第20話 支援術士、圧倒される


「――グレイスッ……!」

「「「「「グレイス先生っ!」」」」」


 夕陽を浴びて真っ赤に染まる冒険者ギルド前、俺はアルシュに涙ながらに抱き付かれ、待っていた多くの客たちからも歓声と笑顔で迎えられた。


「アルシュ、それにみんな、待たせたな。俺にかけられてた疑いは晴れたみたいだ……」

「「「「「おおおおっ!」」」」」

「グレイス、それならよかったぁ……ひっく……し、心配、したんだから――って、その人たちは……」

「あ、ああ、この二人は俺の元患者でな――って、テリーゼ、ジレード……?」


 後ろから大きな圧を感じると思ったら、俺の回復術をもっと見たいってことでついてきたテリーゼとジレードが揃って怖い顔をしていた。


「あの……この方は、グレイスさんのなんなのです……?」

「グレイスどののなんなのだ……?」

「え、えっと、それは……親しい友達、かな――うっ……?」


 今度はアルシュのほうから強烈な圧を感じて、恐る恐る見るととても怖い笑顔をしていた。


「グレイスー……? 私はそれ以上の関係でもいいんだけどぉ……?」

「あ、あはは……」

「あらあら、友人のアルシュという方なのですね。わたくしはテリーゼでこっちはジレード。よろしくですわ」

「アルシュとやら、よろしく頼む」

「よろしくー。テリーゼさん、ジレードさん。先日、グレイスがあなた方に応対してた場面を見てるから知ってたけどね。あ、ちなみに私はグレイスの幼馴染なんだっ」

「あら、そうなのですか……。それにしても、いくら幼馴染といえど、親しい友達程度ならまだ充分チャンスはありそうですわねぇ、ジレード?」

「た、確かに……って、テリーゼ様までグレイスどのを……?」

「あら? まさかジレードもですか……?」

「うっ。テリーゼ様、目がとても怖いです……」

「……」


 なんか凄く熱いような、それでいて酷く冷たいような妙な空気だ。それを煽るかのようにヒューヒューとほかの客たちが冷やかしてくるし、とにかく圧倒される。


「グレイスさんほどの神がかった【支援術士】なら、《高級貴族》以上の人とお付き合いするほうが釣り合うとわたくしは思いますわ」

「い、いや、テリーゼ様、釣り合うという意味では、《騎士》が一番ちょうどいいバランスかと……」

「あのぉ、二人とも、ちょっと待って! 釣り合うとかだったら、《庶民》同士が最高の組み合わせだって私は思うけどなあ……」

「「「むうぅ……!」」」

「……」


 おいおい、なんで火花が散ってるんだよ。ここは回復する場所なのに修羅場と化したら困るんだが……。


 ん? なんか今、どこかで凄く悲し気な叫び声が聞こえてきたような……。その方向を見てみるが、お年寄りが二人道を横切っていく姿がちらっと見えたくらいでそれらしき者はいなかった。ギルドで酔っ払いかなんかが大声で叫んだんだろうか……?




 ◇◇◇




(な、なんなんだよ。グレイスの野郎……いつの間にか帰ってきやがったと思ったら、なんであんなにモテてやがるんだよ。ありえねえ……これ、悪夢かなんかか? あっちにいるのが俺で、こっちにいるのがグレイスなんじゃねえのか……?)


 いつもの場所から【なんでも屋】周辺の様子を見て、わなわなと体を震わせる【勇者】ガゼル。


「――ん……?」


 ふと視線を感じた様子で彼が振り返ると、近くで男女の老人がヒソヒソと会話していた。


「婆さんや、ありゃ【勇者】のガゼルさんじゃないかい」

「あらまあ。【勇者】なのに、なんで一人なのかね、爺さん?」

「噂によりゃ、メンバーから総スカンに遭って逃げられたらしいぞい」

「んまあ、いい人って聞いてたのにねえ」

「人は見かけによらんもんじゃの。婆さんが慰めてやったらどうかね?」

「んー……可哀想だけど、やめとくよ。全然あたいの好みじゃないしね。勘違いされても困るしさっ」

「「ブハハッ!」」

「……」


 しばらく呆然とその場に立ち尽くすガゼルだったが、老人たちが笑いながら立ち去ってから見る見る顔を赤くした。


「……ち……ち、ちくしょおおおおおおおおおおぉぉぉっ! ぜってえやりかえしてやるうううううううううぅぅぅぅ!」


 ガゼルの絶叫が響き渡り、それに共鳴したのか近場にいた複数の犬たちまでもが一斉に吠え始めるのだった……。

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