第44話 ゴーレム戦


 ゴーレムの弱点と言われる額の文字を見つけたぞ。


 だけどなんて書いてあるんだ?


『ᚷᛟᛚᛖᛗ』


 指輪に書いてあったのとおなじ模様の種類だ。そもそも、この模様が文字として右から読むのか左から読むのかわからないし、その前に本当に弱点なのか? 弱点と思って無理していいこと有るのか? やはり正攻法だな。それで、あいつにスキがあれば、左読みに賭けて『ᚷ』を消しに行ってみよう。


『正攻法で行ってみる。トルシェは少し離れたところから援護してくれ』


『分かりました。ダークンさん、いままでありがとうございました』


 また、お別れのあいさつだよ。『チーム・ダーク・ブラック』のきずなはこんなものだったのか? いや、トルシェを信じてここは逆フラグと考えておこう。


 さて、どう見てもこのゴーレムには刃物は効きそうにない。ここは、リフレクター一択いったくだな。


 右手に持っていたエクスキューショナーを左腰に差した鞘に納め、両手でリフレクターをもちなおした。


 さあ、ゴーレムに突貫とっかんだ!


うりゃーカタカタカタ!」


 まったく締まらないが、仕方ない。最上位スケルトンとなってもここだけは昔のままだ。


 思った以上にゴーレムの動きは遅い。これならいける。


 ゴーレムに近づき、思いっきりバットスイングで左ひざを強打してやった。


 ゴーン。


 まるで、除夜の鐘じょやのかねだ。いい音が響いたのだがそれだけだった。


 硬い。


 ダメージが全く入らないとなるとどうすればいいんだ?


 ゴーレムの動きが遅いことで見くびっていた。さてどうする?


 そんなことを考えて、ゴーレムの間合いの中で動きを止めてしまったのがいけなかった。


 気付いたら、ゴーレムの右拳みぎこぶしがヘルメットのすぐそばに迫っている。これはもうかわせない。踏ん張らずにそのまま吹き飛ばされた方がダメージが少ないはずだ。


 グガーン!


 これまで聞いたううちで一番大きな音を聞きながら俺は吹き飛ばされ、そのまま通路の壁にたたきつけられた。


 ズシャッ


 下を見ると俺の鎧が大きくへこんでいる。鎧の中でカラカラ音がするのは俺の骸骨からだの部品が鎧の中で何個所か壊れたせいだろう。


 視界も何だか制限されている。


 この分だと、ヘルメットも凹んでいそうだ。先ほど殴られた右頬みぎほほの部分を触って見たら、やっぱり大きくへこんでいる。バイザーもずれたまま動かなくなったようで、視界がおかしなことになっている。


『ダークンさん!』


 なんとか、ヘルメットの方向を調整し、視界を元に戻してトルシェに軽く手を振ってやった。吹き飛ばされても手放さなかったリフレクターを握り直して、すぐそばまで迫って来ていたゴーレムに対峙たいじする。


 さあ来い。


 さっきは油断したが今度はそうはいかないぞ。


 リフレクターをヤツの攻撃に合わせさえすれば勝機しょうきはある。ハズだ。


 ここで、トルシェが、『穿孔光針』、光の針の奔流ほんりゅうをゴーレムの頭部にあびせ始めた。


 それを嫌ったゴーレムが両手で頭を守る。ある程度は効いているみたいだ。光の針の奔流がすこしずつゴーレムの両手を過熱していく。


 ゴーレムの手が『穿孔光針』を浴び続けて赤くなってきたのだが、特にダメージが入っているようには見えない。ゴーレムもそのことに気づいたのか、頭を守るのを止めて、あらためて俺の方に近づいてきた。


 ゴーレムが左腕をゆっくり振りかぶり、俺に向かって振り下ろした。これなら簡単にリフレクターを合わせられる。


 ゴーン。


 また、かねの音がした。


 衝撃がゴーレムに反射した感じはなく、さっきと同じように俺は吹き飛ばされ、また壁にたたきつけられてしまった。


 だめだ、こいつにはまだ勝てない。リフレクターの反射が効かない相手もいるということを胸に刻んでここは撤退てったいだ。



 壁から崩れ落ちて床の上にうずくまっていた俺だが、なんとか気力を振り絞り、


『トルシェ、だめだ。ここは一時撤退だ』


『分かりました』


 待てよ、こいつを挑発ちょうはつしながら後退すれば、さっきの罠にはめることができるんじゃないか?


 やってみよう。


『トルシェ、がりながらヤツを挑発してくれ。そのまま追いかけさせて、さっきの罠にはめてやろう』


 10歩ほど下がっては、ゴーレムに嫌がらせの小型『ファイア・ボール』をトルシェが放つ。まるで効いてはいないが、ゴーレムは律義りちぎに追いかけてくる。


 10回ほどそれを続けた。すぐ後ろは、例の罠の場所だ。落とし穴のはずだが違うかもしれない。ここは落とし穴であってくれ。


 俺たちは自分たちが罠にかからないよう通路のはしを通って、罠の後ろに回りこみ、そこで突っ立って、ゴーレムがやってくるのを待っている。


 ゴーレムは俺たちに向けてゆっくり足を進め迫ってきた。よく見るとゴーレムの額にあった模様だか文字だかはすでに消えていた。ただの飾りだったらしい。まぎらわしい。


 あと、3歩、2歩、1歩。


 ゴーレムが罠のある床の端に右足を置いた。


 そのとたん床が抜け、大穴が通路にでき上がった。右足が宙に浮きバランスを崩したゴーレムはそのまま前のめりに倒れ込み孔の中に落ちて行ったのだが、両手を通路の穴の縁に突っ張って、落とし穴に落ちていくのをこらえている。


『トルシェ!』


『はい』


 トルシェの右手から穿孔光弾せんこうこうだんが放たれ、ゴーレムの手のかかった穴の縁を吹き飛ばしてしまった。パラパラと破片が穴の中に落ち、支えを失ったゴーレムも一緒に穴の中を落っこちて行った。


 上からのぞくと、ゴーレムは最後まで手足を動かしてあがいていたがそのうち見えなくなった。


『なんとかなったな』


 たまたま落とし穴があったから何とかなった。


『なんてことはない敵でしたね』


 そういって、今度は大き目の『ファイア・ボール』を穴の中に撃ち込む姿はまさに序列二位の貫禄かんろく


 しばらくして爆風が吹き上がってきてあおられてしまった。天才トルシェにとっては大したこともない敵だったようだ。



『せっかくだから、「穿孔光弾せんこうこうだん」も黒くしてみようかな』


 トルシェ、おまえは大したものだよ。だがな、ここはまず『二礼、二拍手、一礼』だろ。


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