第41話
「それにしても啓ちゃん、さっきはかっこよかったよ? 助けてくれてありがとね!」
「あ、俺かっこよかったなんて初めて言われたわ」
「香里ちゃんがいなくてよかったぁ。啓ちゃんのかっこいい所なんて見せたくないもんね、私だけ知ってればいいし。 むしろ私だけ知ってれば可愛くなくてもかっこよくなくてもいいや、ダサくてモテない方が安全かも!」
「言ってる事がめちゃくちゃで全然わかんないんだけど?」
「例えばスキンヘッドにして眉毛全剃りとか? 誰も寄り付かなくなるよ、あはは」
「おい、お前本当にやりそうだから洒落になってないぞ……」
俺は香里の名前が出た事で思い出した。
柚も誘って遊びたいって言ってたんだった。
「そういえばさ、香里が土日柚も誘って遊びたいんだってさ」
「私を誘って? なんでわざわざ?」
「柚もいた方が楽しんだってさ」
「え? 私は全然楽しくないよ、啓ちゃんと2人きりなら大歓迎だけどそこに香里ちゃんが入るとなると嫉妬で狂っちゃいそう」
「頼むから変な気は起こすなよ? それになんだかんだで香里はお前の事も助けてくれてるだろ?」
「だから理解できないんだよねぇ」
「世の中お前が思ってるような奴ばっかじゃないって事だ」
柚は香里の意図を探ろうと少し考え込んでいた。
「うーん、わかんないなぁ。 わかんないと言えばいつの間にそんな約束してたの? 私何も聞いてない!」
「今朝そんな電話が掛かってきたんだよ」
柚から少しドス黒いオーラが漂っている、こんな時は話題を逸らそう。
それからショップなど見てその後帰ることにした。
「今日は楽しかった。 啓ちゃんありがとう」
「ああ、気を付けて帰れよ」
そして次の日学校に行くと……
「新村君、昨日は柚と遊んであげたんだって? 柚凄く嬉しそうに電話してきたよ」
「新村君もなんだかんだ言って柚の事気にしてくれてるみたいで安心したよ」
坂木と平井が俺にそう言ってきた。
ああ、確かに気にしてるよ。 もう認めた方がいいかもしれない。 俺は柚が好きなんだ。
柚に告白された時は俺は柚の過去に気圧された。 だけど柚は自分で受け止めて自分でなんとかしようとしている。
そんな柚の助けになりたいと思っていた。前は柚の過去に俺自身が覚悟が足りなくて身を引いた。
だけど今は違う。 知った上で俺は柚と一緒に柚の力になりたい。
今度はその気持ちを俺から伝えよう。
だがそんな気持ちとは裏腹に柚はその日登校してこなかった。
そして次の日も……
「朝日奈さんこないねぇ」
「ああ、連絡しても通じないんだ。 LINEも既読にならないし」
俺と香里は一向に来る気配のない柚を気にしていた。
「朝日奈さんの事そんなに心配?」
「ああ、あいつがどこか消えてしまいそうで……」
「じゃあさ、私と朝日奈さん選ぶとしたらどっちを選ぶ?」
試すような、それでいて真剣な眼差しの香里はそう聞いてきた。
「悪い、香里。 俺は柚を選ぶよ。 あいつとの時間は凄く濃かった。 凄く迷惑な時もあった、鬱陶しくて軽蔑もした。
だけど不思議と柚を嫌いになれないんだ。 それは俺が柚の事を好きだから」
「………そっか、そうなんだね。 私にもチャンスあるかと思ったんだけどやっぱ朝日奈さんには敵わないか。 わかった、じゃあ朝日奈さんのとこに行くべきだよ。会ってちゃんと話して!」
ああ。そうするよ。 今日柚の家に行こう。
学校が終わりその足で柚の家に向かう。
一応LINEでメッセージを入れたが既読にならない。
電話もかけるが繋がらない。 なんでもいいから返事をくれよ!
そしてどれくらい電話をかけ続けたろう? 柚はようやく電話にでた。
「ごめんなさい、ずっと出なくて……」
「いや、出てくれてよかった、今から行くけどいいか?」
「………… いいよ、来て」
やはり元気がない。
柚の家に着いた。そして柚が出てきて中に入れられるとそこにはカーテンが閉めっぱなしで部屋の中はめちゃくちゃになっていた。 何があったんだよ……
柚は部屋の片隅で丸く蹲った。
「おい、柚」
「私…… ダメみたい、どうしても啓ちゃんの事好きで好きで独占したくて」
「柚、今日俺が来たのはさ、柚の事が好きだって思ったからなんだ。 前は俺に迷いがあってはっきりできなかった。 でも俺は柚が好きだ」
「そう…… これでも?」
柚は包丁を握り俺に近付いてきた。
「今度は正気だよ? だから途中でやめたりしない」
「柚、こんな事しなくてもいいはずだ!」
「1度私の気持ちを否定した啓ちゃんにはわからないよ! ねぇ? 私と心中してくれる? 私の事好きならできるよね?ね?」
柚は包丁を俺に刺そうとしてきた。 一振りを躱して柚の腕を掴む。
「柚!」
柚はもう片方の腕で俺を殴った、そして押さえていた腕が自由になり包丁を振りかぶった。
俺は寸前で躱し壁に深く包丁が刺さる。
柚は包丁を捨て俺の首を絞めてきた。
「知ってる? 不幸な家庭で育った子供はまた不幸になるの。だったら……いっその事」
ああ、そうか。 柚苦しいんだな悲しいんだな、俺が好きって言ったから幸せなまま死のうと思ったのか?
俺はこんな事をされても柚の事が好きだ。 もう柚の好きにさせよう、そう思い苦しいが柚に微笑みかけた。
すると柚が驚き絞める手が緩まり俺の顔に柚の涙が落ちた。
「どうして? どうして笑うの? 私最低なんだよ? 汚い女なの! なのにどうしてそんなに優しくしてくれるの!? そんな風にされたら私…… 私!」
「好きって気付いたからさ。 柚の事を」
柚は俺の首から手を離して泣いた。
「不幸な家庭なんかじゃないって思った! お父さんお母さんがいたのにそんな風に思いたくなかった! なのに……」
俺は泣いてる柚をそっと抱きしめた。
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