大盾使いの少女パーティーはブラックスライム討伐を依頼される

  まさか、自分達を指名して依頼があると思わず、キョトンとする3人だが、エルーシャがニッコリと笑い「とりあえず私の部屋に来て」と言われ、3人はエルーシャの後に続くようにギルドマスターの部屋に入る。

  すると、ギルドマスターの部屋にはもう1人の人物がいた。美しい金髪をしているが、その表情は無表情。顔立ちはイケメンなのだが、どこか冷たい感じがして、ティファは少し恐れ慄いてしまう。エルーシャは、その男性と向かいあうソファに座るように3人を促し、3人はそれに従いソファに座った。


「さて、だいたい予想はついてるかもしれないが、ティファ君。こちらの方が、君達を指名して依頼してきたレオ君だ」


「レオです。よろしくお願いします」


エルーシャに紹介されたレオという男性は、頭を軽く下げて挨拶をする。ティファ達もすぐに自己紹介をする。が、頭を上げたレオがジッとティファを見てるのに気づきティファは困惑する。いや、対面する形で座ってるので、こちらを見る形にはなるが、それでも見過ぎじゃないかとティファは思い、勇気を出して尋ねる。


「あの……?何か……?」


「……失礼。とてもお若いので、本当に君達があのホウオウを討伐したのかと思って……」


レオの言葉にティファは得心する。だいぶティファ達の事は知れ渡っているとは言え、噂程度にしかティファ達の事を知らない人物も多い。恐らく、レオもその内の1人で、ティファがどういった人物かは知らないのだろう。それが、こんな小娘だと分かればビックリして凝視してしまうのも仕方ないかとティファは思った。ただ、一緒に討伐したリッカは若干不満気な表情を浮かべているが


「正確に言えば、討伐したのは大盾を持ってるティファ君と、真紅のローブを着てる魔術師のリッカ君の2人だ。アヤ君はその時に参加してないが、実力は間違いなく2人と同等だ。私が保証する。不満ならこの依頼、私の権限で拒否しても構わないんだよ?」


どうやらレオの言葉に不満を感じたのはリッカだけではないらしい。エルーシャは口は笑っているが、目は全然笑っていないそんな表情で、レオにそう言葉を投げかける。依頼人であるレオにこんな態度をエルーシャがとるなんて、エルーシャはこの人が嫌いなんだろうか?それとも、この依頼を受ける事に不満があるのだろうか?


「……本当に失礼した。噂しか聞いた事がなかったから驚いてしまっただけだ。許してほしい」


ティファがエルーシャの態度にあれこれ考えていると、レオが深々と頭を下げて謝罪の言葉を口にするので、ティファは慌てて頭を上げるように訴える。別に、ティファ自身はレオがジッと見るのが気になっただけで、その理由が納得がいくものだったので、ティファはあまり気にしていないので、逆に謝罪されると恐縮してしまう。


「ありがとう。それで、早速だが依頼を聞いてもらってもいいだろうか?」


レオの言葉にティファは首を縦に振る。ティファ達は最初からそのつもりで来たのである。


「私からの依頼。それは、アスファルト領にあるゴダール森林に出たブラックスライムの討伐だ」


レオからの依頼に、アヤは難しい表情になる。それもそのはずで、ブラックスライムはスライム種の魔物の中でもとにかく厄介で、ブラックスライムは身体中が強力な酸で出来ているので、素手による攻撃をすれば手が溶かされてしまう。まさに、格闘家にとっては天敵ともいえる魔物である。

  そんな厄介な魔物であるなら、討伐依頼が出されてもおかしくない。しかし、リッカはレオの依頼に疑問を感じ挙手をする。


「いくつか質問いいかしら?」


「あぁ、構わない」


「それじゃあ、まず一点。確かこのギルドディアで出没するスライム種は比較的温厚だからわざわざ討伐する必要なしって話ではなかったかしら?」


リッカに言われて、ティファはハッと気づく。他所の国の出身であるアヤらピンときてない為、そんなアヤに小声でティファは説明する。


(ここ王都ギルドディアのスライム種の魔物は、人を襲わない温厚な魔物であるから、皆見かけても討伐する必要なしって国王陛下自ら宣言したの)


(そうだったのですか!?国王陛下自らとら凄いですね……ん?でしたら……この依頼が出るのはおかしくないですか?)


アヤが説明を聞いて疑問に思い首を傾げる。確かに、この国の国王陛下自ら、スライム種は人を襲わないと宣言したのに、そのスライム種であるブラックスライムを討伐せよとはおかしな話である。


「それと……貴方は何者なんですか?ただの普通の平民、もしくは商人とかではないですよね?」


リッカの言葉にティファは今度は自分がレオをジッと見る。レオは着ている者は間違いなくそこら辺にいる青年が着てそうな服を着ている。が、よく考えたら、依頼を受けたら、その依頼主の所へ行くのが普通だ。なのに、指名されあまつさえギルドマスターの部屋まで案内されるなんて、今考えればそれなりの身分の方だという証拠である。


「……申し訳ない。後者の質問には答えられない。が、それで私がそういう身分だと察してもらって構わない」


レオはリッカが最後にした質問から答え始める。と言っても、回答はしていないが、これでレオがそれ相応の身分の持ち主である事が逆に確定した。


「そして、前者の質問だが、どうやらそのブラックスライムは『迷宮』から抜け出した魔物でね。だから、人を襲い被害も出てる。が、国王様の宣言がある以上、スライム種には害がないという国王様の考えが間違いだと思われてはいけない為、早急に対処する必要があるのだ」


『迷宮』の魔物達は、『迷宮』を自分の住処だと感じている為か、『迷宮』から出る事は滅多にない。が、ごく稀ではあるから、『迷宮』から何らかの理由で抜け出す魔物がいる。そういう魔物は、例え温厚と言われているスライム種でも人を襲うのは納得がいく話だ。


「引き受けてもらえるのなら準備金としてこれだけ出そう。もちろん、討伐した暁にはこの額と同じ額を支払う」


レオが差し出した額に、ティファ達は思わず目を見開く。その準備金とされる額は、3人で1週間は「山猫亭」で宿泊してもお釣りがくる額だ。おまけに、討伐した際にも同じ額が貰えるなら、パーティーホーム購入を考えているティファは引き受けたいという気持ちが強くなった。ティファは他の2人に目線を送って確認する。


(……正直、胡散臭い依頼だけど、私達の今の状況を考えたらありがたい依頼ではあるわね)


(ブラックスライムは苦手ですが、これも修練と思い頑張ります!)


リッカとアヤは小声でそれぞれの意見を口にした。そこに、依頼に反対する気持ちが含まれていなかったので、ティファは決断した。


「分かりました!その依頼!引き受けます!」


ティファ達はこうしてレオの依頼を引き受けた。ティファ達早速受け取った準備金で支度を整えて、アスファルト領へと向かった。

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