豚姫様とは呼ばせません!
とうか さや
プロローグ 醜い豚は美しい妖精の夢を見るか
鳥肌が立つような静かな夜、その静寂に満ちた木々の隙間から満月が静かに彼らの様子を見ていた。人影がいくつか森の隙間にちらついている。
その人影から少し離れた小さな湖の畔に、細く小さな人影があった。静かに流れる雲間から覗いた月明かりがその姿を露にしていくと、細く可憐な少女が一糸纏わぬ姿で湖の中へ入っていくのが見えた。
細いが丸みを帯びた裸体、揺れる金の柔らかな髪。女神と呼ぶにはまだ幼い彼女はまるで妖精のようだった。彼女は暗い湖に舞い降りた月の妖精と呼ぶのが相応しいように思えた。
その彼女を木々の隙間から覗き見ている男がいる。男は息を飲んで彼女が湖で水浴びをする様を見ていた。
私はこんなことをしに来たのではない。
しかし―――
男は彼女の連れの一人だった。危険が迫っていれば容赦なく危険を排除するのが彼の役目。しかし、彼は驚きで彼女から目を逸らすことができずにまるで暴漢の覗きのようにひたすら彼女を見つめたまま動けなかった。
理由はいくつかあったが、そのうちの一つは彼も彼女も、また他の者も信じることができないものであった。彼は驚きに身を固めたまま、動かない。
彼は眼前に広がる光景を心から美しいと思った。世界中のどんな宝飾品も、どんなに素晴らしい風景も、何ものも彼女には遠く及ばないとすら思った。
そんな彼に気がつくことなく、水浴びを終えた彼女は静かに森の隙間へ消えて行ってしまった。
彼は彼女が消えると魔法が解けたように我に返った。
「………戻らなくては」
月は静寂を守ったまま静かに雲間に隠れ、そのまま姿を現すことはなかった。
ただただ、この一瞬の時間は夢のヴェールを纏って霞んでいく。
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