第73話 『リリア』と『宗司』

 リリアは再び意識の奥底へとやって来ていた。

 そこで見つけたのは以前と同じ、謎の球体に包まれる『リリア』と『宗司』の姿だった。


「まただ……」


 以前と違う点があるとすれば、前にこの謎の空間に来た時よりも自由に動くことができるようになっていたこと、そして球体から伸びる線が以前よりも少しだけ太くなっていたことだ。


「なんなんだろうこれ……」


 自分で自分の姿を見つけるという違和感を覚えながら手を伸ばすと、球体はリリアの手からすり抜けるようにして逃げてしまう。球体から伸び、リリアに繋がっている線も触ろうとするとすり抜けてしまって触れない。


「あぁもう! なんなのこれ!」


 触ろうとしても触れないというのは相当なストレスだ。リリアの体感にして数分間、何度も触ろうとしたがリリアは触れられずにイライラとしていた。以前は突如空間に謎の穴が開き、そこから出ることができた。しかし今はその兆候もない。


「もしかして私……死んでたりしないよね? あの後の記憶ないし……」


 ガイアドラゴンと戦った直後、空から落ちている途中でリリアは気を失った。その後どうなったのか、それをリリア自身が知らない。


「前もここに来たのって死にかけた時だったし……もしかしてあの世……的な? いやいや! それはシャレにもならないから!」


 自分が死んだという可能性にたどり着き慌てるリリア。しかし慌てた所でどうにもならない。なんとかこの空間から出られないかと周囲を探しても何も見つからない。

 その時だった。


『あなたは死んでいるわけではない』

「うひゃっ!」


 自分以外に誰もいないはずの空間で突然声を掛けられたリリアは驚いて飛び上がってしまう。


「だ、だれっ!」


 リリアが慌てて背後を振り向くと、そこには球体に包まれた状態の『リリア』がいた。眠っているはずだったのに、今は目を開いてリリアの目の前にいた。

 リリアの前に『リリア』がいるという状況に、さすがに戸惑いを隠せない。違いがあるとすれば、リリアが碧眼であるのに対してもう一人の『リリア』は燃え盛るような赤眼であることくらいだった。


『誰って言うけど……それはあなたが一番良く知ってるはずでしょ。ハルトの姉……私はただそれだけの存在。それ以上でも、それ以下でもない』

「そうだけど……そういうことじゃなくてさ」

『じゃあなんだったら納得するんだよ』

「っ!」


 再び背後から声が聞こえて振り向けば、そこには『宗司』がいた。その姿はリリアが知る過去の己の姿だ。今の自分と過去の自分、二人から見つめられてリリアは混乱の極致にいた。


『私はハルトの姉』

『オレは姉さんの弟』

『あなた(お前)はどっち?』

「私は……」

『まぁ、どっちでもいいけどね』

『あぁ。どっちでもいいな』

「どっちでもいいってなにそれ」

『だって、オレはお前でお前はオレだ』

『あなたは私で、私はあなた』

「オレで私でって……もうわけわからないんだけど」

『あはは! だろうな。でも、一つだけ覚えておけよ』

「? 何を?」

『私達のこの状態は……決して正しいものじゃない』

「正しくない? それってどういう……」

『ま、そのうちわかるだろうさ。お前が《姉》としての道を進むならな』

『そろそろ時間ね』


 『リリア』がそう言うと、以前と同じ光輝く空間が突如現れる。


『あんまり無茶なことしないでね。その体も無敵じゃないんだから』

『そうそう。オレらの体でもあるんだからな』

「え、ちょっと! まだ話を——」


 そこから先は以前と同じ。リリアの必死の抵抗も空しく、リリアは光の方へと吸い込まれ、そして意識を失った。

 その後、その場に残された『リリア』と『宗司』はジッとリリアが吸い込まれて行った方を見つめ続ける。


『思ったより早かったかな。私が起きるの』

『だな。もう少し寝たままになるかと思ったんだけど』

『私達が思ってるよりもずっと早く、彼女は成長してる』

『でもその心は成長に追いついていない』

『それも時間が解決してくれるって信じたいけど……』

『あいつを取り巻く環境がそれを許してくれるかどうか』

『以前よりも繋がりは強くなってる』

『それだけあいつの力も強くなる』

『混じり合うはずだった私達の魂……この状態は決して正しくない』

『こうなったのはあいつのせいでもあり、オレ達のせいでもある』

『ずっとこのままではいられないけど、今だけは……』

『……そうだな』


 そう呟いて、『リリア』と『宗司』は再び眠りにつくのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る