第29話 支援術士、反攻に転じる
「グレイスどの、お覚悟! せいっ……はあぁっ!」
「う……そう来ると思っていた……!」
「はっ……これを受け流すとは。ならば、それっ……!」
「くっ、まだまだ……!」
いいぞ、以前とは全然手応えが違う。あれから特訓を重ねた結果、俺は目も慣れたせいもあるだろうが、悪い姿勢等を回復する矯正術にも磨きがかかり、ジレードの猛烈たる槍捌きを軽々と受け流すことができていた。
「はぁ、はぁ……見事だ、グレイスどの。最早、一切手加減などしていないというのに……」
「いやいや、まだまだ……」
俺の台詞は謙遜ではなく本心からで、ここから攻撃に転じるとなると、その分隙も生じるのでかなり時間がかかるだろうとは思う。
それでもSS級の冒険者、さらには【闇騎士】相手にこれなら防御に関してはもうあまり心配はいらなそうだ。もちろん、命がかかる実戦となるとまた色々変わってくるので決して油断はできないが。
「――きゃあっ!」
一方で、アルシュも【賢者】のテリーゼを相手に攻勢をかけていて結構いい感じだったものの、焦ったのか転んだことにより風の魔法で吹き飛ばされ、台無しになってしまった。
それでもかなり上達していて、テリーゼがアルシュの詠唱スピードと威力に完全に対応しきれず、昔からアルシュが得意にしてる火魔法によってダメージを受け、顔をしかめながら回復してるシーンだってあった。
「少しはやるようになりましたけれど、まだまだ甘いですわね、アルシュ」
「うー、あまりに上手くいきすぎたもんだから焦っちゃった。テリーゼさん、強すぎだもん……」
「それだけ成長しているということですわ、自信を持ってくださいな、アルシュ」
「アルシュ、認められてよかったな」
「うんっ」
俺は座り込んだアルシュと顔を見合わせて笑ったが、すぐにお互いに真剣な表情に戻ってうなずき合った。そろそろ反攻に転じる頃合いだからだ。
手首切断事件から一月ほど経ち、情報収集してくれたテリーゼやジレードのおかげで色々と見えてきたことがある。
真犯人は、あくまでも俺が犯人だと都の人々に信じ込ませたいのか、ぴったりと事件を起こさなくなったみたいなんだ。俺が逃亡したのにまだ事件が起きてたら不自然だし、バレたから逃げたと思わせたいんだろう。
でもそれは、俺にしてみたら切断事件の被害者がこれ以上出てこなくなることでもあり、むしろ都合がよかった。
そのせいでまだ俺のことを報酬目当てで探し回ってる冒険者はいるそうだが、さすがに当時よりは熱が冷めたらしく少なくなってるようだ。なので、俺たちが本格的に動き始める時期は間近に迫ってるように感じられる。
なるべくテリーゼたちに迷惑をかけたくないから、アルシュと二人で動くことが前提として、確実に手首を落とせる真犯人の腕前を考えると不測の事態に備えて特訓しておく必要があり、それも達成しつつある。ここまで被害を受けたこともあり、あくまでも自分たちの手で捕まえたいからな。
そういえば、気になる情報が一つあった。それは、冒険者ギルドで【勇者】ガゼルらしき姿を見た者がいるというのだ。
とはいえ、当時とはかなり風貌が変わっていて、別人の可能性もあるとのこと。もしあいつが都に帰ってきて、俺に対する復讐心で手首切断事件を起こしているとしたら……。
「……」
いや、確かにガゼルは昔とは性格が変わってしまってるものの、そこまで終わってるようなやつじゃない。単に俺が甘いだけかもしれないが……。
「ねえグレイス、真犯人ってやっぱり、ガゼルじゃ……?」
「……いや、あいつじゃないと俺は思う。そう思いたいだけかもしれないけど、なんとなくそんな気がするんだ」
「はー、グレイスったら、追放された上にあんなに酷いことされてるのに本当に優しいんだから……」
呆れ気味に言うアルシュだが、俺はやっぱりあいつを信じたかった。ああ見えて根はそこまで悪いやつじゃないはずだからな。
「グレイスさん、真犯人の正体がわかったら、わたくしたちも討伐に協力したいですわ」
「自分もだ。正直、あまりの下劣なやり方に怒りを覚えていた……」
「いや、テリーゼ、ジレード、気持ちはありがたいけど、最後の部分に関しては俺たちだけでやらせてほしいんだ。本当の意味で力をつけるためにも……。ただ、いざそういう場面が来たときはどこかで見届けてほしい。前向きな力は、それだけパワーになるから」
かつてないほど気持ちを込めた俺の言葉に、テリーゼとジレードは納得してくれたのかうなずいてくれた。
「それなら、是非応援させてもらいますわっ」
「自分も必ずや応援させていただく」
「ああ、頼むよ。さ、アルシュ、噂も少しは収まった頃だろうし、どうなってるか様子を見にいくか」
「そうね。グレイス、私たちの修行の成果、真犯人に思い知らせてやりましょ!」
「おいおい、大袈裟だな。まだ様子を見にいくってだけなのに」
「うふふ、それくらいの気持ちで向かっていこうってこと!」
「なるほどな……そうだな、それがいい」
「うん!」
俺はアルシュと笑顔で力強くうなずき合った。
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