第3章 帝国編
第164話 冒険者リリア
「キシャアァアアアアアアッッ!!」
リリアに向かって大きく顎を開いたレッサードラゴンが突進する。
その体躯はリリアよりもはるかに大きく、鍛え上げられた強靭な体から繰り出される突進の速度は当たれば人間など容易に粉砕してしまうことはわかり切っていた。
しかし、リリアの目に焦りの感情はない。むしろ計画通りにことが進んで笑みを浮かべているほどだ。
「リント、今よ!」
「任せろ! ——『アースロック』!」
レッサードラゴンの足元の地面が隆起し、その足に絡みつく。
不意をうたれる形となったレッサードラゴンは大きく姿勢を崩し、転んでしまう。
「これで終わりよ——【姉破槌】!!」
『姉力』を纏わせた渾身の一撃がレッサードラゴンの頭部に突き刺さる。
その威力はレッサードラゴンの頭部が地面にめり込むほどだった。
「グ……ガ……」
そんな一撃を受けてしまえば強靭な肉体を持つレッサードラゴンといえども、耐えることなどできるわけがない。
そのままあっさりとレッサードラゴンは絶命してしまった。
「よし、これで片付いたわね」
「片付いたわね、じゃねーよ! お前なぁ、どんな無茶してんだ!」
軽く汗を拭うリリアのもとにリントが駆け寄って来る。その表情は怒りに満ちていた。
「無茶ってなによ」
「あれのことだよ!」
リントが指差す先にあったのはレッサードラゴンの死体。しかし、それは今しがた倒したレッサードラゴンの死体ではなかった。
そしてよく見れば、周囲には一体や二体ではない、多くのレッサードラゴンの死体が転がっていた。
「いきなりレッサードラゴンの巣に攻撃しかける奴がいるかバカ!」
「バカって何よ。レッサードラゴンの討伐が依頼だったんだから、巣ごとやっちゃうのが早いでしょう」
「依頼はあくまでレッサードラゴン一体の討伐だろうが! どこに巣ごと壊滅させろって書いてあんだよ!」
「一体だけか巣ごとかってだけの違いじゃない。細かいことよ」
「いや細かくねぇ!」
まったく悪びれる様子もなく言い放つリリアに、リントは怒りと呆れの入り混じった表情を浮かべる。
リリアとコンビを組んで依頼を受けるようになってから、今回のようなことは一度や二度ではなかった。
リントが何度注意してもリリアはまったく気にしない。
馬の耳に念仏、という言葉が何度リントの脳裏を過ったことか。
「とりあえず討伐の証を持って帰ったらいいのよね。うーん、でも確かレッサードラゴンって結構いい値で売れた気がする」
「おいリリア……何考えてんだ」
「せっかくだし、これ持って帰れるだけ持って帰りましょう」
「持って帰るのは?」
「リントの役目」
「結局そうなるんだよなぁ。まぁ確かにこのまま放置しても勿体ないだけだから、持って帰ることは賛成なんだけど……なーんか釈然としねぇよなぁ」
「ほらほら、細かいこと言ってないで早く回収しないと。魔物の素材は鮮度が命なんでしょ」
「はぁ、わかったよ——『ブラックホール』」
やる気の無い声でリントが魔法を発動させ、空中にポツンと黒い穴が浮かぶ。するとその直後、そこらじゅうに転がっていたレッサードラゴンの死体がどんどんその穴の中に吸い込まれていく。
「ホント便利ね。その魔法。狙ったモノだけ掃除機みたいに吸い込めるなんて。羨ましい。今度それで私の部屋の埃吸いとってくれない?」
「掃除機ってお前なぁ。俺を便利な道具扱いするなよ」
「冗談よ。とりあえずこれでB級への昇格は確定ね」
「そうだな。思ったよりいいペースじゃないのか」
「こんなペースはダメよ。もっと急がないと。帝国で待つハル君のためにも!」
「お前はホントにそればっかりだな」
「それじゃあさっさと帰って……って、ん?」
「おいおい。マジかよ……」
空を見上げたリリアとリントはそれぞれ対照的な反応を見せる。
リリアは好戦的に笑い、リントはこれからどうなるかを理解して苦虫を噛み潰したような顔をする。
「レッドドラゴン。なるほど、レッサードラゴン達の親玉がいたのね」
「このまま逃げかえるって選択肢は……」
「悪いけど、無しよ」
「だよなー」
現れたのは赤い体を持つレッドドラゴン。
従えていたレッサードラゴン達を全て殺されたことに腹を立てているのか、その目は怒りに染まり、口からは炎が漏れている。
「グルゥアアアアアアアアアッッ!!」
「かかってきなさい!」
「あぁ、くそ。いっつもこうだ!」
ブレスを吐いていたレッドドラゴンにリリアが正面から突っ込む。こうなったらもはや逃げることなどできない。
こうしてリリアとリントは、レッドドラゴンと戦い始めたのだった。
そもそもなぜリリアとリントが行動を共にしているのか。
リリアの言っていたB級への昇格とはなんなのか。
全ての発端は王都襲撃事件の後にまで遡ることになる。
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