大盾使いの少女は依頼について報告する

  シンシアの親友の話を聞いた後、ティファ達はもう遅い時間というのもあり、一旦「山猫亭」で休む事にした。

  そして翌朝、2人はコックルのお店に向かった。その理由はもちろん依頼についての報告をする為だ。依頼されたオーガ10体の素材を持って来られなかったのと、それから……


「なるほど。つまり明日の決闘が終わるまで依頼を再開出来ない訳だね」


「本当にごめんなさい……!」


ティファは頭を下げて謝罪する。昨日から謝罪してばっかりだなと、そんな呑気な事を考えてしまう自分を振り切るように心の中で首を横に振る。

  現状、ティファは決闘で決着がつくまでは依頼を受けられない。これは、依頼を受けていたのを理由に決闘から逃げ出すのを防ぐ為の措置である。なので、当然ガブリィの方も依頼を受けるのは不可能である。


「オーガ10体の素材の依頼の件だけど、その依頼は取り下げてもらってもいいかな?」


「ふえぇ!?やっぱりそれは私達が失敗して頼りないからですか!?」


「違う違う!!むしろ、オーガの素材よりも数十倍価値のある物を貰ったから、今はこれを使った装備品の創作意欲が湧いて仕方ないからさ!!」


コックルはティファ達から謝罪代わりに渡された「ホウオウの羽根」を手に取りニッコリ笑った。

  「ホウオウの羽根」はホウオウを討伐しなければドロップしない素材アイテムだ。当然、オーガなんかよりも希少価値が何十倍も高いので、装備品作製が趣味に近いコックルがこれを受け取って意欲が湧かないはずがないのだ。


「それに、国から依頼された件もあるから、オーガの素材を使った装備品はしばらく後回しになりそうかな」


「国からの依頼……?ですか……?」


「あぁ、ティファちゃんのスキル『シールドパニシュ』の威力を抑える為の装備品開発だよ」


コックルの話を聞いてティファは乾いた笑みを浮かべる。まさか、自分のやった事が身近な人に迷惑をかけてしまうなんてと……罪悪感の気持ちが高まってくる。


「あぁ、ティファちゃんは気にしなくて大丈夫だよ。私は装備品作製が趣味のようなものだし、むしろ、私の方からお願いしたいぐらいだしね。それに、同じくこれに関わってるヒルダさんも『やっぱりスキルの可能性は∞ね!』って興奮してたし」


コックルはティファの気持ちを察してか笑ってそう口にする。コックルの言葉に少しも迷惑に感じていないのが分かり、ティファは少しだけ安堵する。そして、やはりティファの装備品開発にヒルダが関わっている事には……まぁ、あのスキルマニアのヒルダさんならそうだろうなぁ〜という感想を抱くティファ。


「まぁ、そういう意味でもティファちゃんには明日の決闘は是非勝利してもらいたいね。でないと、私とヒルダさんがあれこれ考えて作製してる装備品が無駄になってしまうし」


「うぅ……!?プレッシャーをかけないでくださいよぉ〜!?」


「プレッシャーを感じる必要ないでしょ。バガブリィの剣を大盾で受け止める。『プロリフレ』発動で瞬殺でしょ」


「簡単に言わないでよぉ!?リッカ!ガブリィさんの動きってかなり早いんだよ!ちゃんと大盾で受け止められるか分からないんだよ!?」


ティファがガブリィパーティーに所属していた時、ガブリィの動きは遠巻きに何度も見ていた。自分とは違い素早さが高く、敵の攻撃を回避しながら敵を攻撃する姿は、かつてティファも少しだけそんな戦い方に憧れたものだ。


「あぁ……まぁ、あいつは素早さと攻撃力だけはそれなりに高かったわね。まぁ、あくまでそれなりだけど……」


リッカの辛辣過ぎるコメントにティファは苦笑を浮かべる。リッカの魔力や、ティファの防御力が異常数値なだけで、ガブリィの攻撃力や素早さの高さは、一応ギリギリCランクに選ばれた程高い。まぁ、それでも2人の一点特化した数値に比べたら並程度しかないのも事実だが。


「まぁ、そもそも大盾で防がなくてもティファちゃんにダメージは通らないんじゃないかい?」


「確かに大盾で受け止めなくてもダメージは受けないと思うんですけど……問題は大盾で攻撃を受けないと『プロリフレ』が発動しなくて……」


「あぁ、なるほどね。そっちの問題か」


  流石のティファも自分の防御力の異常数値は十分理解し始めている。だから、ガブリィの攻撃を大盾を使わず受けてもダメージをくらわないとは思っている。

  しかし、問題は『プロリフレ』だ。『プロリフレ』の発動条件には、自身の防御力が相手の攻撃力より上回っている事以外にも、相手の攻撃を大盾で受け止めなくてはいけない事が判明したのである。ティファがガブリィに対して安全に攻撃出来るスキルが『プロリフレ』だけなので、ガブリィの攻撃を大盾でしっかり受け止めなければいけないのである。


「だったら、ひたすら攻撃させて疲弊して動きが鈍った頃合を狙うしかないんじゃないかな?」


「だとしたら、随分と時間かかりそうね。どっかの出店で食料を買い込んだ方がいいかしらね」


「あははは……」


ティファがガブリィに勝つにはコックルの言葉通りにするしかなく、リッカの言葉にティファは何とも言えない表情で乾いた笑いを浮かべるしかなかった。

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