エルーシャsideストーリー

  エルーシャは3人が去った後姿を見送った後、静かに溜息をつき、まだ部屋にいる男を睨みつける。


「それで、これでご満足いただけましたか?殿


エルーシャはわざとトゲのある言い方で、その男の本当の名前を口にした。レオ改めてレオンはそんなエルーシャの言葉と態度に溜息をつく。


「俺はもう王位継承権を放棄しているんだ。王子ではない」


レオンはとりあえずその部分だけを否定する。エルーシャは何も言わず、ティファ達が座っていたソファにドカッとわざと音を立てて腰かける。そんなあからさまに喧嘩腰の態度に、レオンは不快な様子を一切出さない。エルーシャがこういう態度になるのは承知で依頼を出したのだから。


「依頼を仲介役を引き受けて感謝する」


「いえいえ。第二王子殿下のお言葉ですから、1人の民として協力するのは当然です」


「だから王子ではないと……まぁ、いい……」


完全に嫌われてしまったなぁと思いレオンは溜息をつく。だが、それも無理からぬ話だろう。そもそも、レオンの依頼は達成されないのを分かった上で出したのだから。


「それで、何故わざわざ達成が出来ない依頼を出されたのか、その理由をお伺いしても?」


一応、丁寧に話しかけているが、物凄く刺々しい言葉にレオンは内心溜息をつく。


「最初は俺も王太子殿下も、彼女達にアレの護衛を依頼するつもりだった。出来ればちゃんと用意された家に帰るよう説得の込みの依頼を。だが……」


レオンはそこまで口にした後、出されていた紅茶を一口飲んで深く溜息をついた。


「アスファルト領内でイエロースライムが大量にいなくなるという噂を耳にしたのだ」


「はぁ!?イエロースライムが!?」


アスファルト領のきな臭い噂を色々耳にしてはいたが、そんな噂まであったとは知らずに驚愕するエルーシャ。


「王太子殿下の『民の声』で聞いた噂だ。当然、アスファルト領にブラックスライムの捕獲に向かったアレが聞き逃すはずがない。なんせ……スライムの事だからな……」


レオンは無表情ながら遠い目をしてそう答える。エルーシャも、レオンが話してる「アレ」なる人物の事をそれはよく知っているので苦笑を浮かべる。


「なら、説得や護衛は聞いても聞き入れてくれないだろうと……ならば、無理矢理アレと関わらせる方向にもってけばいいのでは?と、王太子殿下が判断されたのだ」


確かに、「アレ」なる人物をよく知るエルーシャは、イエロースライムが大量に消える事件が発生していると分かれば、誰の意見も聞き入れずに独自で調査に乗り出すだろう。

  しかし、それはあまりに危険で問題が多すぎる。アスファルト領では未だに問題になってる事件が解決されてないし、もしその事件がイエロースライム大量失踪と繋がっていて、「アレ」なる人物にもしもの事があれば問題なのだ。それだけ、「アレ」なる人物は王太子殿下がレオンを密かに動かせねばならぬ程の人物なのだから。


「……なるほど。曖昧な依頼を出した理由は理解出来ました。しかし、そんな曖昧な依頼でもし彼女達がお話の人物と関わらなかったらどうするおつもりですか?」


「それはない。と、王太子殿下はアレがスライムに関わる事で関わってこない事は絶対にないと断言されていた」


確かに。と、思わずエルーシャはレオンの言葉に納得してしまう。「アレ」なる人物は、スライムに関してはそれだけの執念深さがある。


「……ですが、それならティファ君達を指名する理由はない。この際ハッキリ聞きましょう。あわよくば、ティファ君を今回の事件の首謀者を釣るエサにしようとしていませんか?」


エルーシャの言葉に、レオンは沈黙で返す。エルーシャの瞳はますます鋭くなる。


「……よほど彼女達を大事にしているようだな」


「私は冒険者ギルドのマスターです。冒険者達を安全に冒険を行う為のサポートをするギルドの長です。彼女達だけでなく、他の冒険者達とて害が及ぶような依頼をさせないのも私の務めだと思っています」


レオンの言葉にエルーシャはそう返す。エルーシャは冒険者ギルドのマスターだ。故に、マスターとしてそれだけの自負と自覚を持って仕事をしている。


「……何も私達も彼女達ならばと思って行かせた訳じゃない。最優先目的はあくまでもアレと関わらせる事で、あわよくばアレを守って欲しいと思っているだけだ。ただ、もう一つのあわよくばにそれが含まれているのも否定は出来ない」


レオンはティファを見た時、こんな小さな女の子がホウオウを倒した事実にも確かに驚いたが、彼女ならもう一つのあわよくばを狙えるんじゃないかという確信を持ってしまったのも事実だ。


「もちろん。彼女達の安全はしっかり保証するし。依頼がダメに終わっても報酬は払う。何だったら望む額を渡しても構わない」


「当然です。我々は冒険者で依頼があれば実直に動きますが、貴方達のような人々の思惑に振り回される道具ではありません。こちらでも、彼女達の護衛を用意しても構いませんよね?」


エルーシャの言葉にレオンは首を縦に振る。それを見てエルーシャは早速どこかへと連絡をとるため移動する。

  そんなエルーシャを見て、「やはり大切にしてるんじゃないか……」と呟きレオは溜息をついた。

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