メデューサたちの疑心暗鬼

ちびまるフォイ

自分のことを見えていないメデューサたち

とある郊外で石化した警官が見つかった。


「この町を封鎖しろ! すぐにだ!!

 私の大切な同僚を石化させたメデューサをけして許さない!!」


街は封鎖され厳しい情報管制が行われた。


この街に住んでいた人たちはメデューサたちを除いて追い出され、

いつ戻れるかとこの魔女探しを見守っていた。


警官は街で暮らしていたメデューサを集めた。

メデューサたちは全員目隠しをしている。


「私の大切な同僚が石化させられた。私はメデューサが悪い。

 そいつを見つけたら必ずこの手で殺してやる」


「待ってください。メデューサの石化能力は使えないはずです」

「そうよ。それでも配慮として目隠しして生活しているわ」

「石化するなんておかしい!」


「だまれ!!」


警官は銃を1発空に向けて撃った。


「私の仲間が石化したというのが事実だ。

 ここにいる誰かがメデューサであることに間違いはない。

 自覚あるなしに関わらず、な」


昔は化け物として恐れられていたメデューサ。

今ではイヌの狂犬病注射や猫の去勢手術のように石化能力が失わされている。


「1週間待つ。もしも1週間で犯人の特定ができなければ、

 ここにいるすべてのメデューサを処刑してやるからな」


警官は誰も逃げ出せないように町をしっかり封鎖した。

取り残されたメデューサ達は交互に話し合った。


「ねぇ、いったい誰がやったの!? 名乗り出てよ!」


名乗り出るメデューサは誰もいない。


「実は私がやったのかも……ある日、突然に石化能力が戻っちゃたりして……」


「ばか! そんなこと言い出したら、ここにいるみんなが候補になるじゃない!」


処刑の日が近づくにつれ自信のなくなったメデューサも出始める。

残り時間もあとわずかとなったときだった。


「みんな聞いて。この目隠しをとって、お互いに見つめ合いましょう」


ひとりのメデューサが提案した。

誰もがその方法は考えたが恐ろしくて誰も口に出せなかった。


「お互いに見つめたとき、片方が石化すれば、もう片方が犯人。

 どちらも石化しなければ、どちらも無罪。

 両方とも石化すればふたりとも共犯メデューサだとわかるわ」


「乱暴すぎるよ! メデューサはひとりとは限らないし!

 たくさんの救える命を石化させてしまうかもしれないのよ!」


「でも他に方法なんてないじゃない!」


10人のうち5人に石化能力が戻っていたとすると、

たった1回試しただけで5人は石化してしまう。


「……いいわ、やりましょう。

 どうせこのまま答えが出なかったらみんな死んでしまうもの」


メデューサ達は二人一組になって別れた。

別の人とうっかり目が合わないように距離をしっかりと取る。


「それじゃいくわよ」


全メデューサが息を飲んだ。

相手が無害のメデューサであることを祈って、相手の目隠しをお互いに取り合った。



全員が試し終わり再集合して結果を報告した。


「どうだった?」

「よかったわ。私達はどちらも無害だったみたい」

「こっちも幸運でよかった。すごくホッとした」

「石化させられたらどうしようかと思っていたもの」


「ちょっと待って。逆に聞くけど、石化したのはいるの?」


誰ひとり欠けることなく戻ってきたことに疑問を持った。


メデューサ達は全員の持ち場を確認して回った。

石化させられている人は誰もいなかった。


「どういうこと!? 試したって誰か嘘付いてるの!?」

「ペアが犯人同士でお互いにごまかしあったってこと?」

「石化できるメデューサには石化が効かないとか?」


「で、どうするの? もう一度……やるの?」


メデューサ達は全員が顔を引きつらせた。

もう一度、自分が石化するかしないかを試すチキンレースに命を掛けたがる人なんていない。


「いやよ! せっかく私のペアがメデューサじゃないとわかったのに!」

「犯人が見つかるまで試していたら、いつか私に当たるかもしれない!」

「もうあんな命をかける真似なんてしたくないわ!!」


「でもこのままじゃ……」


メデューサ達に待つのは無慈悲な結末だった。


「ねぇ、いっそ誰かを犯人にすればいいんじゃない?

 何度も見つめ合って試すと余計な犠牲者も増えるかもしれないし」


「そんなこと言って、本当はあなたが犯人なんじゃない!?」


「こういう疑心暗鬼から早く解放されたいのよ!

 どうせ犯人が見つかるまでチキンレースされるか、

 このまま黙って殺されるしか選択しないなら生贄を差し出すほうがいいじゃない!」


口論し合うメデューサを遮って、ひとりのメデューサが叫んだ。


「逃げたってことにしましょう!」


「逃げたって……誰が?」


「犯人のメデューサをでっちあげましょう。

 ここにいる全員が口裏合わせればきっと大丈夫です。

 犯人のメデューサはペアとなったときに、目隠しをいいことに逃げたんです」


「そうね……仮に犯人としての生贄を出したとしても、

 犯人用の生贄を作ったとすぐに暴露されるだろうし……」


「全員で犯人をでっち上げたほうが暴露するメデューサもいないぶん安全ね」


メデューサは結託して「架空犯人」を作ることにした。

口裏を合わせるためにメデューサの背格好を共有してズレが出ないようにする。


「これで完璧! みんな、絶対に裏切らないでね!

 裏切ったらあなただけじゃなくてみんなが危険にさらされるわ!」


1週間後、メデューサ達は戻ってきた警官に洗いざらいを話した。


犯人を見つけるためにお互いを見つめ合ってテストしたこと。

誰も石化犠牲者が出なかったこと。


事件が起きる前に町に出入りしていた見ない顔のメデューサがいたこと。

どのメデューサに話を聞いても、外部メデューサの設定が濃くなってゆく。


最初は怪しんでいた警官も、メデューサ達の証言を信じることにした。


「なるほど……この街にいるメデューサに悪いやつはいなかったんだな」


「はい。悪いのはすべて外部のメデューサの犯行です!」


「わかった。信じよう。同僚を石化させた犯人はこの手で追い詰める」


どのメデューサに話を聞いても矛盾はおきなかった。


念のため、もう一度メデューサ同士のペアテストを実施させて

それでも誰も石化しなかったのを確認してから、外部の人間に向けて映像を配信した。


『避難していたみなさん、街はもう安全です。

 街にいるすべてのメデューサを確認し、安全であることを確認しました。

 もう心配いりません。そして、犯人はかならずこの手で捕まえます!』




この放送を見ていたすべての人は石化した。

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