皆殺しにしちゃうんですか?』


 アズランが泣きそうな顔をして俺の方を向いて尋ねるのだが、俺もどうすればいいのか分からないので、トルシェの方を向くと、すでに両腕を伸ばして、


『それじゃあ、いっきまーす!』


『ちょっ、ちょっと待てトルシェ!』


『えっ? どうかしました?』


『いや、あんなにかわいらしい連中を殺したくないだろ?』


『べつに』


『いやいや、俺もアズランも殺したくないと思ってるんだ』


『殺さないなら、他にどうします?』


『あいつら、俺たちを見ても攻撃してこないんだから、このまま素通りできるんじゃないか? もし攻撃して来たら、その時考えればいいし』


『わかりました』


『それじゃあ、連中をあんまり刺激しげきしないようにゆっくり歩いて行くぞ。ん? アズラン、どうした? 変な顔をして』


『え? 刺激しないように、にっこり笑っているつもりなんですが、変ですか?』


『その努力は買うが、何もそこまでしなくても自然体しぜんたいで行けばいいと思うぞ』


『自然体、自然体、……』


 俺の言った自然体を何と思ったか、自分の顔で福笑ふくわらいを始めた者が若干一名いた。


 妖精たちは近づいて来る俺たちに無関心にそこらを飛び回っているだけで、何事もなく階段にたどり着くことができた。


『案ずるよりむがやすしだったな。それじゃあ、とっとと階段を下りよう』


『あれ? フェアちゃんが』


『アズランの頭の上にいるよ』


『フェアちゃんちゃんといた。よかったー』


『いちど、名前を付けた以上は、フェアはアズランから離れやしないよ。多分だけどな』


『はい』



 アズランも安心したようで、俺たちは階段を下りて行き次の19階層に到着した。



「『新階層チェック球』、19にセット終わりました」


 銀色のボールを手にしたトルシェが報告してくれた。


『トルシェ、ありがとう。18階層じゃ宝箱を取りそこねたけど、仕方ないな。それで、この階層は何が出てくるのかな? 何にせよ、ここを抜ければ目的の20階層だ。気を引き締めていこう』


「はい!」「はい!」


 二人とも気合の入ったいい返事だ。



[あとがき]

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現代ドラマ・短編『山のあなたは耳遠く』

https://kakuyomu.jp/works/1177354054917960469

なろうからの加筆転載です。よろしくお願いします。

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