終章

大盾使いの少女パーティーは王城に招かれる1

  あの事件から数日が過ぎた。あの事件後、ティファ達は王太子アルフレッド殿下が用意してくれた馬車のおかげで、王都ギルドディアは翌日の昼過ぎには着いたのだが、やはりまだ疲れはとれておらず、ティファ達はマリーと別れた後、「山猫亭」に宿泊した。

  しかも、「山猫亭」の宿泊代金3日分は王太子アルフレッド殿下が支払ったという。流石に断るべきかと思ったけれど、諸々の疲れもあり、諸事情をいずれ話すと王太子アルフレッド殿下が言っていたので、その時に言えばいいかと、ティファ達は「山猫亭」でゆっくり休む事にした。


  そして、王太子アルフレッド殿下から事情が聞けるようになったのは、あの事件から3日過ぎてからの事だった。

  と言っても、これは仕方ない事で、領主屋敷の調査や、拐われた女の子達を元の家族の所へ帰す仕事など、王太子アルフレッド殿下としてやる事が沢山あった。それらをなんとか冒険者ギルドと協力して済ませて、ティファ達と会談する時間を作ってくれたのだ。むしろ、ティファは感謝しなければいけないと思ってしまう。


  で、その王太子アルフレッド殿下との会談場所が……


「うぅ……!?緊張するよぉ〜……!?」


「堂々としてなさいよ。そんなビクビクしていたら不審者にしか見えないわよ」


「だって……!?まさか王城に招かれるなんて思わないじゃん……!?」


そう。ティファ達は現在王城にいた。と言うのも、アルフレッドが会談する場所に指定したのが、アルフレッドの自室だからである。緊張しすぎてビクビクしているティファに、付き添い兼見守りで来たエルーシャが優しく微笑みかける。


「ティファ君が緊張する必要はないよ。ティファ君はれっきとした被害者で、そのティファ君に被害をあわせた人物からキッチリ話を聞くだけなんだからね」


笑顔の裏にある棘のある言葉に、ティファは乾いた笑みを浮かべる。あの後、依頼人のレオが偽名で本当はレオン第二王子殿下と聞かされ驚いたティファだが、そういう立場のお方なら色々隠してやるのも仕方ないよねとどこか得心してしまい、ティファはあまり怒りの感情を持っていなかった。ただ、色々気になる事はあるので、聞かせてもらえるなら聞きたいところではあるが


「し……しかし……!?やはりもっと王城に招かれるような立派な服装をすべきだったのでは……!?先程からチラチラと見られてますし……」


  ティファ程ではないが、同じように緊張しているアヤが、自分達に突き刺さる視線を気にしてそう口にする。現在、ティファ達はいつもの装備姿だが、流石にこれで王城を歩くのは良くないのではと感じているのだ。アヤの言葉にエルーシャは苦笑を浮かべ


「冒険者にとって装備品を装備した姿は正装みたいなものだから問題ないさ。ただ、前回のホウオウ討伐もだけど、今回のアスファルト領の事件も解決したとあって、ティファ君達のパーティーはもう王都内で完全に知れ渡ったからね。だから、君達の事を注目するのも無理ないさ」


エルーシャの言葉にティファはますます恐縮してしまう。ホウオウの件もそうだが、今回の事件もあくまで偶然なんとかなっただけである。それに、今回の事件はマリーがいなければどうなっていたか分からないとティファはマリーに感謝している。


「まぁ、他にも注目されてる要素はあるだろうけどね」


エルーシャはチラッと、実は先程からティファの隣を堂々と歩いてるマリーを見る。本当にその姿は気品に溢れた堂々とした佇まいで、思わずティファも見惚れてしまいそうになるが、その彼女の両腕は大事そうに1匹のグリーンスライムを抱き抱えている。そのミスマッチさにティファは思わず乾いた笑みを浮かべる。


「……マリーさん。やっぱり王城にスライムは持って来ない方が……」


「問題ないわ。この子は私の最初の家族になった子よ。それに、ここの人達はこの子にはもう慣れてるはずよ」


マリーのとんでもない発言に、ティファの頭はもう追いつけなくなる。先程から、ティファ達よりもマリーに向けた視線が多い。それは、この抱えてるスライムのせいだとティファは思ったが、改めて見ると、視線向けてる人はスライムよりもマリーがいる事に驚いている様子だった。


  そして、騎士達の先導のもと、長い廊下をずっと歩いて、豪華な扉の前で騎士達が立ち止まる。どうやら、この扉の先が王太子の自室のようである。

  先導した騎士が見張りの騎士に敬礼して挨拶を交わし、見張りの騎士が扉をノックする。


『来たか。入ってきてもらってくれ』


扉の先からそんな返事が返ってきたのを確認して、先導した騎士が扉を開けて、ティファ達に入室を促した。


「やぁ、待たせてすまいね。では、色々話をしようか」


扉を開けた先の部屋で、王太子のアルフレッドはにこやかな笑顔を浮かべ、レオン第二王子は無表情でアルフレッドの隣に立っていた。

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