第4話
さっきも言ったけどサチはそこそこ美人だ。僕は本当にそう思う。だって、僕が小さい頃何回もチューしたし。たぶんもし僕がサチと姉弟じゃなかったら、僕は一生サチに恋をしていただろう。
・・・っていうのは冗談で、やっぱり姉は姉。たしかに美人だし好きだけど、僕はもう少し胸がでっかくて、顔が犬顔じゃないとだめなんだ。サチは猫顔。どっちかというと、えさを与えすぎたせいで動きがのろいからすぐに車にひかれちゃうような、あのだる~んとした裕福猫のような感じの顔。わかるかな?とにかくサチは猫顔。
僕はいっつもどこに行くにもサチの後ろにくっついてた。僕は姉ちゃんっこだったんだ。僕が小学3年生くらいまでは、ずっとサチのフンだった。フンのようにずっとくっついていたんだ、ほんとうに。たまに本当のフンに間違えられるくらい。でも今考えるとそのころってサチ18歳だろ?うっとうしかったんだろうなって思う。思春期真っ只中で、きっと彼氏とかもいただろうし。まぁいいか、もうサチはおばさんにまっしぐらだし。
僕はよくゲーセンに連れてってもらった。コインゲームが僕のお気に入りだった。夢中になってジャンケンポンのやつとか、忍者が出てくるやつとか、マリオが出てくるやつとかやったんだ。あの頃、ゲーセンに通っていた同志たちなら、きっとわかってくれるはず。いつもサチは僕に300円とか500円とかくれて、僕の目がギラギラなってるのを嬉しそうに見ていた。僕はそういうときのサチの笑顔を見るのが大好きだった。僕がコインゲームに夢中になっている間ぼーっと僕のほうを眺めて近くのベンチに座っていて、コインゲームはたしかに楽しいんだけど、なんだかサチも気になるからきょろきょろきょろきょろとコインとサチを見ていた。そんなに心配しなくても姉ちゃんはどこにも行かないからって、笑いながらサチは僕にいつも優しく言ってくれた。そんなサチが大好きだった。
でもすぐに僕はもとのきょろきょろきょろきょろが始まるんだけど、ぜったいに毎回最後はコインだけに夢中になってしまう。僕は夢中になると全く周りの音も聞こえないし、もう目の前にはグーとチョキとパーの赤い点々のライトしか見えてないんだ。コインがコイン出口に貯まっていくのにも気づかないくらいだから。「ちゃりんちゃりん」って、いつもコイン出口がいっぱいになって、溢れて地面に落ちてきたときにはっと我に返る。そのときには、サチはいつもそこにはいない。サチが座ってたベンチには、サチの笑い声と笑顔だけが残っている。
僕はダッシュで家に帰る。大量のコインをスーパーの袋に急いで詰めて、鉄特有の血の臭いを掌から存分に醸し出しながら「ガシャガシャガシャガシャ」させながらダッシュで帰る。
僕はいつも半泣きでサチにめちゃくちゃ言う。サチは僕を見て爆笑する。だからワーっと僕は号泣する。そしたら、母さんと父さんが爆笑する。だから鼻水も一緒にワーっと、もうぐっちょぐちょになる。いじめだ、あれは。誰かなぐさめろって。そういった心のドメスティックバイオレンスが原因で、僕は変人になったんだろうなと今しみじみ思う。
でもそんな号泣も母さんのご飯でプラマイゼロになる。本当にゼロになる。それくらい母さんの料理は絶品だ。ご飯を食べてしまったあとは、泣いてたことなんてすっかり忘れている。ほんと母さんの料理はほっぺたが落ちるくらいうまい。実際みんなほっぺたが落ちたんだ。だからみんな太らない。
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