第23話


 咲とともにショッピングモールから出ると、外はすっかり暗くなっていた。

 スマホで時間を確認すると、時刻は21時前だった。

 心地よい夜風に向かうように治たちは歩いていた。ちら、ちら――治は咲の腹へとついつい視線を向けてしまう。


 食べ放題での咲の食べっぷりは見事だった。あれほどの食糧がどこに入っているのかと治はしきりに考えていた。

 そんな治の目が咲とぱちりとあった。そして咲は、目を細めてきた。


「……先ほどから、いえ……食べ放題で食事をはじめた辺りから、じろじろとどうして見ているんですか?」

「その体のどこにそんなに入るのかなと思ってな……」


 人間の体の構造について考えていた治に、咲はむすっと頬を膨らませる。


「そんなに食べていましたか私?」

「まあ、結構な。あれだけの食べっぷりだと見ていて気持ちいいからな」

「……そ、そうですか」


 僅かに頬を染めながらも咲は決して嫌そうな顔ではなかった。

 どちらから言い出したわけでもなかったが、治と咲は並んで歩いていく。

 暗くなっていたので、咲のマンションにまでは送るつもりだった。


「飛野って、学校の……昼食とかはどうしているんだ?」

「どうしているとは?」

「……腹一杯食べるには結構買い込んでおく必要があるんじゃないか?」

「そうですね。それなりにコンビニなどで買い込んでから登校していますね」

「……なるほどな。周りの人に驚かれるんじゃないのか?」

「私、人前では基本的にそんなにたくさんは食べませんね」

「そうなのか?」

「はい……つまりまあ、島崎さんは特別、ということです」


 特別、という言葉に治は照れ臭くなる。咲は意識なんてしていないようだったが、その一言が治の心に鋭く突き刺さっていた。

 

「特別、というよりももうバレてるから隠す必要がないってことじゃないのか?」


 照れ隠しの冗談を返すと、咲は苦笑を浮かべた。


「……ま、まあそれもありますね。とにかく、学校での私は誰かと一緒に食べるときは抑えて、一人で食べるときは生徒会室で食べますね」

「生徒会室……ってことは、生徒会に所属しているのか?」

「はい。将来の自分のためにもなると思いまして、そういった活動にはできる限り参加していますね。……部活動までは、参加していませんが」

「まあ、生徒会と合わせてやるのは大変そうだしな。生徒会だけでも十分なんじゃないか?」

「そうかもしれませんが、世の中の人の多くは生徒会と部活動くらいのかけもちはできますからね。自分の未熟さを痛感させられることが多いです」

「俺からしたら、生徒会だけでも凄いけどな。……ちなみに、生徒会では何をやっているんだ?」

「生徒会長です」


 ふふん、と胸を張る咲。

 そんな彼女の言葉に、目をぱちぱちと何度か瞬きを繰り返す。

 

「……生徒会長なのか?」

「な、なんですかその意外そうな目は……失礼ですよっ」


 咲が治の腕をつかみ、体を揺らしてくる。治は急な接触に驚きと照れが入り混じる。


「い、いや……その。結構ぬけているところがあるから……大丈夫なのかと思ってな」

「なっ! 私、そんな抜けているところありますか?」

「そもそも……初めて会ったときからそんな感じだったし、な」


 財布を忘れ、絶望した顔をしていた咲を思いだしていた治に、咲はむすーと頬を膨らました。


「私は完璧な生徒会長なんですからね」

「……自分でそういうとなんだか完璧って言葉が薄っぺらく感じるな」

「とにかく、私は完璧なんですっ」

「あー、わかったわかった」


 駄々をこねる咲の姿が可愛らしく、治は流し気味にうなずいた。

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