第69話 再戦、アースドラゴン 後編
【姉弾】。
それはリリアが特訓の中で手に入れた新しい力だった。ユニコーンがアースドラゴンの外殻を貫くために角を使ったように、リリアは指を使おうと考えた。しかし、何度試しても上手くいかなかった。普通に『姉力』で指を強化しても、木を貫くことはできなかった。
行き詰まりかけたリリアだったが、不意に脳裏に閃くものがあった。それは【姉障壁】を利用するというもの。
【姉障壁】を足場にすることができたように、他にも応用ができるのではないかとリリアは考えたのだ。
そしてその結果は期待以上であった。指先にのみ【姉障壁】を展開するという技術さえ習得してしまえば、後は楽だった。
そして出来上がったのが【姉弾】。リリアがアースドラゴンを倒すために生み出した必殺技だった。
□■□■□■□■□■□■□■□■□
「——【姉弾・穿】!」
リリアの渾身の一撃がアースドラゴンに突き刺さり、その巨体が浮き上がる。
「———ッッグルアァアアアアアッッ!!」
問題なかったはずの一撃、受けきれるはずだった一撃。しかしアースドラゴンの予想を覆してリリアの一撃はアースドラゴンの肉体を貫いた。
その衝撃は、痛みは今までアースドラゴンが生きてきた中で知ることのなかった痛み。アースドラゴンは痛み以上に混乱を極めていた。
——知らない、こんな攻撃は知らない。なぜオレの肉体が貫かれる。なぜ奴のオレは血を流している……なんだこいつは、なんなんだこいつは!
思わず後ろに下がってしまうアースドラゴン。
アースドラゴンは自分よりもはるかに小さく、力も劣る存在であったはずのリリアに確かに恐怖を抱いてしまっていた。
「あなた……私のことを恐れたわね」
アースドラゴンの内に湧き上がった恐怖の感情。それをリリアは感じ取っていた。アースドラゴンの内にあった防御に対する自信、それを今まさに打ち砕かれたのだから恐怖しても無理はないのかもしれない。
しかし、平静を装うリリアであったが、その内心は決して余裕があるわけではなかった。
(今の一撃で決めれなかったのは最悪……右腕、折れてはないけど……あんまり無茶はできないかな)
アースドラゴンの外殻を打ち破ったリリアの一撃。リリアはその一撃で決着をつけるつもりだった。アースドラゴンの心臓を狙い放った一撃。だがその一撃はリリアが想定した以上に硬かった外殻に阻まれ、心臓を貫くには至らなかった。そしてアースドラゴンにダメージを与えたのと引き換えに、リリアもまた腕にダメージを負っていたのだ。
(【姉弾】……使えるのは後四発かな。使いどころは考えないと。【姉弾・穿】は貫通力はあるけど威力が他よりも劣る。だから仕留めきれなかった。でも貫通力がないとそもそも外殻を貫けないし……あれを使うしかないのかな)
【姉弾・穿】以上の貫通力、そして絶大な威力を誇る別の【姉弾】。しかしそれは多大なリスクを伴う。一撃放てばそれが限界。それ以降リリアは戦うことができなくなるだろう。ゆえにその技は一撃必殺。必中の場面でなければ使えないのだ。
(今、アースドラゴンは私のことを恐れてる。決めるなら今しかない)
精神的優位にたった今しか倒すチャンスはないと思ったリリアはアースドラゴンとの距離を詰めようとする。しかし、その直前にアースドラゴンの異変に気付いてしまった。
「何……」
アースドラゴンの巨体が小刻みに震えている。しかしそれはリリアに対する恐怖からではなかった。それは、変化の予兆。結論から言ってしまえば、リリアはこの時に倒してしまうべきだった。しかけようとリリアが動いた時にはすでに遅く、アースドラゴンの変化は始まっていた。
人間に、リリアに追い詰められたことによる屈辱と怒り。そして何よりもアースドラゴンの持っていた生存本能。カイザーコングを喰らって手に入れた力。それらの要素が絡み合い、アースドラゴンはこの局面で新たな力を手に入れようとしていた。
「グオオオオオオオオオンンッッ!!」
一際高く咆哮するアースドラゴン。その咆哮には魔力が込められており、近づこうと走っていたリリアは吹き飛ばされてしまった。
そして、アースドラゴンは変化を終える。
「これは……まさか……」
その変化を見たリリアは驚愕に目を見開く。
アースドラゴンの岩のような外殻がバラバラと崩れ落ちる。その背中から生えてきたのは、巨大な翼。外殻が剝がれたことにより、その体は先ほどまでよりもスリムになっていた。大きさも、一回りほど小さくなっている。それでもリリアからすれば巨大であることに変わりはないのだが。
ギョロリとした大きな瞳がリリアのことを睨む。それだけで心臓が鷲掴みにされたかのような感覚がリリアを襲う。
まるで見違えたアースドラゴンの姿。その身に起きた事象をなんと呼ぶのか……それをリリアは知っていた。
「あぁもう、神様ってのは本当に意地悪みたいね。まさかこのタイミングで……進化するなんて」
進化。それは特定の条件下でのみ魔物に起こる事象。
それはリリアにとって最悪のタイミングで起こってしまった。
アースドラゴンは追い詰められたことによって、翼竜ガイアドラゴンへと進化した。
ガイアドラゴンと対峙するリリアは、緊張の汗が流れるのを感じていた。逃げろ逃げろと訴える本能を無視して、リリアはガイアドラゴンと対峙する。
「もとより逃げ場なんてない。逃げるつもりもない。勝つか負けるか。それしかない……最初は私の負けだった。ムカつくけど、あのユニコーンがこなければ私は殺されていた。今回は私の勝ちだった。あなたは私を恐れた……心の奥底で負けを感じてしまった。だからこれで三度目。進化したあなたと私。どっちが強いか……三度目の正直といきましょう」
「グルオォオオオオオオオンッッ!!」
そして、ガイアドラゴンとリリアはぶつかり合った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます