第18話


髪少し伸びてきたな。 俺が伸びてきた前髪をくるくる指に巻き付けていた、 その姿を朝日奈に見られていた。


「そのショットいいねぇ。 私に見せつけちゃってるの?」


「お前はどこかのおっさんかよ……」


駅のホームで電車来るのを待つ。


「日に日に髪が伸びてくる度に新村君の女の子度が増して可愛くてしょうがないの」


「あっそう、 俺も日に日にお前と帰るのが鬱陶しくてたまらないよ」


「あー、私の真似! なんだか熟年夫婦みたいだね」


「凄いなお前。 めげないよな」


「でしょ〜、新村君にはプライド粉々にされてるから多少はね」


やがて電車が来て俺たちは乗り込む。

そして朝日奈がくだらない話をしていると次の駅で止まり人が入ってきた。


するとその内の1人の目立つ女子がが朝日奈に向かって声を掛けてきた。


「柚〜、あれから連絡くれないんだもん! だから会いに来ちゃった。 柚の家に行っても良かったんだけど新村君も見たかったし! すれ違いにならなくて良かったぁ」


「あ、鈴菜。 いけない、忘れてた」


「本当に柚は適当なんだから。 あれ? もしかしてその子が柚のお気にの新村君?」


「そうだよ! とっても可愛いでしょ」


「確かに可愛い! でも柚ってこういう子タイプだったっけ? 付き合うタイプ変えたのね」


「ちなみに私は鮎川 鈴菜(あゆかわ すずな)よろしくね、新村 啓君」


「よろしく」


「んー、大人しい子なの?柚」


「これでもとっても私には優しいんだよね?新村君」


こいつ何勝手な事言ってんだ?

朝日奈が俺を横からキツめに抱きしめてくる。


「よっぽどこの子の事気に入ってるのね」


「私が新村君がいいんだからそれでいいのよ」


「へぇ、柚少し変わったね」


「そうかな? ところでどうしたの?」


「柚、私ストーカーされてるの」


「え、 そうなの? 誰に?」


「多分私のお客さんの誰か……かなぁ?」


その言葉を柚が聞いた瞬間少し表情が曇った気がする。


「でさ、それで柚ってその手の……」


「あ〜! 後は私の家にでも行って話そう?ここじゃなんだし」


鮎川の言葉を遮るように朝日奈は被せた。 そうか、俺に言えないことなのかもな。


「あれ? もしかして新村君は知らない感じ?」


「だからその事はいいから! 後で話そう? それより新村君も話せる話題にしてよ。 私の新村君が困ってるでしょ!」


「誰がお前の新村君なんだよ? それに俺はそれほど困ってない、困っているというより面倒くさい」


「なんか柚って新村君に拒否られてない?」


「これは違うの! 新村君の照れ隠しなんだから」


「へぇ、俺にとっちゃ初耳だな」


「柚がここまで男子に苦戦してるの初めて見たわ」


「そうなのよ、新村君ったら私が色仕掛けしても通用しないの。 屈辱だよぉ」


「さて、朝日奈たちは積もる話もあるようだから俺はここらでどっか行くとするよ」


「ダメ!」


朝日奈が横からキツ目に俺を抱きしめてくる。 せっかくお前がボロ出さない内に退散してやろうと思ってるのに……


「柚本当に変ったねぇ、すっかり新村君に毒気抜かれちゃったんだね」


鮎川も悪ノリして俺の頭を撫でてくる。電車の中でやめてくれよ……


「失礼ね!人を毒虫みたいな例えにしないで」


「いいね、柚はやっといい人見つけたんだ……」


「えへへ、暖かく見守ってね」


「付き合ってないけどな」


「凄いね、新村君って柚が大胆な事しても本当に興味なさそう。 もしかしてホモ?」


「私もそれを疑いました、でも本当に私なんか眼中になくて…… ってなんで私にそんな悲しい事言わせるのよ!」


「まぁだから柚も新村君の事気に入ったんでしょ? 他の男は柚にガツガツだったし。 大体柚って嫉妬とかするタイプじゃないと思ってたけど本当に好きな人にはするんだね。 だって私が新村君を撫でてた時超怖い顔してたよ」


「え、そうなの?」


「そうだね、〈冷て…」


「殺されたいの?」



ピシャッと空間が張り詰めるような感覚に陥った。

鮎川が何か言う前に朝日奈が言葉を発した。 初めて聞く朝日奈の凍りつくような冷たい声に俺も驚き朝日奈を見た。 なんだこいつ? 目に光が灯ってないぞ……

鮎川も怯えている。


この状況…… なんとかしろよ。

仕方なく俺は朝日奈に顔を合わせ頭にポンッと手を乗せた。


すると朝日奈は我に返ったのかすぐさま普通の表情に戻った。


「あ、なぁーんてね! ドッキリ大成功!?」


「んもう! ま、マジでビックリしたじゃない」



喋っている内に朝日奈降りる駅に着いた、そして朝日奈は鮎川と一緒に降りて行った。


「新村君またねぇ! 気を付けて帰るんだよ」


お前だけには言われたくないなそれ。

俺はそれからしばらくした後、朝日奈の闇を見ることになるとはこの時思ってもみなかった。

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