第24話 崩壊の一撃
それは強い気配を感じて目を覚ました。
臓腑の底が竦みあがるような感覚。それが恐怖によってもたらせるものだと理解するのに、それは多大な時間を必要とした。
ありえぬ。ありえぬぞ。
それは沸き起こってくる
こんなこと、あってはならぬ。
地上から迫ってくる力は、ともすれば己を作った創造主すら凌駕しかねない力を秘めていた。しかもそれが二つ。一つは光だ。どこまでも眩く、何もかもを照らす輝き。いまだ成長段階で地上に出たことがないそれには分からぬ事であったが、その輝きを知る者ならば、その力に天空を支配する
ありえぬ! ありえぬぞ!!
それは怒り狂う。そうしなければ正気を保っていられぬとばかりに。故にそれは行動に出た。
何もかも、焼き尽くしてくれる。
地の底の暗闇を払う業火がそれの口元に生まれる。そしてーー
ティナの剣が牛によく似た魔物の首を切り落とした。
気を練ることで発揮される剛腕。しかしそれ以上に魔物の太い首を一刀の元に切り落とせたのは、最高の
「よし、大体片付いたわね」
魔物の死骸の中心で禊の為に剣が振るわれる。刀身から振り落とされた血液が大地を赤く汚した。
「手強い魔物が増えてきましたね。……ティナ、食料も心許ないので一旦地上に戻りませんか?」
「ふふん。サーラ様、私はまだまだいけますわよ?」
「リラザイアさんはそのままマッピングをお願いしますね、お口チャックで」
「分かりましたわ。お口チャックですわね」
「いや、アンタ絶対黙ってられないでしょ」
「お口チャック中ですわ」
「たく、……ん? アロス? アンタはまた何を黙りこくって……って、リリラまでどうかしたの? なんか落とした?」
ティナが何か言っているが、それどころではない。
(だめだ。やっぱりこっちを視てる)
地下十五階辺りからだったろうか、地の底にいる巨大な存在がこちらを意識し初めたのは。初めは気のせいかもと思っていた
(この距離で俺達の気配に気づくなんて、思った以上に厄介な相手だね)
強く思う。絶対にこの敵と今のティナ達を戦わせるわけにはいかない。
(皆をダンジョンの外に出したら、その日の夜にでも俺が倒しにこよう)
「ティナ、探索はここまでにして地上にーー」
しかし俺の判断は致命的なまでに遅かった。
「お嬢様!」
「は? え? ちょっ、リリラ? 何をしてますの?」
リリラさんに抱き抱えられたリラザイアさんがあっという間に見えなくなる。
「……えっ!? な、何?」
「凄い……スピードでしたね」
茫然と目を瞬くティナとサーラ。俺は総毛立った。
(攻撃!? この距離で?)
地下深くで急速に高まる力。その凄まじさときたら、今まで見てきた魔物とは格どころか次元が違う。
(まずい。二人を守らなきゃ)
不意打ちに心臓が飛び跳ねる。知らずのうちに相手を見縊っていたのだろうか? いや、地下にいる存在が強い力を秘めていることなど最初から分かっていた。なのに階層という固定概念に囚われて、敵と同じ階にさえ降りなければ攻撃されないと高を括っていたんだ。
(俺も二人を抱えて……いや、だめだ)
一人ならまだしも二人を抱えての高速移動には色々と不安があった。
(こうなったら)
「ティナ! サーラ!」
「は? な、何よ、アンタまで」
「アロスさん?」
いきなり俺に肩を掴まれた二人がそれぞれ訝しげな顔をするが、構わずに俺は自分に流れる
光が二人を包み込み、その体を地上へと一瞬で送り届ける。直後ーー
「っく!?」
地面を砕いて噴き出した炎が俺を呑み込んだ。
「なめるな!」
全身に力を纏いこの身を焼かんとする熱量を振り払う。地上に逃げるのは簡単だが、こうなった以上、今決着をつけない理由はない。
俺は崩壊する大地に身を任せて一気にダンジョンを降っていく。
「……少し場所が逸れたか」
辿り着いたダンジョンの底。ダンジョン主の力はひしひしと感じるが、姿は見えない。だが互いに互いを射程に収めていることだけは、ハッキリと理解できた。
「……こっちか」
「一人でやる気かい? 弟君」
歩き出した俺の影から中性的な美貌を誇る女軍人が姿を現し、周囲の影からもアリアさん直属の配下が三人、姿を現した。
「アリアさんは他の人達と一緒にティナとサーラの護衛に回ってください」
「私達は君の護衛なんだが?」
「ではアロス・アルバとしてではなくアロス・エイルデアとして命令します。この異国の地にて我が民を誰一人として死なせるな。どのような手段を用いようとも構わない、二人を守りお前達も生き残れ。……分かりましたか?」
その場にいる全員が一斉に膝を付いた。
「「「我らが王の望みのままに」」」
そうして影へと姿を消す。
(アリアさんに任せておけば二人は大丈夫。……きっと大丈夫だ)
地上に送りはしたものの、ティナの性格からして絶対にすぐダンジョンに戻ろうとするだろう。アリアさんなら万が一もないと思いたいが、それでも二人が戦いの余波に巻き込まれる距離に近づくまでには決着をつける。
俺は進もうとして、しかし道の先に一人の女が跪いていることに気がついた。
「ルル姉さん」
「私は生まれた時から貴方のもの。貴方の剣であり盾。どうか王よ、貴方と共に」
代々聖王を歴史の表と影から支え続けた一族の
「背中を頼むよ、ルル姉さん……いや、ルル」
「お任せください。我が王」
そうしてルルを連れて進んだ先で、俺は国を出て初めての『敵』と遭遇したんだ。
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