05 庭へ2

005



ドルドが開けた玄関の扉を出ると白い雪原の広がる森が見える


玄関前は埋もらないようにいつも自分が雪を避けているが、

今朝は召使いに任せたのだった


〈寒い……〉

サフィールにぴったりくっついていた彼女は吹きすさぶ風に目をつむって身を震わせた


「寒いね。ほらさすってあげる」

彼女の背中や腕、肩を擦りながら防寒の魔術をかけてやった

(なるべく日常生活に魔術は使わないと決めていたんだが、だめだな)


〈何…?もしかして暖めくれてるの? ありがとう〉

「雪だるまつくる?」


サフィールは雪を集めて丸め始めた

自分にも防寒の魔術を掛けていたので、雪を触っても少し冷たさが伝わるだけだった

〈それ、雪遊び?

もしかして遊んでいいの?

あの怪物に食べさせるのではなかったの〉

「雪だるまなんか作った事ないな。冬に外に出ると叱られたからな」


〈私、うさぎつくる……〉

サフィールを静かに見つめていた彼女は倣って雪を集めだした


(良かった·····)

逃げようとするそぶりを見せるかと思っていた

もしくはただ何もしないで立っているだけかもと


(逃がさないけどね)


ライラは幼い頃ユノーに作ってもらったうさぎの形を思い出しながら雪を固めた

それにしても前に外に出て雪に触った時、とても冷たかったのに、今は全く冷たくない

まるで土を触っているかのようにほんのりとひんやりするだけだった


雪は冷たくて当たり前なのに、不思議な事があるものね


〈何か顔に使えるものはないかしら〉

「ほら、これ付ける?」

ライラがそれなりの大きさにこんもり盛って固めると、

見計らったように主人が用意していた色とりどりのボタンや大き目のガラス玉を渡してきた


〈使っていいの?〉

ライラは豪華な小物入れに入った綺麗なボタンやガラス玉を眺めた

この世界はボタンさえも美しい

ライラの服のボタンはどれも掛けてしまっていたからそもそも不格好なのは仕方なかったけど


〈これなんてツヤツヤ。同じ色が二つ欲しいわ

あ、この赤いのはお鼻に使うわね〉

ボタンを手にとりながら話す彼女の表情や声色にはほんのりと明るさがあった

吟味して選んだものを雪の塊につけている

雪の白色にボタンが映えて鮮やかに光っていた

とりあえず3点あれば顔に見えるが、たぶん耳がない


〈うさぎには長い耳がいるけど、残念ね〉

彼女はつけていた耳あてをぽんぽんと両手で触ってサフィールを振り返った


(やっぱり耳だ。可愛い……)

彼女の言っている事がわかっただけなのに、胸がじんわりと歓喜に溢れた

そんな些細な事がこれ程嬉しいなんて自分は本当に彼女に参っている


耳の飾りになるだろうと思い、葉を呼び寄せるため魔術を込めた手を降った

遠くの木から、ヒラヒラと葉が何枚か落ちてきて、手のひらで受け止めた


「どうぞ」

〈……今の何?

あなた、葉っぱを呼んだの?〉

目をまん丸とさせて驚いた様子の彼女は葉を一枚取ってまじまじと眺めている


そうか、彼女は魔法を知らないのか

宵の民は魔法を使えるとは聞いた事がないからな


手の平に残っていた葉を雪の動物に挿してやった

多分これは雪うさぎだ


(ここは私の知らない場所だもの、魔法があってもちっとも変じゃないわ

まわりの人がみんな影の形の化け物なのだし)


ライラは持っていた葉を雪うさぎに挿して完成させた

ユノーの作ってくれたものとは少し違うそれは懐かしい故郷を思い出させ、

燻るように淋しい気持ちが胸に広がっていった


雪うさぎを見つめせつない表情をする彼女にサフィールは自分も泣きそうだった

彼女は直ぐ側にいるサフィールなど忘れ、雪うさぎを通して故郷を思っている


「もう帰ろう。雪だるまはまた今度作るね。

この雪うさぎには魔法を掛けておいてあげる。

埋もれてしまわないようにね」


君の思い出を引き出して、寂しくさせるとしても、私は少し君に近づけた気がして嬉しかったから

立ち上がって手を引くと彼女は素直にそれに従ってくれた


〈ね、あの四足の動物はなんだったの?

私を食べさせるんじゃなかったのね?〉

「うん……」

彼女が何か問いかけていたがサフィールは貼り付けた笑顔を向けるだけで精一杯だった

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