第112話 騎士団の意地

 王城にて。

 ハルトとイルは依然として魔物との戦いを続けていた。ワープゲートが閉じる気配がなく、魔物は際限なく増え続けていたからだ。しかし、だからといって状況の全てが悪くなったわけではない。ハルトとイルが時間を稼いだおかげで、王城内にいた人々の避難は完了し、騎士団や教会の人間が応援に駆けつけていたからだ。

 これによりハルト達は自分達に襲い来る魔物を対処するだけで良くなった。辛い状況であることに変わりはないが、魔物とて無限ではないと自分に言い聞かせ、ハルトは戦い続けていた。


『主様、助けが来たからと気を抜くでないぞ。この状況、少しの油断が命取りとなる。それに出てくる魔物も少しずつ力が増しておる。このまま手をこまねいていては物量で押し切られるぞ。原因を直接を叩かねば』

「わかってる! でも今はこうするしか……」


 リオンに言われるまでもなく、ハルトも原因をなんとかしないといけないのは理解していた。しかし、その原因がどこにあるのか皆目見当もつかないのだ。


(なんとかしないと……このままじゃ皆やられる)


「ハルト、こっちに来い! 急げ!」


 その時だった。後方から魔法で支援をしていたイルがハルトのことを呼ぶ。何か聞いている暇はないと、ハルトは魔力で足を強化してバックステップでイルの元へと跳ぶ。


「どうしたの!」

「《魔法使い》達が一斉に魔法撃つから邪魔だっただけだよ。来るぞ!」


 ハルトとイルのさらに後方から、《魔法使い》の部隊が一斉砲撃を行う。炎、雷、水、風などなど様々な属性の魔法が王城内にいた魔物達に襲い掛かる。着弾と同時に、閃光と爆音。高威力の魔法が地面を抉り、魔物達を一掃する。


「うわぁっ!」

『ぬぅ、すごい威力じゃのう』

「でもこれなら」


 土煙が晴れた後、そこに大量にいた魔物は一体も残っていなかった。しかし——


「ちっ、まだ湧いてきやがるのか」


 隣にいたイルが舌打ちと共に憎々し気に言う。王城内にいた魔物は一掃できた。しかしそれでもまだワープゲートは開いたままで、そこから魔物が落ち続けていた。しかも今度は先ほどまでより強い魔物がいた。


『ふはは、なかなかに強そうじゃのう』

「B級……A級まで混じってやがる」

「やっぱりあのワープゲートをなんとかしないと」

「そうだけど、だからってどうすんだよ。あのワープゲートがどこから開かれてるかなんてわからないんだぞ」

「でもだからってここで戦い続けても意味ないでしょ。まずは行動しないと」

「簡単に言うなバカ! オレ達がここを離れるってことは、魔物共を放置するってことなんだぞ!」

「それは……」


 確かにイルの言う通り、ワープゲートの問題を解決するということはこの場を離れるということ。それは、新たな魔物達をこの場にいる騎士団や教会に任せるということなのだから。イルの言葉に迷いを見せるハルトだが、その背を押すように騎士団の団長が言う。


「ここは我らに任されよ!」

「え? でも——」

「《勇者》殿に《聖女》殿。我らはあなた方に心配されるほど弱くはない。長年国を守り続けてきた精鋭なのだ。A級やB級の魔物であろうとも、どうということはない。なぁ、皆の者! 我らの底力、今こそ見せる時だ!! 我らの領地を魔物の隙にさせるな!!」

「「「「「おぉおおおおおおっっ!!!」」」」」


 団長の鼓舞の言葉に、騎士団員も、教会の人間も関係なく雄叫びを上げる。それは何よりも雄弁にハルト達の心に響いた。


「わかりました。そういうことならお任せします。でも、お気を付けて」

「ふはは、それはこちらの台詞。どんな脅威が待ち受けているかわかりませぬ。ゆめゆめ油断なされぬよう」

「ありがとうございます。行こう、イルさん!」

「あぁ、わかった」


 イルは軽く団長に頭を下げて、先に走り出したハルトの後について行く。ハルト達を優先的に狙う様になっているのか、その後を追いかけようとする。しかしそうはさせまいと騎士団が魔物達を足止めする。


「おい、ハルト原因探すって言ってもどこに行くんだよ。現状じゃなんの情報もないぞ。まさか本気で無策ってわけじゃないだろ」

「…………」

「おい、お前本気で——」

「いや、違う! 違うから! 大丈夫。考えはあるよ。って言っても、結局はボクじゃなくてリオンに頼ることになっちゃうんだけど」

「どういうことだ?」

『妾なら、あのゲートがどこに繋がっておるかわかるということじゃ。すでに大まかな場所の見当はつけておる。王都の外じゃがな。そこまで行ければ詳しい場所も——っ! 主様、退くのじゃ!』

「っ!」


 リオンの言葉よりも早く、ハルトはイルを抱えて後ろに跳んでいた。


「ちょ、お前、急に何すんだよ!」

「ご、ごめん!」

『えぇいうるさいのじゃ! それどころではないのじゃぞ! 注意して前を向け!』


 ズンッ、と地面が揺れハルトとイルの前に巨大な魔物が現れる。


「ルゥォオオオオオオオオッッ!!」

「こ、こいつは……」


 紅い体に巨大な剛腕。頭に生える巨大な一本角。ハルトとは比べるべくもないほど巨大な体。その瞳はハルト達を見据えて好戦的に燃えている。

 その名はレッドライノス。個体によってはS級にも分類される魔物だった。






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