Scenario.4
俺はオスカーとの決闘を終えた後、ざわつき戸惑う見物人たちを放って、そのまま自宅に帰ってきた。午後の授業はサボりということになる。だが、それどころではないのだ。
扉を閉め、カーテンも閉めてから、引き出しの杖を取り出す。
――これは本当に“神の杖”なのか?
すると、まるで俺の思いに呼応したように、杖は宙に浮き光でその文字を書き出した。
――神はこの世界の脚本家である。
――この神の杖は、世界のシナリオを記載する。
――シナリオとして、場所・時刻・登場人物とその台詞を記載できる。
万が一、この杖の力が本物だとしたら――
俺はまさに神の力そのものを手に入れたことになる。
だが、果たして、そんなことがありえるのだろうか?
まさか。ありえない。
いや、だが、杖に力がないのだとしたら、今日の出来事は……
と、その時だ。
突然、誰かが俺の部屋をノックする音。俺は慌てて杖を引き出しにしまい、扉の方を見る。
再びノック。
俺はつばを飲み込んでから、恐る恐る扉を開ける。
扉を開けると、そこにいたのはどこか虚ろな目をした美女だった。
「夜遅くに失礼します」
ネイビーのジャケットを帯で締めている――軍服だ。学園の関係者ではない。
彼女の視線は、どこか定まらない――その理由は単純明白。彼女が右手に持っていたのは、ブランデーの瓶だったのだ。今日飲み始めたとは限らないが、瓶は4分の1が飲み干されていた。
酔っ払って、間違って寮に入ってきたのか――そう思ったが、しかし彼女の服についたバッジを見て俺は思わず声を漏らしかけた。
盾に寄りかかるライオンとペガサスが描かれたその紋章は――王室のシンボル。これをつけることが許されるのは、王室の高級役人だけだ。そして彼女は脇にレイピアを帯刀している。
高級役人で帯刀している。となれば、この酔っ払い女の正体は――近衛騎士だ。
王室に使える最高レベルの戦闘能力を持つ魔法使い、それが近衛騎士だ。
式典で見たことはあるが、そうでもなければ俺のようなただの平民には縁遠い存在。それが、俺の部屋の前にいる。これはとんでもない異常自体だった。
「はじめまして。近衛騎士のクロエ・ウェルズリーです」
ウェルズリー――もしかして、対仏大戦争で功績をあげた連合王国の英雄、ウェルズリー公爵の一族か?
「……すみません、一体何の用でしょうか」
俺が聞くと、クロエは少し間をおいて答える。
「エリス王女様がお呼びです」
「……王女様が?」
思わず聞き返す。もちろん、内容それ自体も驚くべきことだ。この連合王国の第一王女様――将来女王になられるお方が、俺のような一般市民を呼び出すなんて、普通に考えてありえない。
だが、もっとありえないのは――この状況が俺が神の杖で書いたシナリオの通りだということだ。
オスカーに決闘を申し込まれ、それに勝ってしまう。そして今後は王女様に呼び出される。神の力がなければ、こんなにありえないことが次々起こるわけがない。
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