あの夏で待ってる
@sonohigurashiii
世界の終わり
世界が終わる音がした。終わりますようという音は、今まで生きてきた中で最も恐ろしい音だった。拍子抜けするくらい聞き馴染みのある音で、それでいて、とてつもない恐怖をはらんでいた。
まだ一度も終わったことのない地球の終わりを、ぼくは幼いころから知っていた。ガガガーとか、ゴォォォオオとか、ズドーンという壮大な音で、地球がまるごと壊れてしまう音だ。
人の気配すらない渋谷駅前のスクランブル交差点は、少しも劇的でない終わりの音に包まれていた。
誰もいない渋谷の夏は、そよ風が心地いい。汗ばんだ肌に寒いくらいのそれは何度も何度も体をすり抜ける。そよぐ草木もない無機質の中で、ぼくの心臓が苛立つほど慎重に酸素を送り出す音だけが残されていた。
世界が最小限になってしまった今もなお、渋谷の信号機は丁寧に仕事している。その規則正しさが妙に薄情に思えた。
なにもない渋谷を写真におさめた。あまりにもなにもないので『時をかける少女』を脳内再生しながら、極彩色の夏の輪郭をなぞってみる。真夏のアイスキャンディのように瞬く間に溶けて落ちる。ちぇっ。足元に落ちた淡い期待を見下ろして肩を落す。使い道のない殺風景な渋谷のほうが、ぼくにはちょうどいい。
「なにしてるの」
思わず肩がビクっと跳ね上がる。鼓動が高鳴るのが分かった。
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