第11話


数日経ち帰りの電車の中、朝日奈はしつこく俺に付きまとい一緒にいた。


「ねぇねぇ、今日はサプライズ!」


「何がサプライズだよ? 俺はお前のせいで帰りが遅くなってるんだ、もうサプライズはいらない」


「なんで聞く前からそんなんなのよ!」


「嫌な予感しかしないからだよ」


「なんと柚ちゃんのお家に新村君をご招待しまーす!きゃっ」


俺の腕にしがみ付き頭をグリグリしてきた。


「パス!」


「え?」


朝日奈は信じられないという顔で驚いている。 断らないとでも思ったのか?


「俺そんなんより早く帰りたいんだわ」


「嘘?! 女の子の家に招待されたんだよ? それも私!」


「だからこそパスだ。 余計に嫌な予感しかしない」


「はい、決定! 新村君は今から私のお家に直行!」


ちょうど朝日奈が降りる駅に着き朝日奈は全身全霊で俺を電車から引きずり降ろした。


「お前ふざけんなよ?」


「ふざけてないし、至って真面目です」


そして朝日奈は俺の腕を掴みどんどん進んでいく。 本当に自己中な奴だ。


そして進んでいくと人気のない路地裏に入った。 すると他の高校生と思しき学生がいた。ていうかあれは……


嫌な予感がした通り前に俺らに突っかかってきた内の女子のグループとよく知らない男子だった。 俺らを見掛けるとすぐに絡んできた。


「あ、きたきた。 待ってた甲斐があったわ」


「へぇ、これが柚ちゃんか。 本当に可愛いじゃん、で隣の女?いや男は誰?」


「そっちの可愛い子は柚のお気に入りみたい。 こんな可愛い子は痛ぶるのは少し気が引けちゃうけどやっちゃって」


おいおい、やっぱり最悪なパターンじゃねぇか。 しかも俺は完全に巻き添えだし…… あんなこと言うから報復されんだよ。


「あんたら何? 私たち忙しいからどいて」


朝日奈が俺の腕を引っ張ってその集団を通り過ぎようとすると腕を掴まれた。


「痛いわね!離しなさいよ」


「柚〜、あんた調子乗りすぎだわ、そいつらに回してもらいな。 私らそれ録画してあげるから」


「とりあえずどっかのホテルにでも連れてくか。 あ、それとそこのスマホいじってる連れの男はフルボッコな」


そして俺はいかつい男子に胸ぐらを掴まれた。


「へぇ、マジで女みたいな顔してるなぁ。 こりゃあ殴りにくい」


なら殴らないでくれよ?そんな事を思ったが無情にも俺のボディにパンチが飛んできた。


「新村君!…… あんたらこんなことしてどうなるか分かってんの?!」


「まぁまぁ柚、あんたもどうなるかわかってんの?」


そうこう言っているうちに俺はなおもパンチや蹴りの殴打を浴びせられている。

いじめられていてもここまでやられる事はなかった。


「やめなさいよ! このバカ」


朝日奈は泣いている。 お前でも泣く事あるんだなと思ったけどはっきり言ってそれどころじゃない。


「さぁて、じゃあ柚ちゃんをホテルに連れて行こうか? お前らそっちの女男頼むわ」


朝日奈が連れて行かれそうだ、そろそろやるしかない。


「いたた、あ、あのさ。それより今すぐやめてとっとと帰った方いいよ?」


「あ?」


「もう通報してもらったはずだから……」


「は? 何言ってんのお前」


「俺ずっとスマホ弄ってただろ? 友達に場所とか教えて通報しといてって送ったから」


「はぁ!?」


そいつらは俺が殴られて飛ばされたスマホを見て俺が胸ぐらを掴まれる直前までスマホをいじってたのを思い出したようだ。


「ね、ねぇ、ヤバくない? 私らとっとと消えよう?」


「このクソ野郎…… さっさと行くぞ!」


朝日奈は解放され俺の所へ急いで駆け寄った。 朝日奈は大粒の涙を流し俺を抱きしめていた。


「バカじゃないの!? こうなる前にネタバレしちゃいなさいよ!」


「俺がボロボロの方が分かり易くあいつら悪者にできるだろ? まぁぶっちゃけ本当は警察に通報なんかしてない。 ただの演技だし」


「え?」


「大体あんなに早く状況説明して通報するよう頼むとか無理だろ? でもハッタリになってよかったよ、通報って言葉便利だな」


「それで通じなかったらどうするつもりだったのよ!?」


「さぁ? それならそれでどうにか通じるように頑張っただけだ」


「本当に信じらんない! 立てる? 病院行かなきゃ」


そして朝日奈に連れられ近くの病院に寄った。どこで何してこんな怪我したんだとしつこく聞かれたが駅の階段から落ちたという事にしておいた。 怪訝な顔はされたが……


そして朝日奈は当初の目的である自分の家に俺を連れて行った。

ここが朝日奈の家か。 マンション住まいだったのか。


朝日奈は俺を家の中まで連れて行きソファに座らせた。 俺の殴られた箇所を手で触り再び目に涙を浮かばせていた。


「新村君ってバカだよね? せっかくの可愛い顔が台無し……」


「いや、俺はお前の方がバカだと思うけどな」


「ねぇ、 一体何考えてるの?」


「それもこっちの台詞だよ」


俺は時計に目をやる。そろそろ帰らないと……


「もう帰るわ、朝日奈の親も俺を見たら驚くだろうし」


「親なんてこないよ?私はここに1人で住んでるの」


「は?」


「ちょっとした理由でね。 だからもう少し一緒にいない」


「………やっぱ帰るわ」


「帰るな!!」


朝日奈は玄関のドアに立ちふさがる。

俺は朝日奈の肩を掴んで退けようとする。


「ねぇ、何かお詫びしてあげたいの。 ダメ?」


「じゃあ帰らせてくれ」


もうぶっちゃけこの傷と家に帰ったらなんて言い訳するかしか考えられないしな。 朝日奈の親がなんでこないとかどうやってこんなとこ金払ってんだとか思ったけど二の次だ。


そうして俺は朝日奈を退かし朝日奈の家から出て行った。






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