第106話 パレード開始
服を着替え終えたハルトはイルと一緒に待機室で始まるのを待っていた。すでの外では音楽隊の演奏が始まっていた。
「始まったね」
「そうだな。でもオレ達が出るのはもう少し後だ。まだしばらくはこの部屋で待機だ」
「暇じゃのう」
待っているのが退屈なのかリオンは待機室のソファでぐだっとしている。
「父さん達ももう外にいるのかな」
「さっきパールが案内してたからな。今頃外で音楽隊の演奏聞いてるだろ」
「ふふ、さきほど主様の正装を見て大層喜んでおったからのう」
着替えた後、ハルトは一度ルーク達に会いに行った。ハルトの正装を見たルークとマリナはそれはもう喜んだ。マリナなどハルトの恰好を見て涙ぐんでしまったほどだ。ずっとリリアの背に隠れているだけだったハルトの成長を見て嬉しかったのだ。それはもちろんルークも同じで、男らしくなったハルトに喜びを隠しきれていなかった。
シーラもハルトのことをカッコいいともてはやし、リリアに代わって写真を撮り続けていた。ユナも一言だけ「悪くないんじゃない」と言った後赤くなった顔を隠すためにずっとそっぽを向いていた。
「よかったのう主様。みなに褒められて」
「うん。嬉しかった……かな」
「お前のご両親は優しそうな人たちだったな。羨ましいよ」
「うん。優しいけど……怒ると怖いんだよね。母さんとか特に」
「お前でも怒られるようなことあるのか?」
「もちろんあるよ。怖しちゃったものを隠したりした時とかにね」
「お前でもそんなことするんだな。そういうの正直に言うタイプだと思ってたよ」
「それは買いかぶり過ぎだよ。悪いことしたときに隠そうとしたこと何回もあるし。まぁボク隠し事下手だからすぐにバレちゃうんだけど……」
「あははっ、だろうな」
「のう主様よ。リリアも怒られることがあるのか?」
「うん、姉さんも怒られたりしてるよ。っていうか、姉さんの方がいっぱい怒られてるかな」
「なんと、そうなのか」
「ボクにベタベタしすぎだーってね。母さんは《魔法使い》のはずなんだけど、すごい力で姉さんのこと掴み上げたりするんだ。さすがの姉さんも母さんには勝てないっていうか……母さんに怒られると言うこと聞いてたよ」
「ふふ、あのリリアのそんな一面があるとはのう。良いことを知れた」
「あのリリアでも親には勝てないってことか」
「まぁそれで姉さんが懲りるようなことがあったかって言われたらそんなこともないんだけどね。えっと……イルさんのご両親ってどんな人なの?」
「オレか? そうだな……どんな人たちなんだろうな」
「え?」
「失礼します。そろそろお時間ですので、ご準備ください」
「あぁわかった。すぐ行く。ほら、行くぞ」
「あ、うん。わかった」
完全にタイミングを逃してしまったハルトはそれ以上イルの両親について聞くことができなかった。何より、イルがこれ以上聞くことを拒む雰囲気を出していたから。
「ま、家族にも色々あるということじゃな。気になるならまたの機会でよかろう。下手なことを聞いて心配事を増やしたまま行くわけにもいくまい」
「……そうだね。今はこっちに集中しよう」
「そういうことじゃ。さ、気合いを入れていこうではないか。ガルがどこからやってこようとも、返り討ちにしてくれるわ」
そう言ってリオンは【カサルティリオ】の中に戻る。ハルトは【カサルティリオ】をしっかり腰に佩く。
(心の準備はできてる。すぐにでも体を動かせるようにしっかりほぐしておいた。後は……今日一日を乗り切って見せる。守り切ってみせる。姉さんのことだけちょっと気がかりだけど……姉さんなら絶対大丈夫。ボクが心配することじゃない。それよりも姉さんが戻って来た時に、ここまでできるようになったんだって誇れるように……よし)
「頑張ろう」
ハルトは小さく呟き、イルの後を追って歩き出す。外に近づくにつれて、人々の歓声や音楽の音が大きくなってくる。
イルに追いつくと、そこには見上げるほど大きな馬車があった。パレード用の馬車だ。ハルト達は人々に見えやすいよう、上に乗ることになる。
「最後の確認だ。これに乗ったらもう後には引けないぞ」
「……うん、わかってるよ」
「ならいい。さ、それじゃさっさと行こうぜ」
そしてハルトとイルは馬車に乗り込む。ハルト達の準備が終わったことを確認した教会の人が指示をだし、ゆっくりと門が開き始める。
『さぁ皆々様! お待たせいたしました! 本日の主役、《勇者》様と《聖女》様のご登場です!!』
「「「「「「わーーーっっ!!!」」」」」」
それを聞いた群衆のボルテージがさらに一段階上昇する。今まで聞いたこともないほどの歓声に迎えられ、ハルトのパレードは幕を開けた。
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