第20話
土曜のよく晴れた朝、 こんな時は出掛けるのに最適だ。 というのはみんなの意見で俺はこんな晴れた朝には寝ているのが1番だ。
あれから鮎川は朝日奈の家に住みついた。 いい事だ、朝日奈の注意が鮎川に向けば俺のに構う事も少なくなるだろう。
ところが……
2度寝をしてしばらくすると電話が鳴る。
俺に電話を掛けてくるやつなんか徹か朝日奈のどちらかだ。
頼むから徹であってくれ。 それなら即断れる。
だが俺の期待も虚しく電話を掛けてきたのは朝日奈だった。
こいつが電話を掛けてくるなんて呼び出しに決まっている。 なんせ休みだからな。 無視だ……
………… 一体どれだけコールする気だ?
自然に切れてはまた掛けを繰り返している。 しかも変に感覚がある、と言うことは掛けながら放置して鮎川とでも喋りながらでやっているんだろう。
そして俺がその時に出ても画面など見ていないので気付かれない。 そう推理した俺は試しに電話を取ってみた。
「もしもし……」
「……………」
ほら、無言。 しかも微かに遠くで鮎川と朝日奈が話している声が聞こえる。
これで電話に出たという事実は残りシカトしたのはそっちだと言い張れるので俺は勝ったと思い電話を切った。
しばらくしてまた電話がかかってきた後メッセージが届いた。
ようやく諦めたか。 スルーしたいが先程の件もあるので開くと……
『無視するなら新村君の家に行くから!』
は? そう来たか……
でも俺は自分の家を教えてないし大丈夫だろと思った。
『来れるもんなら来てみれば?』
そう返すと『わかった』と言いそれ以降返信はなかった。
まさかな。 寝ようと思ったが朝日奈とのやり取りで眠気が吹き飛んでしまった俺は寝ボケてたせいで徹に聞けばバレるじゃんと言う事を忘れていた。
俺の友達だからと俺より早くにあいつと連絡先交換していたのを忘れていた。
朝日奈から逃げるために出掛けるのもバカらしいし諦めた。
親には一応高校の友達来るからと言っとくか……
「母さん」
あれ? いないのか? まぁいいか。 父さんと出掛けたか。 説明する手間も省けるし。 さっさと朝日奈には帰ってもらおう。
そして1時間過ぎた辺り……
インターホンが鳴り玄関を開けると朝日奈と鮎川2人が来た。
「あれ? 鮎川も一緒?」
「当たり前でしょ? ストーカー被害にあってるんだから1人に出来ないじゃない」
「私は柚の邪魔したくないから行かないって言ったんだけどごめんね新村君」
「いや、むしろありがとう。 朝日奈の相手してやってくれ」
「ちょっと!邪険にしないでよ」
朝日奈の声のトーンがかなり低いのは俺の親を気にしているからだろう。
「そんなコソコソしなくても誰もいないぞ? てか俺の家どうせ徹から聞いたんだろ?」
「その通り! 親いないんだ? なぁんだ、じゃあ遠慮はいらないね! お邪魔しまーす!」
予想通りだ。 そしていつものパターンになった朝日奈の後ろから遠慮気味に鮎川も入ってきた。
「新村君のお家だ! 全体から新村君の匂いがして落ち着くねぇ」
「で、何しに来たんだよ?」
「えとね、特に何も」
「は?」
「ただ来たかっただけ」
「柚ね、本当はずっと前から行きたがってたようなんだけど、むぐぁッ」
「じゃあさっそく新村君の部屋に行ってみよう!」
朝日奈が鮎川の口を塞いだ。 なんだよ、もう大体聞こえたよ。
「はいはい、来たら絶対言うと思ったよ。 散らかすなよ?」
「うんうん!」
部屋に2人を入れた途端朝日奈は俺のベッドに寝転んだ。
「あー、疲れたぁ。 新村君ここで寝てるんだねぇ」
「他にどこで寝るんだよ?」
「ふふん、聞いてみただけ。 ねぇ、部屋に新村君のアルバムとかあるでしょ? 見たいなぁ」
「それも言うと思った。 どうせ言わないと荒らされそうだから見たいなら見ろよ。 そこの机の中だよ」
「やったぁ、ちっちゃい頃の新村君が見れる! わくわく」
そしてアルバムを出しパラパラと見ていく。
「わぁ、やっぱり女の子だね新村君って昔から」
「本当だ、可愛い」
「こんな可愛いなら新村君モテモテだったでしょ〜?」
「いや、いじめられてたよ」
朝日奈の問いに即答で返した。
「…………」
意外だったのか朝日奈は黙った。
「朝日奈とかはさ、珍しくて俺の事可愛いって言うけど小中から一緒だった奴は俺の事なんか見慣れてるんだわ。 そして女みたいだからからかいやすいんだ、まぁそう言う事」
「あ、なんか嫌な事聞いちゃってごめん。 だけどさ、 私はそんなことないよ? 確かに珍しくて可愛いっては思ってたけど見慣れるとかそんなんじゃなくて……それに私は新村君がいじめられてたら許せない」
「ありがとな。 でもそう言うしかないよな…… そんな事急に言われたら」
「違う! そんな風に思ってるんじゃない! 私が言いたいのは…… 」
朝日奈はそれきり黙ってしまった。
「少しその辺散歩してくる……」
気不味くなったのか朝日奈は俺の家から出て行った。 いつもなら少ししたらケロッとするくせに……
「新村君…… 柚ってさ、前はあんな子じゃなかったんだよ? 柚から今までの事いろいろ聞いたけどさ」
「前はどんな感じだったの?」
「一言で言えば悪女かな」
「ああ、そんな感じはするな。 なんていうかな、あいつ時々生き急いでるようにも見えるし死に急いでるようにも見える。 なんか危ういって言うのかな?」
「私もこんな事言える立場じゃないけどさ。 柚には柚の目的があってその為に悪い選択を頑張っちゃったんだよ、その時の柚はおかしかったから。 でもそうなったのは理由があってね…… 」
「それでもね、前よりはずっといいよ?確かに今でもそんなとこあるけどさ。でも話を聞く限り今柚がそんなとこ見せるの全部新村君絡みの時だけじゃない? 裏を返せば新村君の時だけは余裕がない」
「え?」
「柚って新村君が思ってる以上に不器用だよ? それで変に気張りすぎておかしな方向に行ってるようだけど新村君の事を柚なりに思っての行動だったんだよ?」
確かにお詫びとか言って散々失敗して熱出しながら学校にも来て弁当を届けていた。 そう言う一面があるってのは俺もわかってた。
「だけど俺はあいつの演技くさいような無理してるような所があっていまいち信じられないんだ」
「それは新村君は柚の事肝心な所をわかってないの、でもそれは柚が話してないから。ううん、話したくないって言った方がいいかな。柚が話さないなら私もまだ話さない方がいいと思ってるし」
だけどそれを知らないままじゃ俺はどうしていいかもわかんないだろが……
「これ以上は言ったら柚に殺されそうだからやめとく。 ただ覚えてて、少なくても新村君への柚の行動は嘘なんかじゃないと思うよ?」
そうだとしたら俺は朝日奈ともう少し向き合ってみるべきなんだと思う。好きとか嫌いとかではなく朝日奈の気持ちが少し気になった。
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