第27話 ウォルの街にて

 次の日の朝、リリア達はダミナへと向かうための中継地点として王都から転移門でウォルの街へとやってきていた。

 ウォルの街まできたのはリリア、ハルト、イル、タマナの四人だ。本当ならばタマナを除いた三人で来るはずだったのだが、初めての旅ということもあってタマナが案内役としてついて行くことになったのだ。


「はい皆様ー。ここがウォルですよ」

「何度も転移門使ってて思うけど、不思議な感じよね。ここが王都からずっと離れてるなんて思えない」

「確かに転移門使えば一瞬ですからね。でも、王都からこの街まで普通に来ようとしたら馬を飛ばしても一週間はかかりますよ。それくらいには遠いです」

「そんなに……転移門を使いたくなるわけね」

「転移門を開くのも大変なので普段は使いませんけどね」

「今回はよかったんですか?」


 転移門のことについてあまり詳しくないハルトがタマナに聞く。ルーラから王都にやってくる時も転移門を使ったので、それほど大事だとは思っていなかったのだ。


「えぇ。ハルト君がいち早く聖剣を手に入れるためですから。特例として認めてくださったようですよ」

「そうなんですね」

「ま、ハル君のためなんだから当然よね。それはいいんだけど……イル、あなた何してるの?」

「う、うるせぇ……うっ……」


 真っ青な顔色をして口を押えるイル。言い返す言葉にも元気がない。


「はぁ……ハル君の偉大な旅路の最初だっていうのに。まさか二日酔いだなんて」

「あはは……」


 呆れたようにため息を吐くリリアと、苦笑するハルト。

 イルの体調が悪い理由はまさに今リリアが言った通り、二日酔いである。前日の夜、ハルトと別れた後も飲み続けた結果だ。普通であれば怒ったであろうリリアだが、リリアが怒るまでもなくアウラに散々怒られていたため必要が無いだろうと思ったのだ。本音を言えば怒りたいリリアだが、ハルトとイルとも仲良くすると約束しているので一線を越えなければ怒らないと決めている。


「この様子だと今日ダミナへと向かうのは難しそうですね。町長さんへの挨拶だけでもしておきたのですが、イルさんは宿で休んでいていただきましょう」

「うぅ……ヤバい、吐きそう」

「あぁイルさん! ここではダメです、もう少し我慢してください!」


 わたわたと慌てるタマナと、口元をおさえるイルを見てリリアは再びため息を吐くのだった。





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 それから少しして、先に宿をとったリリア達はイルを寝かせて町長のいる場所へと向かっていた。


「ここの町長ってどんな人なのかしら」

「ダンジさんのことですね。昔は王宮で働いていたすごい人ですよ。仕事のできる人って感じです」

「会ったことあるんですか?」

「私神殿の仕事でよく各地に飛ばされたりするので。一度ウォルにも来たことあるんですよ。その時に挨拶だけしたので」

「なるほど。タマナさんも大変なのね」

「それほどでもないですよ」

「そんな人と会うって思うとボクちょっと緊張しちゃうかも」

「大丈夫よハル君。少し挨拶するだけだから」

「そうなんだけどさ。あんまり偉い人と会うことなんてないから」

「ハルト君とリリアさんなら問題ありません。さ、もうすぐ着きますよ」


 そこから少し歩くと、ひと際大きな建物だリリア達の目に飛び込んでくる。さすがに神殿ほどの大きさではないものの、一個人の所有する建物としては十分過ぎるほどの大きさだろう。


「私達の家なんてすっぽり隠れそうね」

「ホントだね」

「ここは特別だと思いますけどね。普通はこんなに大きな館作りませんから」


 リリア達が館の門へと近づくと、門の警備が警戒するように槍を向けてくる。


「何の用だ」

「私達はこういうものです」


 タマナが懐からスッと取り出したのは、アウラから預けられた紹介状だ。それを見た警備はスッと顔色を変えて姿勢を正す。


「し、失礼しました! どうぞお通りください!」

「うむ、くるしゅうない」

「タマナさんの権威じゃないでしょ」

「いいじゃないですか。一度言って見たかったんですこれ」


 そのまま警備に通され、門をくぐると今度はメイドがやって来て応接室へと案内される。


「こちらでお待ちください」

「ありがとうございます」


 そのまま頭を下げて部屋を出て行くメイド。その姿をハルトはボーっと眺めていた。


「どうしたのハル君」

「あ、いや。メイドさんって初めて見たなーって思って」

「なるほど、それでハルト君は見惚れていたと」

「そうなの?」

「そういうわけじゃないよ! ただ綺麗だなって思っただけで……」

「むぅ……」

「ふふ、ハルト君。お姉さんはご立腹みたいですよ~」

「そんなこと言われても……」

「ハル君はメイドが好き。覚えとくね」

「そういうわけじゃないからね!」


 それからしばらく三人で話し続けていると、応接室に扉がノックされてメイドの後に続いて厳格そうな雰囲気を纏った壮年の男性が入って来る。


「待たせてしまったね」

「いえ、お久しぶりですダンジさん」


 タマナに続いてリリアとハルトも立ち上がって挨拶しようとすると、ダンジに手で制される。


「あぁ立たなくてもいいよ。楽にしてくれたらいい。君達のことは聞いているからね」


 ダンジがリリア達の向かいに座る。雰囲気に反して穏やかな話し方にハルトの中にあった緊張感が少しだけほぐれる。


「君が新しい《勇者》だね」

「は、はい。ハルト・オーネスです」

「そう緊張しなくていい。ま、気持ちはわからないではないけどね。そしてそちらが、ハルト君のお姉さんだね」

「リリア・オーネスです。今回は急な訪問をお許しいただきありがとうございます」

「こちらこそわざわざ来てもらってすまないね。本当なら早くダミナまで行きたいだろうに」

「いえ、なかなかない機会ですから。こうした場も大事だと思っています」

「君はしっかりしているな。それで、この後すぐにダミナに向かうのかな?」

「本当ならそうしたいのですが……連れが一人体調を崩しまして、出発は明日になると思います」

「ほう、そうか。であればこの後の予定はないということかな?」

「そういうことになりますが……なにか?」

「一つ頼みたいことがあるのだが……いいかな?」


 そう言ってダンジは不敵な笑みを浮かべた。

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