第66話 アズランの進化


 俺がコロちゃんと遊んでいるあいだにも、トルシェとアズランは黒スライムをたおし続けていた。


 黒スライムのコロちゃんが仲間になった以上、俺には黒スライムは殺せない。わけでもなく、適当に蹴っ飛ばしたり、リフレクターでたたいたりプッチしながらすぐに二人に追いついて『闇の神殿』に向かって行った。


『ここが「闇の神殿」だ。池の真ん中に立っているガーゴイルの頭の上に載っているのがご神体さまだ。どうだ、神々こうごうしいご神体さまだろ?』


「私には、ただの石に見えます」


 あれれ?


『今はそうかもしれないが、修行しゅぎょうを積んで行けばおまえにも神々しく見えるようになるはずだ。それでは、俺たちのマネをしてご神体を拝むんだ。「二礼、二拍手パチパチ、一礼」』


 俺たちの礼拝を横目で見ながら、アズランが『二礼、二拍手パチパチ、一礼』


『いいか、アズラン。われわれのしゅ御名みなを教えるからな。一度しか言わないから、よーく聞いて覚えろ。われらが主の御名は「常闇とこやみの女神」だ。この名は人前では決して口にしてはいけない』


「え? それはどうしてですか?」


『それは、おそれ多いからだ。よーく覚えておくように』


「は? はい」


 最初のうちは納得なっとくしないかもしれないが、そのうちわが主の奇跡をの当たりにすれば俺の言っていることに納得するだろう。アズラン、おまえはすでに『闇の眷属』序列第三位なのだ。自覚をもってこれから生きていかなくてはならない。


「それじゃ、アズラン、水袋に『暗黒の聖水』を補充しちゃおう」


「は、はい」


 アズランを誘ったトルシェがまたいつものようにマッパになって、池の中に入り、ガーゴイルの口から水袋に水を入れ始めた。


 先輩の挙動を見ていたアズランも意を決して、マッパになり、水袋を持って池に足から飛び込んで入りガーゴイルの立っている場所まで歩いて行った。アズランは背が低いので、水面が顎まで来ていてアップアップしているように見える。


「アズランまで池の中に入らなくても、わたしが水をんであげたのに」


 いやいや、先に言ってやれよ。アズランが困ってるだろう。


 何のかんので全部の水袋が一杯になったようだ。


『トルシェ、ちょっとおまえの『暗黒の聖水』を借りるな』


 そうトルシェにことわって、俺のリュックに入ったままで炭で黒くなってしまったトルシェの水袋を1つ取り出し、鉄箱の蓋を取って、中のコロちゃんに少しかけてみた。『闇の眷属』である俺のコロちゃんなのだから『暗黒の聖水』に反応するかもしれないと思ったからだ。


 ほう、かけた水がすぐにコロちゃんに吸い込まれていった。喜んで『暗黒の聖水』を飲んでいるみたいだ。


 コロちゃんのエサは、上にがって緑のゴブリンでも見繕みつくろおうかと思っていたのでこれはありがたい。これから先、お腹が空いたそぶりを見せるようなら、『暗黒の聖水』を与える方が楽だ。


「あれ、知らないうちにダークンさん、スライムを捕まえてたんだ」


 マッパのまんまのトルシェがしゃがみこんで鉄箱に入ったコロちゃんを覗き込んできた。


『どうだ、かわいいだろ? コロって名前を付けたんだ。それはそうと、トルシェ。何でもいいが体を乾かして服を着ろよ。アズランもだぞ。トルシェに乾かしてもらって服を着ろよ』


 トルシェのドライヤー魔法で二人ともすぐに体は乾いたようで服を着たようだ。


 またトルシェがしゃがみこんで鉄箱を覗き込んでコロを見ている。アズランまでトルシェの真似をしてかしゃがみこんで鉄箱の中を覗き込み始めた。


「ダークンさん。この子、ちょっと小さいけど、何だか他のブラック・スライムと比べて黒くないですか?」


『そうかな。俺には色の違いはわからなかった。そろそろいいか?「進化の祭壇」に行くぞ』


「はーい」「はい」





『闇の神殿』から、ブラック・スライムを三人で思い思いの方法でたおしながら『進化の祭壇』のある広間にやってきた。


 先端に炎をともした円柱が部屋の真ん中にちゃんと立っている。その円柱にいつものように進み寄った。


 側面に刻まれた謎文字はいままで読めなかったのだが、


『ᚨᛚᛏᚨᚱ ᛟᚠ ᛖᚢᛟᛚᚢᛏᛁᛟᚾ』「進化の祭壇」と読めた。まあ、これも予想通りだな。


『それじゃ、まず俺が進化できるかどうか確かめてみるな』


 二人が見守る中、柱の文字に左手をあてた。



『これは、進化の祭壇。汝、進化を望むや?』


 おお、また進化できる。それでは、遠慮なく進化させていただきます。


『はい』


『望みは叶えられた』


 また一瞬だけだが、頭がクラッと来た。


『どうだ? 二人から見て、俺はどう変わった?』


「見た眼は全く変わってないというか、違いは判りません」「私にも違いは判りませんでした」


『おかしいな。この先の鑑定石で確認してみれば違いが分かるだろ。それじゃあ、トルシェはいいんだな?』


「ええ、このままでいいんで、次はアズラン」


「私が進化するんですか?」


『するかどうかは分からないが、あれだけブラック・スライムをたおしていたら進化する可能性が高いんじゃないか? まあ、とりあえずやってみろよ』


「それじゃあ、ちょっとだけ」


 アズランもだいぶノリが良くなってきたようで結構けっこう、結構。



 アズランが、円柱の文字を触った。……



『おおお! アズランすごいぞ!』


「え? どうなりました?」


『まず、自分で手足を見てみろよ』


「うわっ! 褐色かっしょくになってる。トルシェさんと同じだ。あれ、髪の毛の色は黒いまま?」


『一言で言って、精悍せいかんになった。闇に生きるアサシンって感じですごくカッコいいぞ』


「アズランの黒髪が褐色の肌にマッチしてカッコいい」


「そうですか? なんだかうれしくなったな」


『おそらく、アズランはダーク・ハーフリングか何かに進化したんだろうが、ちゃんと確かめに行こう』



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