第22話 ダンジョンに潜む者
「やっぱり私にはこっちの方が似合うわね」
「右に同じくですわ」
ダンジョンの前で装備を整えたティナとリラザイアさんが腕を組んで踏ん反り返っている。
「二人とも今日のダンジョンは今までのよりも危険度が高いんだから油断しないでよね」
「分かってるわよ。今回のはまだ深度が分かっていない調査中のダンジョンよね。まっ、そこは最初に受けたのと同じだけど、今度は地下五階以上なんだっけ?」
「そのようですね。ちなみに地下五階までの到達時間は十時間ほどだったそうです。今はそこまでの道程が地図になってますので半分以下の時間で行けるかと」
サーラがギルドでもらった地図を広げて見せる。
「推定危険度Bのダンジョン。まっ、ほとんどの場合推定よりも下の危険度らしいけど、それでも腕が鳴るわね」
やたらめったに凶悪な表情でティナが拳を鳴らした。
「ねぇ、やっぱり考え直さない? サラステアさんからもらったリストにはもっと簡単なダンジョンがあったんだし、なにも無理して危険度の高いダンジョンを選ぶ必要はないよ」
「アンタは相変わらずビビリね。下位のダンジョンはもう幾つも潰したんだし、少し上のダンジョンに挑むのは当然でしょ? 怖いならここで待ってなさいよ」
「……ティナ達が行くなら行くけどさ」
「ふふ。私達ずっと一緒ですもんね、アロスさん」
サーラが手を繋いできたので、柔らかなその手を握り返した。
「……リラザイアはどうする? 無理に私達に付き合わなくていいのよ?」
「何をおっしゃいますの。このダンジョン潰しで私の優秀さを証明してご覧に入れますわ」
「リラザイアさんが自信満々だと嫌な予感がするのは俺だけ?」
「安心してくださいアロスさん、私もちゃんとしてますから」
「いや、それ全然安心できないんだけど」
「ちょっと。いつまで喋ってんの? 置いてくわよ」
怖いものなど何もない、といった足取りでダンジョンの入口へと近づくティナ。俺達は慌ててその背を追った。
「ひとまず地下三階あたりまではランプを使いましょうか。それ以降はサーラ、光の人造精霊を。ランプはリラザイアが、探索の順番は私、サーラ、リラザイア、リリラ、アロスの順番で進むわ。質問は?」
「私とサーラ様の順番は変えた方がいいのでは?」
「却下、アンタは基本的に戦闘に参加しなくていいわ。それとアロス、もう分かってると思うけど、ダンジョン内では背後からの奇襲は普通にあるからね。間違っても油断するんじゃないわよ」
「ティナもね。もしも少しでも身の危険を感じたら無理をせずにサーラと一緒に後退して、後は俺がなんとかするから」
サーラとティナは顔を見合わせると目を何度か瞬いた。
「ふん、アロスのくせに生意気。……行くわよ」
そうして俺達はダンジョンへと挑んだ……のだけどーー
(これはやばいかも……)
地下へと降りていく度に足元から感じる力の脈動。明らかに新人ハンターが挑むべきではない力を持った何かが地下深くに存在した。
「よし、地図通りね。サーラ」
「光玉起動します」
サーラの指輪の一つが発光して、そこから光の粒が幾つも現れる。
「では、ランプはしまいますわね。いよいよ私の剣技をーー」
「披露しなくていいから。リリラ、そいつの面倒ちゃんとみてなさいよ」
「お嬢様は私がお守りいたしますので、ご安心を」
「ふっ、私、愛されすぎてますわね」
「ウザっ。……アロス? 何黙りこくってんのよ」
「アロスさん?」
「あっ、ごめん。ちょっと緊張してるみたい」
「ったく、しっかりしてよね」
「ゴメン、ゴメン。それよりもティナ、今日はどれぐらい降りるつもり?」
「最初に話した通りひとまず行けるところまでよ。今日はダンジョンで寝ることになるから覚悟しなさいよ」
「私ダンジョンで寝るのは初めての経験ですわ」
「私達もですよ。ねぇ、アロスさん」
「そう、だね」
(力の主まで二十、いや三十階程か? 持ってきた食料はせいぜい2 、3日分。……心配ないか)
この調子だと半分よりも少し降りた辺りでダンジョン探索を切り上げることになりそうだ。俺はひっそりと息を吐いた。
「よし。この調子だとすぐに調査階外にでるわ。気合入れなさいよ、アンタ達」
「了解ですわ!」
「勿論です」
「ティナこそ気合入れすぎて変なミスしないでよね」
「…………」
そんなこんなで俺達はまだ人類が誰も足を踏み入れたことのない魔造のダンジョン、その奥深くまで降りて行った。
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