転生したと思ったら悪魔合体の素材だった俺が気が付けば何故か魔王を目指していた話。
黄金ばっど
72柱の悪魔―――ゴエティア――――召喚
「くふっ………くふふふふ」
一人の少年が声高に嗤っている。
そこは学院の一室。
夜半を過ぎ全ての教室は日中の喧騒が嘘の様に静まりかえってる。
それ故、声高に嗤う少年の声は良く響き同じ階に他の誰かがいたらその声の大きさにぎょっとした事だろう。
蝋燭の火一つで保たれた室内は薄暗く、仄かに揺れる影が更に雰囲気を際立たせる。
そんな中で少年は喜色を帯びた声でこう言ったのだ。
「遂に僕の念願が叶う時が来た!」
正に魔法使いといった怪しげな装束に身を包み、その両手を高らかに挙げる。
その手にはぐねぐねと木を捻り併せて作られた杖が握られ、フードの奥に光る眼には狂気の色が覗える。
少年の視線の先には真紅に輝く魔方陣があった。
通常魔方陣と言えば魔術文字を組み合わせた儀式魔術で対価差し出すことで何かしらの現象を引き起こす、といった物であった。
しかしこの少年が描いた魔方陣は少し趣が違った。
まず魔方陣を形成する文字、それが通常の
それは
今現代で使用されている
そしてそれを用い描かれた魔方陣、それが七つ――――
七つの魔方陣は互いに呼応するかの様に明滅を繰り返す。
その独特のリズムは不思議と生命力を感じさせる。
教室の床一面に広がる魔方陣は個で有り、連なり環となり、そして星となる。
凶悪な蛇を思い起こさせる様に輝いたと思えば光の残滓は母なる海を思い起こさせるように優しい。
魔方陣が紅く煌めく度にその中心にある供物の姿を闇の中に浮かび上がらせる。
一つ目の魔方陣にはフラスコがあった。
フラスコに満たされた真っ赤な液体はコポコポと音を立てている。
二つ目の魔方陣にはこの世の物とは思えない程美しい一輪の蒼い薔薇が咲いていた。
薔薇は魔方陣に流れる魔力に呼応し鱗粉の様な輝きを周囲にまき散らしている。
三つ目の魔方陣には檻が置かれていた。
檻の中には虹色に輝く大蛇がトグロを巻いていた。
魔方陣のもたらす光が眩しいのか瞳を閉じたまま時折その下をチロチロと覗かせている。
四つ目の魔方陣には宝石があった。
ガーネット、アメジスト、ブラッドストーン、ダイヤモンド、エメラルド、パール、ルビー、ペリドット、サファイヤ、トルマリン、トパーズ、ターコイズ。
順に並べられた宝石は二つの環となり輝いている。
五つ目の魔方陣。
その中央に鎮座するのは干からびた何者かのミイラ。
静かに座すその姿はこれから起こる現象を見守る為に存在するかの様。
六つ目の魔方陣、そこにあるのは古ぼけた
滑らかなその装丁は人肌の様。
ふわりと風が吹くと独りでに頁が捲れ上がる。
七つ目の魔方陣。
少年はその中央で天を仰ぐ。
実際には教室の天井があり夜空は見えないのだが少年の眼は天に座す幾千の星々を写している様に見えた。
「魔女の血、獄蒼薔薇、虹色大蛇、天宮宝石、賢者のミイラ、そして
少年は手にした杖を教室の床に突き刺す。
「エロイムエッサイムエロイムエッサイム我は求め訴えたり――――――」
高らかに、唄う様に、少年は詠唱する。
その詠唱に刺激され、大気中の魔素が踊る様に暴れ出す。
轟々と吹き荒れる魔素。
その魔素を片っ端から吸い込む魔方陣。
一つ、二つ、三つと順に魔方陣に魔力が充填されていく。
古代魔術文字が励起しその意味を紡ぎ出す。
「エロイムエッサイムエロイムエッサイム我は求め訴えたり――――――」
超高濃度の魔素に当てられてか虹色大蛇が狂った様に暴れ出す。
供物としての運命を悟ったのか。
それとも教室内に吹き荒れる魔素に恐れを為したのか。
その凶悪な体躯をくねらせ檻から逃げ出そうと暴れ回る。
少年がその薄い目を更に薄める。
パチリと何も無い宙空に雷鳴が煌めき虹色大蛇を襲った。
軽く雷鳴が撫でると虹色大蛇は大人しくなった。
「そう嘆くなよ、共に見ようじゃ無いか大蛇よ。ほら見ろ、もうすぐ地獄の蓋が開く。なかなか見れないぞこんな景色、折角自分の命をチップに見るんだ、どうせならよくその瞳に焼付けておけよ。フヒヒヒ……」
少年がそう言うと、どこからともなくギギギと古ぼけた扉の丁番が鳴く音が聞こえる。
「イーッヒッヒッヒ!!さぁ開くぞ地獄の門が!!!パーティの始まりだ!」
教室の床にいつの間にか大きな縦の割れ目が出来ていた。
その割れ目が徐々に開いていく。
そう、いつの間にか教室の床一面が豪奢な扉になっていた。
――――――ギギギギギ
耳障りな音が鳴る。
「エロイムエッサイムエロイムエッサイム我は求め訴えたり――――――開け地獄の門!!!出でよ
――――――ギギギギギィィィイイイッ………ガコン!
教室の床は既になく、開ききった扉の奥底に暗く煌めく何かがあった。
少年はいつの間にか宙に浮遊しその底をじっと舐める様に見つめていた。
轟!
突如扉の向こうから何かが飛びだした。
それは蠅だったか飛蝗だったか少年には分らなかった。
ただそれが出た事で少年の願いの一部が成就したのだろう。
満足気な笑みを貼付け少年は宣言した。
それは世界に対しての呪詛であった。
「聞け!!
この日封印されし、
パンテラ大陸史上
召喚の場とされた魔法学校はその全てを焼失し残ったのは、およそ人の造った物と思えない不気味な漆黒の門とオマケの様に転がっていた星形のナニカだった。
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