第114話 vsレッドライノス 中編
対レッドライノス。イルの立てた作戦は非常にシンプルだった。突進が武器だというならばその突進を潰す。それだけだ。隙さえ作ることができればハルトにも攻撃のチャンスがあるのだから。
『行けるな主様。さっきは妾も抜かっておった。もう同じミスはせぬ。イルと合わせて早々に決着をつけるぞ!』
「うん!」
イルがレッドライノスの突進を止めてくれたことで僅かとはいえ時間が生まれ、その間に体勢を立て直すことはできていた。
『相手はA級、その意味を考えておくべきじゃった。ただ単純に身体能力が高いわけではない。何か一芸を持ってこそというわけじゃ。今度は油断せんぞ』
リオンはレッドライノスの突進を読めなかったことを恥じていた。自分の不覚で主であるハルトを傷つけるなど、忠剣として到底認められるものではない。リオンの内心は自身とレッドライノスへの怒りで満ちていた。
対するレッドライノスも無様に転がされ、突進を止められたことで怒りの感情が爆発しそうになっていた。
「ブゥロォオオオオオオオオオオッッ!!」
ビリビリと空気を震わせるほどの咆哮。放つ威圧はハルトの体と心を萎縮させようとする。だが、今のハルトは咆哮で怯むほど弱くはない。むしろレッドライノスの咆哮を受けて心を高ぶらせる。
「すぅ……はっ!」
不撓不屈の精神でハルトはレッドライノスに向けて駆け出す。迎え撃つために再び突進の姿勢に入ろうとするレッドライノスだが、その周囲はイルの放った『ホーリーチェイン』で囲まれている。迂闊に突進すれば再び無様に転倒するのはあまり頭が良いとは言えないレッドライノスの頭でもわかった。
どうするべきか。そう逡巡しているうちにレッドライノスの正面にハルトが迫る。
「——『地砕流』!!」
ハルトの持つ最大威力の技。レッドライノスがもたついている間にハルトはその技をレッドライノスの頭に叩き込もうとした。しかしそれより僅かに速くレッドライノスは防御姿勢を取る。
「ルゥアッ!」
「っ! わかってたけど硬い!」
レッドライノスの腕は岩かと思うほどに硬かった。分厚い筋肉はハルトの攻撃を通さなかった。逆に攻撃したハルトの手に振動が返ってきたほどだ。
「でも、ロックゴーレムほどじゃない」
『うむ。あの硬さならば貫ける』
岩かと思うほどの硬さ。それはつまり岩ではない。岩の塊であるロックゴーレムと戦った経験のあるハルトならばレッドライノスの硬さは決して貫けないものではないのだ。
「このまま連続で仕掛ける!」
ハルトは斬りかかった勢いそのままに連撃を仕掛ける。リリアとの訓練を通して、魔力の操作は以前よりもずっと向上していた。リリアのように流麗に操ることこそまだできないが、安定して剣に魔力を纏わせることはできていた。
ハルトの連続攻撃は着実にレッドライノスにダメージを与えていた。息もつかせぬ猛攻にレッドライノスは防御しかできない。振り払おうと腕を振ろうとすれば後方からイルが『ホーリーランス』で狙撃してくる。
『主様、右足を狙うんじゃ』
「右足?」
『うむ。あやつさきほどから右足だけは確実に守っておる。古傷があるか、もしくは奴の要か。じゃが、弱点であることに間違いはない』
リオンの指摘は二つとも当たっていた。突進の際、踏み込みに使うのは右足。そして魔物同士の縄張り争いの際につけられた傷があった。だからこそレッドライノスは無意識に右足を庇う行動をとっていたのだ。それをリオンは見逃さなかったのだ。
「わかった!」
リオンの言葉でハルトはレッドライノスの右足に攻撃を集中させる。そしてイルは、ハルトの攻撃に合わせて目くらましの魔法を放つ。
「——『ホーリーライト』!」
「『地砕流』!」
「っ!!! ルゥアアアアアアアアアアッッッ!!!」
不意を衝かれたレッドライノスは右足にハルトの『地砕流』を受けて悲鳴を上げる。その一撃でレッドライノスの右足は完全に折れていた。
(完璧に入った!)
初めて感じた完璧な手応え。しかし、レッドライノスにダメージを与えれたことでハルトの心に隙が生まれてしまった。右足を傷つけられたことで怒り狂ったレッドライノスが乱暴に振るった拳がハルトに直撃する。
『気を抜くな主様! まだ奴は倒れたわけではない!』
「ぐっ、う……ご、ごめん」
受け身を取ってすぐに立ち上がるハルト。レッドライノスは傷をつけられたことで完全に怒り狂っていた。折れた右足のことすら頭から消えるほどに。
全員殺す。レッドライノスの頭に残ったのはその一つのみ。そのためにレッドライノスはハルトではなくイルを狙った。後方で邪魔してくるイルを潰すと。
「ちっ、こいつオレを狙って。そうはいくか——『ツイン・ホーリーランス』!」
左足で地面を蹴って跳んできたレッドライノスを魔法で迎撃しようと二本の光の槍を投げる。しかし、イルがとっさに放った魔法はレッドライノスを迎撃するには致命的に威力がかけていた。レッドライノスの分厚い肉体はイルの魔法を通しはしなかった。しっかりと詠唱していれば話は別だったが、そんな時間は無かった。
「くそっ!」
「ルゥアアアアアアッッ!」
イルの目の前に着地するレッドライノス。近距離では勝ち目がないと判断したイルはさがろうとするが、それよりもレッドライノスの方が早かった。
「あぐぅ」
防御魔法すら間に合わず、イルは殴り飛ばされてしまう。それによって魔法の制御を失ったイルは周囲に張り巡らせていた『ホーリーチェイン』の魔法を解除してしまう。
「イルさんっ!」
呼びかけるハルトだが返事はない。駆け出そうとするハルトをリオンが止める。
『待て主様! イルのことが心配なのはわかるが焦ってはならぬ! あやつなら大丈夫じゃ。それより今はレッドライノスを——来るぞ!』
「ルゥアアアアアアッッ!!」
イルという邪魔者を消したレッドライノスは折れた足も構わずに突進してくる。今度は『ホーリーチェイン』で止められることもない。
そんなレッドライノスをハルトはキッと睨みつける。
「やるよリオン」
『うむ!』
「『憤怒の竜剣』!」
ハルトの力が爆発的に上昇する。魔力と引き換えにハルトは力を得た。
「そこを——」
「ルゥオオオオオオッッ!!」
「どけぇっ!」
そして、ハルトとレッドライノスは正面からぶつかった。
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