手伝ってあげる
こんなんでいいんだろうか。
なんか仕事した気が全くしない。
一樹は既にアードウルフのフレンズと仲良くなったみたいで、帰りのバスでマコさん含め3人の自撮りを見せつけてきた。
別に、羨ましくなんか、ない。
マコさんは斜め前の席の窓にもたれている。
瞳に光が反射し、頰には黄昏に彩られた赤みがかかっているのが分かる。
艶やかな髪は肩に座っていた。
マコさんは僕が眺めているのに気がつくと、こっちを見て微笑んだ。
あの人は僕たちよりずっと大人なんだ。
僕たちは再び部屋に戻ってきた。
日暮れと共に担当のフレンズたちは寝てしまう事が多いらしい。
そうしてしまえばいいだろうが、そんな訳にもいかず、こうしてレポートを書かなければいけない。
「カズキ、お前レポートいいのか?」
一樹はさっきからスマホにかじりついている。
こっそり画面を覗いてみると、そこには「マコさん」と上に名前が書いてあるラインが開かれていたので、思わず声が出た。
「えぇぇぇぇっ?マコさんのライン貰ったのか?」
「なんだよ、見んなって」
羨ましくなんかないんだからな!
たっぷりと昼寝をしてしまったので寝れない。
どうせ3時半に起こされるんだからこのまま起きていた方がいいのかもしれない。
母さんからメールだ。
ああ、もちろん、楽しくやってるってば。
こんな時間に面白いテレビもなく、インターネットで動画を漁ろうにもいまいち気が乗らない。
少し夜風に当たれば眠くなるかもしれないと思って、窓を開けて肩から乗り出す。
夜中1時には誰の声もしないが、時折聞こえてくる木々のざわめきが耳をくすぐる。
広がる山々。
その中に、異常なモノを見た。
「カズキカズキ!起きろって!見ろよあれ!」
「えへぇ〜ん、マコさぁ〜ん、ダメですよぉ〜」
寝ぼけてやがる。
たしかに今僕は見た。
フレンズたちの第二の命の源とも言えるサンドスターを噴出する"火山"から伸びる虹の結晶が燃えるように赤く光ったのを。
「見てないんですか?」
「夜中の1時でしょ?う〜ん、流石に見てないな」
「タクミ、寝ぼけたんじゃねえの?」
お前だよ。
朝のバスで再びマコさんと合流して、水辺に行ったが誰もその光を見ていないと言う。
やっぱりあれは気のせいだったのだろうか。
「タクミさん?」
いきなり耳元で囁く声は柔らかく、直ぐに誰のものか分かると同時に少し恥ずかしさを覚える。
だいたい無意識だもんなぁ…
「おはよう…フルルちゃん、どこか痛い所とか、調子悪い所はない?」
「だいじょうぶー」
健康観察をして、ペーパーにチェックをつける。
フレンズと言えど基本的には身体の作りは思春期の人間の女子そのもの。生理も起こる。
しかし元は動物、なにも望んで手に入れた身体ではないのだから大変だ、しっかり彼女達には寄り添ってあげる必要があるのだとマコさんは6本目のビールを開けながら興奮した様子で語っていた。
一樹もマコさんの谷間で興奮していたが。
透き通るような白い肌。
整った艶めく茶髪。
「なんか今日、タクミさんぼーっとしてるねー」
「そ、そう?気のせいじゃない?」
「恋煩いー?」
ギクっとした。
何でこの子そんなませた言葉を知ってるんだ?
思わず手を止めてしまったのがマズかった。
「…あてちゃったー?」
「ぜぜぜぜ全然違うよー????何を言ってるのかなー???」
「マコさん?」
馬鹿野郎。
「またあたりー!」
「いやいやいやいや、別にまだ会って3日しか経ってないし確かにキレイってゆうか可愛いってゆうか…でもでも年上だし彼氏だっているかも」
ここに来て童貞力を存分に発揮。
いやでもマコさんあそこまで綺麗だから彼氏いるだろうし別に好きなわけじゃない…
「独身だってー」グサリ
「彼氏欲しいって嘆いてるよー」グサリ
「年下がタイプだってー」グサリグサリ
やべえ一歩も動けん。
「早くしないと、お友達にとられちゃうよー」
ちらと右を見る。
そういえば、マコさん手伝ってくれるって言ったのに、一樹に付きっ切りだ。
3人で楽しそうにしやがって。
「フルル手伝ってあげるよ」
「ま、マジで?!」
「いいよー、タ・ク・ミ」
なんなんだこの子悪魔かよ。
ふわふわした感じなのにマウント取ってきやがる…
いやこのままマコさんとは親密度を上げておきたい所ではある…クソ…考えろ…考えろ(CV藤原竜也)
「マコさ〜ん、きて〜」
背中をポンと押される。
いや、勝手に呼ばれてニコニコされても…
マコさんが小走りでやってきた。
「は〜い何?どうしたのフルルちゃん、タクミ君」
「三人でジャパリまんたべよ〜」
今そのジャパリまん何処から湧いて出たよ。
なるほど、そういう手で来たか…ってまだそうしろなんて一言も言ってないし俺がマコさん好きだっていう前提で始められてない??
「ね〜?タクミ」
フルルちゃんはなぜか頬っぺたに少し触れた。
「イイわよ、一緒に食べましょ!…あれ?タクミ君、頬っぺたに泥ついてるよ?」
「あっ、いいんです自分で−
「動かないで…取れた!」
マコさんの指は細くて、少しヒンヤリしていた。
一樹がジェラシー剥き出しでこちらを見ている。
…なんか、悪くないかも。
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