ライブの前に


「ふうぅーん…っ…どぁーぁ」


我ながら可愛さのかけらもない大欠伸だ。

寝癖が酷い。

爆発したような…いやこれ絶対爆発したでしょ。


隣でサチコが寝てる。

ふふ、寝顔も強そう。憧れる。

私も彼女くらい強かったら。

もう少し強かったらなぁ。

筋トレ、してないわけじゃないのになー。

外れたブラの紐を肩に掛けなおす。


「それでは皆様、朝ぼらっk


ラジオがつけっぱなしだった、スイッチを切る。


未だ早朝、日が昇るまで時間は大分ある。

髪を整えて、寝ていた間の汗を流す為にシャワーを浴びる。

健康的な身体、白い肌。

柔肌にシャワーの熱い水滴が弾かれてゆく。

眠気が弾かれてゆく。


サチコが起きてきた。

今日の朝食当番は私だ。

といっても、作るのはサチコに教えてもらった料理ばかり。

女子力高ーー!!といつもサチコには驚かされる。


卵焼きを作りながらふと思う。

時間って、意外と流れるのは速いんだって。

あの2人が来てから毎日楽しくて。

気がついたらもう君たちがここにいれる時間は残り半分になっちゃってて。

誰でも楽しかったのかな。

君たちだから楽しかったのかな。

そんなことを思っているうちに、卵焼きは焦げた。

時間が流れるのって、やっぱり速い。


「ボンヤリしてられないなー」


ボソリと呟いた。



ハッと目が覚めた。

まだ横で拓海は寝ている。

朝の3時。

いや、朝って感覚になってしまった俺がおかしいのかもしれない。

マヨナカ☆ 外は完全に真夜中です。


俺は馬鹿だしさ、成績もよくない。

拓海は凄いや。時々尊敬するよ。

無計画な俺とは違う、考えてる。

負けたくない。

幼稚?そうだよな。

俺ってまだ子供だよな。




「あ、タクミ君、カズキ君、おっはよー!」


「「おはようございます」」


僕たちの声がハモる。

一樹の方がハキハキしてるけどね。


今日はフルルちゃんのライブの準備が何だとかで手伝う事になった。

飼育員そんなこともしてるのか…大変だな…



「それはスピーカーの横に置いてください。アンプはまだ楽屋で使うからそのままで。暗幕チェック…よし、座席の清掃お願いします!」


メガネをかけた猫のフレンズに指示される。

ひぇぇ、腕の筋肉がちぎれそうなくらい楽器は重い。


「ドラムそこ。マイクこっち…今頃サイリウム!?2時間前の予定でしたよね??時間通りに届けて貰わないと困ります!」


猫が業者を怒鳴りつけている。

困惑した表情で頭を下げる宅配の人。

それを見つめていた人も怒鳴られる。


「そこ!手を止めないでください!万一間に合わなかったらライブが中止になるかもしれないんですよ?!そうなったらアナタはファンの皆さんに湖にぶち込まれる楽しみにしておいて下さい!いいですね!」


「すっ、すみません…」


見た目あんなかわいいのに怖ぇ〜…

というかフルルちゃん達を見る目が尋常じゃない…

僕には分かる…ヤバい人だ…


一樹とマコさん、あっちに腰掛けてジュース飲んでサボってやがる…


「あいつら…」


「そこー!サボるなタクミ!」


「へぃっ!」


あの猫、何で僕の名前知ってるんだ…

ビックリして少し声が裏返ったじゃないか。


ダンボールとか運んだり、テントの準備、シートの清掃などなど。

とにかくまぁハードだ。客が入場するまで後2時間程で、屋台も続々と集まってきた。


そろそろ仕事にひと段落つきそう。

そしたら、フルルちゃんの所に行ってみよう。

なぜかって…なんとなく…なんとなく…だ。



「失礼しまーす…」


確かにここが彼女の待機室だったと思うが。

電気もつけられておらず、それどころかまだ何も荷物も置かれていない。

部屋を間違えたのだろうか?


「失礼しました…」


「タークミ!」


両肩を後ろから強く叩かれ、驚いて「うわっ!」と叫ぶ。

後ろを振り返ると、クスクス笑っているフルルちゃんがいた。


「タクミ、ビビりなの?」


「ぼっ、僕はビビりなんかじゃ…」


「ウフフッ、入っていーよー」


そのまま背中を押されて部屋に入り、電気をつけて座布団に座る。

フルルちゃんはドサッと荷物を床に降ろすと、横に立ててある仕切りをもってきて、着替え始めたので動揺した。


「えっと…あー…僕戻るね…」


「えー?ちょっとまってー!」


と言われましても…

僕男ですよ?目の前で着替えてる女の子いて意識しないはずが無いんだが。

着ていたはずの上着が仕切りの上にバサッとかけられて、なんかこう、頰が熱くなるっていうか…

フレンズだからあんまりそういう意識は無いんだろうか。


仕切りの中から、虹のように煌びやかな衣装に身を包んだ少女が出てきた。


目をそらす事が許されないような…

星屑の輝きを全て奪って集めても、どうして彼女の代わりになれるというのだろう。

それほどに、輝いている。


「どう?」


「どうって…すごく…キラキラしてると思う…」


少しして、自分がみっともない顔で彼女を見ていたのに気がつく。

彼女も嬉しそうに髪をいじる。

その顔が、少し赤みを帯びるように…


「フルルー!リハーサルだz…」


イワトビペンギンの子がドアを開けて入ってきた。


この子をこれから「雰囲気クラッシャー」と呼ぶことを、僕は胸に誓った。

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