大盾使いの少女は受付嬢の過去を知る

「ティファちゃんにはどうやら私があれ程言った説教が通じてなかったみたいねぇ〜」


「ご!?ごめんなさい!?ごめんなさい!?ごめんなさぁ〜い!!?」


ギルドの奥にある職員の休憩スペースでずっと黄昏れていたシンシアだったが、急にギルド内が騒がしくなった。シンシアもティファのランクアップの話は聞かされていたので、もしかしたらそれで宴みたいになってるのかな?さっき物凄く説教した後だけど、ちゃんと自分もお祝いしなきゃと立ち上がりティファにお祝いの言葉を言う為に向かった。

  のだが、実際は何故かガブリィとティファの決闘が、王家主催で開催される事になり、おまけにティファが負けた場合は、ティファが冒険者を辞め、リッカがガブリィの元へ行くという条件付きのもの。シンシアは再び黒い笑顔でティファを見て冒頭のセリフを述べた。ティファはひたすら土下座して謝っているのが現在の状態である。

  ちなみに、王太子アルフレッドは「早速父上と相談して開催準備する!」と言って颯爽と去って行き、ガブリィはしばし呆然とした後、ハッと気付いて1人逃げるように退散して行った。


「シンシアさん!どうかティファさんを許してください!?」


「ティファさんは自分達の為に決闘を受けたんです!?」


「どうか!どうか!ティファさんをお許しください!!この通りです!!」


ヤンとポンとロンの3人も必死で土下座してシンシアに謝罪した。これまでの経緯は、ギルドマスターであるエルーシャから聞かされたので、その事は十分知ってるのだが、またも無茶な事をするティファに念の為の釘を刺す意味で言ったのに、何だか自分が悪者みたいになった気分になり、シンシアは溜息をつく。


「ごめんなさい。ティファちゃん達も頭を上げてちょうだい。私はね……ただ……冒険者の気性は分かっていても、言わずにはいられないよの。特に、ティファちゃんは私の親友にソックリだから……」


「シンシアさんの親友……?ですか……?」


シンシアは軽く溜息をつき、ティファに椅子に座るように促す。ティファは椅子に腰かけ、その隣の椅子に当然の如くリッカが腰かけたのを見て、シンシアは苦笑を浮かべて2人の向かいの椅子に座る。


「私にはね、一緒に冒険者を目指そうって誓い合った親友がいるの」


シンシアはそう言うと、その親友の事を思い返しているのか、遠くを眺めるように語り始めた。


「私達も、ティファちゃん達と同じく冒険者登録出来る年齢で冒険者登録をしに行ったわ」


冒険者登録には年齢制限があり、15歳になってからしか冒険者登録出来ない。世界各国の冒険者ギルド全て同じルールである


「けど、残念ながら私は冒険者として適正なしと判断されたわ。逆に、親友は大盾使いの適正があって、冒険者になる事が出来たわ」


シンシアの言葉にティファは驚く。先程似ているとは言われたが、職業まで一緒とは思わなかったのである。


「親友はとにかく前向きな娘だったわ。だから、不遇職と言われていた大盾使いに選ばれても、「なったものは仕方ない。冒険者になれなかったシンシアの分まで誰かを守る為の盾になるさ!」っていつも言っていたわ。私はそんな彼女をサポートだけでもしようとギルドの受付嬢に就職したわ」


なんとも心温まるエピソードだが、ティファはシンシアの語りが全て過去形である事に気づき、なんとも言えない感情が胸に沸き起こる。


「そんな彼女だから、かなり頑張って……シャーリィーさんのパーティーの一軍に入れてもらえるようになったわ」


それを聞いて、ティファは思わずシャーリィーの方を振り向く。シャーリィーは何も言わずに黙ってお酒を呑んでいる。


「けど、ある日……この王都にスタンピードが起きたの」


スタンピード。突然複数の多種多様の魔物が群れをなしてくる謎の現象。一説では、魔王が復活する予兆とも言われたが、特にスタンピードが起きても魔王が復活しない事から、台風や地震などの自然災害と同じ現象扱いされている。


「王都に迫り来る大量の魔物達に対処する為、シャーリィーさんとマウローさんの2大Sランクパーティーを中心に冒険者達が一丸となって対処したわ」


  そう言えば、数年前に王都でスタンピードが起きたという事件を聞いた事がある。そのスタンピードは王都の冒険者達が対処して事なきを得たので、流石は冒険者は凄いなと、当時のティファは更に冒険者への憧れが強くなった。


「魔物自体は大した強さじゃなくても、とにかく数が多く動き回る魔物達に、対処に苦戦していて、このままでは数匹は王都へ侵攻してしまいそうだった。そうなれば、王都に被害が出てしまうと考えた親友は……マルティナは……無茶な作戦を決行したの……」



『私が全ての魔物の攻撃を受け止めてみせます!だから!魔物が一か所に集中したらシャーリィーさん達で総攻撃を!!』


ここまでのシンシアの話を聞き、ティファもリッカもシンシアの親友マルティナがどのような結末を迎えたのか分かってしまった。


「マルティナのおかげで、私スタンピードの対処に成功して、王都への被害も0だった……けど……それで……マルティナは……!?」


「あたしのせいさ。あたしがリーダーとしてしっかり止めてれば……いや、そもそもあたしはあの時頭をよぎっちまった……マルティナの言う通りにすれば王都に被害を出さずに済むって……マルティナを殺したのはあたしでもあるのさ……」


2人は当時の事を思い出しているのか、シンシアは震えながら俯いていて、シャーリィーは変わらずお酒を飲んでいるが、その表情は後悔が滲み出ていた。


「……いいえ。シャーリィーさんのせいじゃないです。それに、あの娘はシャーリィーさんに命令されたとしても従っていたと思います。王都に被害を出さない為に……」


「だろうね……そういう娘だったからね……誰かを守る盾になるってのが口癖みたいなもんだったさ」


シャーリィーは懐かしむように笑みを浮かべながら、何故かもう一つ空いたガラスに酒を注ぐ。そこには、誰もいないが、そこにいる誰かに酒を渡すかのように……


「だからかね。あたしはティファの事も大事にしたくなるんだよ。シンシアの言葉通り、あんたはマルティナにソックリさね。もしかしたら、あたしにはマルティナへの罪滅ぼしの意識があるのかもしれないね……」


シャーリィーはティファを見つめながら酒を飲んでそう口にする。そんなシャーリィーに何と返していいか分からず、黙るってる事しか出来ないティファ。


「ねぇ、ティファちゃん。どうしようもない時があるのは分かってる。けど、お願いだから無理や無茶は絶対にしないで。あなたがもし……マルティナのようになったら……私達もだけど、1番悲しむのは隣にいるリッカちゃんよ……」


シンシアにそう言われ、ティファは隣にいるリッカを見る。リッカは何とも言えない複雑な表情をしている。


  ティファはしばし黙って俯いていたが、顔を上げてシンシアの方を見て


「分かりました。でも、大事な人達を守る為なら、私は無理でも無茶でもします。だって、私もマルティナさんと同じく誰かを守る盾になりたいから」


ハッキリとそう宣言したティファに、シンシアは驚愕の表情を浮かべたが、すぐになんとも言えない複雑な笑みを浮かべた。

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