第25話
咲はスキップするような調子で部屋へと向かっていた。
誰もいない廊下を弾むように歩いていた咲だったが、他の部屋から出てきた家族と鉢合わせする。気まずさに咲は顔を俯かせながら、すたすたと部屋まで歩いていく。
部屋に入ったところで、シャワーなどを済ませ、寝支度を整えながらも咲は放課後についてを思い出し、口元を緩めていた。
それから、思いだしたように真由美に電話をかけた。
『もしもし、咲っちー?』
「はい、お待たせしてしまいました、真由美」
治とのデートが終わり次第、咲は真由美に連絡すると話していた。
シャワーを浴びながら今日一日を振り返っていたため、予定よりも随分と遅くなっていた。
もはや電話ではなく明日学校で会って話をすればよいのではというほどだった。
スマホを耳に当てながら、咲はベッドにごろんと転がる。まもなく、真由美のむすっとしたような声が響いた。
『うーん、遅いよー、あんまり遅いから今日はどこかにお泊りでもしてくるのかと思ったよ!』
突拍子もない発言に咲はむせる。
「お、おおおおおお泊りなんてそんなことしませんよ! そういうのは結婚してからでしょう!」
『それはさすがに遅すぎ。それで、どうしたの? そっちから電話かけてきたってことは結構うまくいったの?』
「か、完璧でしたね。私に一切のミスはありませんでしたね」
『……それを咲が言うときってだいたい凡ミスしているときなんだよね。それじゃあ、島崎くんと会ってからのことを色々と聞かせてもらってもいい?』
「分かりました」
咲はそれから治と過ごした流れについての話をした。
ふんふん、と相槌を行っていた真由美が笑みをこぼしたのが電話越しにもわかる。
「――そういうわけで、マンションまで一緒に帰ってきたんです」
『へぇ、なかなかうまく行ったみたいじゃん』
「ふ、ふふん……そうでしょう。私くらいにかかればこのくらいは造作もないということですね」
『よく言うよ。事前に私と散々確認して、昨日だって一緒に服を見に行ったじゃんか』
「そ、それは助かりましたが……その、絶対誰にも言わないでくださいね?」
『もちろん、言うつもりはないよ。そういえば、さっきのデートの話なんだけど、確かに今日のデートはうまく終わったわけだけど、次のデートの約束も取り付けたの? まあ、服買って、次はそれで出かけようって言えば簡単だもんね。中々やるね、咲っちー』
「……ぐ、具体的な日にちまでは決めていませんが、それに近い話はしましたよ?」
『わー、そこは意気地なしなんだねー』
「だ、だって! 今日行ったばかりでまた約束だなんて迷惑かもしれないじゃないですか!」
張りあげるように言うと、真由美はくすくすと笑った。
『やっぱり咲っちは咲っちだね? まあ、別にメッセージで送ればいいと思うけど、その場のノリで次決めちゃったほうが楽だと思うけどね。家に帰ってからだと熱が冷めちゃうかもしれないし』
「さ、冷めるものなのですか?」
『咲っちは勝手に盛り上がっているみたいだけど……島崎くんも同じように楽しんでくれたかどうか分からないよね?』
「うぐ……っ。そ、それは……で、でも一緒に夕食を食べに行きましたし……っ! 私は、嫌いな人とは食事をしませんよ!」
咲はそう言ったが、真由美はそれをすぐに否定する。
『なんだか話を聞く限り、島崎くん真面目な人っぽいし、本当にただのお礼ってこともあるんじゃないの?』
「……そ、それは……その」
真由美の言葉を完全に否定することはできなかった。恩義を感じ、そのお礼としての誘いだったという可能性は十分に考えられた。
『咲っちが、そんなに仲良くしたい、のならもっと積極的に声をかけたほうがいいかもよ?』
「……わかり、ました」
咲はスマホの前でこくこくと頷いた。それから、真由美からくすりと笑い声が聞こえた。
「な、なんですか?」
『いやぁ、別に異性としては意識していないみたいなこと言っていた割に、かなり乗り気だなぁ、と思ってね』
「そ、そんなことはありませんよ……?」
『あるよ。幼馴染の私が言うんだよ? 今までこんなことなかったじゃん』
「……」
咲は真由美の言葉を受け、口を閉ざした。
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