第138話 思わぬ再会

 リリアの怒涛のラッシュによって爆散したアブソーブスライム。しかし爆散しただけで死んだわけではなかった。

 散り散りになったアブソーブスライムは再び一つになろうと動き始める。


「まだ生きてる……さすがスライムっていうか、生命力だけは強いわね」

「まぁスライムだからな。核を壊さないと死なないし」

「核って言われても、これだけ散り散りだとどこに核があるなんてわからないけど」

「まぁ待てって」


 リントはスマホのカメラを通してスライムのことを見る。カメラを動かし続けていたリントの手が不意に止まる。


「あー……そこだ。それが核だ」

「これ?」

「あぁ、そいつだけやたらと黒いだろ。核持ってる証拠だ」

「確かに。じゃあコイツを潰せばいいのね」

「あぁ、でも気をつけろよ。核の部分は普通じゃなくてやたらと硬いか——」

「ふんっ」


 グシャ、と跡形もなく潰れるアブソーブスライムの核。それに伴って集まろうとしていたアブソーブスライムの体が蒸発するように消えていく。完全消滅だった。


「? 何か言いかけてた?」

「……いや、なんでもねぇ。核を一撃ってあり得ねぇだろ。あれ鉄よりも硬いんだぞ」


 柔軟性に富んだ肉体に似合わぬ鋼鉄のような核。それもまたアブソーブスライムの特徴の一つだった。核を斬ろうとして逆に剣が折れた、などということはよく聞く話だ。それもいとも簡単に壊してしまうリリアにリントは最早何度目かわからぬ驚きを覚えていた。


「??? まぁなんでもいいけど、早く行こう。ここを道なりに進んだから王城にたどり着くはずだから」

「あぁ、そうだな」


 リリアの後を追って走りだしたリントは、ふと思い出したようにリリアに質問する。


「そういえばお前の『職業』って結局なんなんだ? 《拳闘士》とかか?」


 リリアの高い戦闘能力と拳を使った戦い方を見てリントはリリアの『職業』は《拳闘士》辺りなのではないかと考えていた。


「……そこ気になる?」

「え、あぁいや普通にちょっと気になったから。ちなみに俺は《魔法使い》だ。見てわかるだろうけどな」

「あれだけ魔法使えるならそうでしょうね。むしろ違う『職業』だったら驚くわ」

「で、お前は? それくらい教えてくれたっていいだろ」

「《村人》だけど」

「……はっ!? いやいや待て待て。《村人》? お前の『職業』が? 絶対嘘だろ!」

「ホントだって。なんなら後で職業カード見せてあげる」

「えぇ……いや、マジなのか?」

「もちろん。マジもマジ、大マジだから」

「その言い方逆に嘘くせぇ……」


 それはもちろん嘘なのだから嘘くさくて当たり前なのだが、少なくとも現時点でリントに真実を告げるつもりは無かった。


「今は『職業』なんてどうでもいいでしょ。大事なのは戦えるか否か。それだけなんだから」

「まぁそうなんだけどな。お前といると時間が経つにつれてわかってくどころか謎が増えてくんだが」

「女には秘密が付き物なのよ」

「これ以上謎を増やしてくれるなよ」

「さぁどうかしら」

「判明してるのはブラコンってことくらいだ」

「それだけわかってれば十分よ」


 そんな軽口を叩きながら走っていると、不意に違う方向から悲鳴が聞こえてくる。


「きゃぁああああああああっっ!」

「今の声……」

「悲鳴だよな」


 顔を見合わせて僅かな時間、思案した二人は同時に結論を出して言った。


「無視しましょう」

「助けるぞ! っておいぃ! 無視ってなんだよ無視って!」

「冗談よ。助ける。助けますとも」

「絶対本気で言ってただろ」

「なんでもいいから助けるなら早く行きましょう。手遅れになる前に。あなたと問答してる時間はないわ」

「そうだけど、そうなんだけど。あぁなんか釈然としねぇ」


 声のした方へ急ぐリリアとリント。するとそこに居たのは複数の魔物に追い詰められている少女だった。

 民家を背にし、逃げ場を失ってジリジリと追い詰められていた。


「く、来るなら来なさい。あなた達なんて別に怖くもなんともないんだから」


 若干涙目になりつつも毅然とした態度で言い放つ少女。リリアはその少女に見覚えがあった。

 先頭にいたオークが持っていた棍棒を振りかぶる。絶対絶命の一撃だ。しかしその棍棒が振り下ろされる前にリリアが少女とオークの間に割って入った。


「……?」


 ギュッと固く目を瞑っていた少女は、衝撃がこないことを不思議に思ってゆっくりと目を開く。そして目にしたのは棍棒を片手で受け止めているリリアと、燃えている魔物達の姿だった。


「戦闘の際に敵から目を逸らすのは愚策も愚策。目を瞑るなんてもっての他。それはもう生存の放棄に他ならないから。気配を探れるならまだしもね」


 バキッと音を立ててオークの棍棒が圧し折れる。リリアはそのまま回し蹴りでオークを仕留めた。


「なんて言ってみたけど。まぁ戦う必要のないあなたには関係の無いことよね。こんな所で何してるのミスラ。散歩をするには少々……というか、だいぶ危ない状況だと思うけど」

「あなた……リリア?」


 魔物達に襲われていたのはミスラ、この国の第一王女だった。




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