光跡
呼続こよみ
プロローグ——星々のヴェネツィア——
学校の授業がようやく終わった。人と人が直に顔を合わせ、交流し学びを得ることは、この時代だからこそ大事だという。
中の上、若しくは上の下にランクされる名門お嬢さま校に通う
「
おっと。ブレーキを掛けて反転した。
「なによ。」
振り返ると、相手は
「今日忙しいんだけど。”舟”が来るの」
「あっ!前言ってたお舟ね!?」
「そ。で、なぁに?」
「うーん……急いでいるならいいや!明日もよろしく!ごきげんよう!アミーゴ!」
「ご・き・げ・ん・よう!」
いつでもご機嫌な彼女に背を向けて、今度こそキッカーで滑り出した。
人類が地球周回軌道に進出し、数世代を重ねた。手を伸ばしてようやく届くようになった「宇宙」——地球周回軌道で、当初は専ら《もっぱら》基礎研究や技術開発が行われた。やがて工業目的で宇宙開発が行われるようになると、「宇宙」に長期間滞在する人が増え、様々な産業が盛んになり、街ができた。そうして産まれたのが旧市街だ。このころには惑星探査や観光という新しい「宇宙」に手が届こうとしていて、その拠点にもなっていった。
こうして出来た、「宇宙」という大海との渚にある旧市街を、いつしか、人々は水の都ヴェネツィアに擬え《なぞらえ》て、「宇宙のヴェネツィア」「星々のヴェネツィア」(Venice of Stars)と呼ぶようになっていった。
人類の双腕が小惑星帯を、ガス惑星やその衛星を捉え、その先を窺う現在、旧市街にはかつてとは異なる時間が流れている——
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