気付いたんだ
アイドル
結局、そのあともずっとフルルちゃんがマコさんと僕を同じフィールドに居させようと調整していた。
一樹は少々不機嫌ではあったが、それでもボタンがしっかりとまっていないマコさんの作業着を見るたびに鼻の下を伸ばしていた。
タクミたちがそんな他愛のない研修生活()を送る間にも、様々な事が起きていた。
例えばパークの火山とか。
「ママー!見て見て!あかー!」
「はいはい、綺麗な夕焼けだね」
「ちがうー!お山のてっぺん!」
その母と子は手を繋いで道を歩いていた。
子供は自分の見た事が母にうまく伝わらず、頰を膨らませて拗ねてしまっている。
もっとも、母も子供の事だから、と思っていたに違いない。
アレは、あの色は赤−と形容するしかない。
赤黒…黒い光を見た事があるだろうか。
虹の水晶を通して光が六角形を結びつけるその隙間に、その色は走っていた。
「…雨…?」
「そんな訳無いだろ、ここは砂漠地帯だぜ」
「えぇ〜だってほら」
1人の女が連れの男に自分の腕に垂れた一雫を見せる。
その雫は一瞬にして蒸発し、虹の光へと還元され、うわぁと感嘆の声が漏れる。
「うわぁ…かわいい!!」
マコさんの前でフルルちゃんが軽く舞っている。
小さくぴょこぴょこと動く尻尾。
あまり深く意識している訳じゃなかったけど、この子以外とエロい格好してないか?
特に太腿が柔らかそうだ…あの上で眠りに落ちたら二度と起きることはできないだろう。
フルルちゃんが視線に気づいて、少し顔を赤らめながらキュッと毛皮の端を掴んで下げる。
そして気づかれた事が恥ずかしくて、こっちも耳が赤くなる。
ここはライブステージ横の練習室。
フルルちゃんはパークの人気アイドルグループであるPPPペパプのメンバーであることは勿論僕には下調べ済みだ。
どうやら練習が始まる時間を1時間ほど間違えたらしい、よって僕たちは暇つぶし。
フルルちゃんはどうにかしてマコさんを引っ張ってきてくれた(ありがたい)
「あれ?おはようフルル、おはよう飼育員と…済まない、君は…」
「あ、こっちは研修生のタクミ君!タクミ君、こっちはPPPのリーダーのコウテイちゃんね」
「よ、よろしくおねがいします…」
オイオイ、更にどすけべなのが来たぞ…
競泳水着よりも更に更に際どい真っ白なハイレグはなんていうかその…見えそう。
てか胸デカっ。マコさんよりデケェ。
ほんでジャケットを羽織ってるが意味はあるのか?
「おっぱいデカ〜!いいなぁ〜私もこれくらいあったらなぁ〜。あ、コウテイちゃんの食べてるやつと同じのを食べれば大きくなる?」
「し、飼育員!ヤメろ!け研修生が見てるだろ!」
マコさんが目の前でコウテイの胸を揉み始めてる。
ダメだ別の事を考えろ…3.1415926535897932384626☆1145143643641919810…
「よう!フルル、コウテ…」
入ってきたイワビー、イワトビペンギンが目にしたのは、胸を揉まれて赤面するコウテイと揉むマコさんと耳を赤くしながら円周率を唱える知らない人とどこから取り出したのかわからないジャパリまんを食べるフルル。
訪れる静寂とカオス。
「とりあえずロックじゃないのは分かった」
その後2人のフレンズ、プリンセスとジェーンが合流し練習が始まるのだが、僕たちの仕事はただ見ているだけ。
水分とかはお付きのマネージャーのフレンズがあげている。
彼女から出る鼻血の量の多さからフレンズの強靭な生命力を思い知った。
フルルちゃんは五人の中でもミスが少し多い方だ。
時々振り付けを間違えたりする。
だが歌はとても上手い。
軽やかに舌を回して胸から溢れ出すような甘い歌声は、それぞれの強い個性の中でも一段と光る。
「どう?可愛いでしょ」
マコさんが彼女たちを眺める僕に話しかけてくる。
「えっ?は…はい」
いきなりの問いで、しかも彼女たちにも聞こえてしまうかもしれない声で話しかけてくるものだから少し回答に困ってしまう。
「好き」
「えっ?」
「私、フレンズたちが好き。みんな一生懸命、慣れない体のハズなのに頑張ってるんだもん。見てるとね、私も頑張らなきゃな〜って思うの」
一瞬だけ変な期待をした自分は忘れたい。
貴女は愛にも似た感情で彼女らを見つめるのか。
艶のある唇に塗られた紅は仄か、明るい茶色の瞳の虹彩が広がる。
「タクミ君、研修たのしい?」
「はい」
「ウフッ!良かった。私ね、この仕事天職だと思ってるの。みんなにも知ってもらいたいし、何よりキミたちには楽しんでもらいたいし」
マコさんは柔らかな頰に手をつく。
カセットから流れる曲が止まった。
今の僕にとって、マコさんを眺めるのが一番有意義に思えているよ。
アイドルなんかじゃないけどさ。
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