大盾使いの少女は美女を説得する

  美女の炎を纏った剣を、ティファ難なく受け止める。そんなティファを美女は忌々しそうに睨みつける。


「くっ……!?本当に厄介ね……!?貴方……!?」


  なんとか斬り込めないかと美女は握った剣に力を込めるが、ふと、美女がアヤの方を見ると


「ティファ……!?何で……!?」


ティファは瞬時に発動させたのは『カバー』だけではなかった。『7色の盾』を発動させ、一つの盾はアヤの拳を受け止め、他6つの盾はアヤにこれ以上攻撃させまいと、アヤを取り囲んでいた。まさかのティファの行動にアヤは困惑するが、1番困惑しているのは敵対する美女の方だ。アヤの言葉から、この盾はアヤではなく、ティファが出現させたと察し、まさか自分の敵である者が、その仲間の邪魔をするとは思わなかった。


「……私の仲間が貴方の家族と思ってるスライムに攻撃したのは謝ります。けど、訳の分からない状態で大切な仲間が襲撃されたんです。その為にとった行動なんです。必死でスライム達の為に戦ってる貴方なら分かりますよね?」


「…………」


ティファの言葉に美女は沈黙する。ティファの言う事は美女にはよく分かるからだ。自分も大事なスライム達が同じ目にあえば、彼女達と同じ行動をとるのは当たり前だから。


「それと、もうやめにしませんか?私達の間で色々誤解があると思うんです。だから、話し合いませんか?これ以上の戦いは……貴方の家族達を傷つける結果にしかなりません」


「何を言って……ッ!!?」


美女はそこでようようやく気づいた。自分の周りにブルースライム達が集まっている事に。しかも、3人に絡みついていたブルースライム達だけでなく、他にも色々な色のスライム達が美女の周りに集まってきていた。その壮絶な光景に、解放されたリッカもアヤも目を見開く。ただ、ティファは微笑みを浮かべ


「本当にそのスライム達は貴方が大切な存在だと思ってるんですね。さっき、アヤちゃんが貴方に攻撃をしようとした瞬間に、みんな一斉に貴方を守る為に集まってきましたよ。アヤちゃんに飛ばされて気絶した子も含めて全員」


「貴方達……」


ティファの言葉に、美女はスライム達を見つめる。スライムなので、そこに表情は全くない。だが、美女にはスライム達が自分の事を心配しているのがハッキリと分かった。


「私達は貴方の家族を傷つけるつもりはありません。だから、剣を下ろして話し合いませんか?」


ティファは美女の目を見て訴える。美女はしばし沈黙していたが、やがて軽く溜息をつくと、剣を下ろして背中に再び背負うようにしまい、2つの小瓶をティファに投げ渡す。ティファは慌ててそれを受け取る。


「それは、ブルースライムちゃん達の麻痺毒に効く解毒剤よ」


美女の言葉に、ティファはすぐにその小瓶をリッカとアヤに渡す。受け取ったリッカとアヤはその小瓶の液体を飲み、すぐに効果が表れたのか、2人とも驚いたように手足を動かしていた。


「まだ貴方達を信用した訳じゃない。ただ、これ以上やってもスライムちゃん達が傷つくのは事実。話だけなら聞いてあげる。聞いた上で貴方達が私が探してるイエロースライム捕縛の犯人なら容赦はしないわ」


美女はそう言うと、3人に背を向け歩き出す。それに付き従うようにスライム達もピョンピョンと跳ねながらついて行く。ティファ達はしばし呆然と立ち尽くしていたが、慌てて美女の後を追いかける。


「あの……!?ありがとうございます……!えっと……?」


ティファは美女にお礼を言おうとして、当たり前だが名前を知らないので言葉に詰まるティファ。


「マリーよ。私の名前。まぁ、話を聞くだけで終わる関係だから覚える必要なんてないわ」


ティファの様子を見て察したマリーと名乗る美女は簡潔に答える。



  だが、ティファもマリーもこの一件で自分達が更に深く関わる関係になるとは、この時のマリーとティファが知る由もなかった。

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